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思わぬ事態にリョウは己を取り繕うことをすっかり忘れていたが、その素の顔がセオの古い記憶を揺さぶった。
「お前、歳はいくつだ?」
「おれ?十四だけど……」
セオは顎に指を添えながら何やら真剣に考え込んでいる。
「一応聞くが、お前男だよな」
何事かと訝しんでいたリョウは、あまりにも予想外な質問に反応が遅れた。
「そうじゃないと、セオの前で堂々と裸で濡れた体ふいたりしないと思うけど」
セオは気まずそうに目を逸らした。
「セオ?」
「いや、何でもない。ちょっとお前が探している奴に似ていたから聞いてみただけだ」
「“ユキネ”ちゃん?」
「そうだ」
リョウは初めて得たセオの情報に食いついたが、話はここで終わりとばかりに背を向けられる。
セオはすっかり口を閉ざしてしまい、濡れた床を黙々と拭いていた。
*
砂に潜るこの家に陽の光が差すことはない。
代わりに正確に時を告げるのはリビングの掛け時計とリョウの腹時計だ。
セオは正午ぴったりに騒ぎ始めたリョウにサンドイッチを与えると、外へ出るための着替えを取り出した。
「何処かへ行くの?」
「食料調達だ」
強烈な砂漠の太陽に焼かれ過ぎないよう長袖を着込み、バンダナを頭に巻く。
セオはまじまじと見てくるリョウにも厚手のマントを放り投げた。
「歩けるならお前も来い。新都まで行けば何か思い出すかもしれないだろ」
リョウの顔から微笑みが消える。
頬張っていたサンドイッチは急に味をなくした気がした。
脳裏に蘇るのはガラスの部屋から聞こえてきたセオの言葉であり、ついに追い出される時が来たというわけだ。
リョウはそっと息を吸ってから顔を上げ、にっこりと笑った。
「やったぁ!セオとお出かけだ!おれの服乾いたか見てきてもいい?」
セオの了承を得たリョウが軽い足取りで洗面所に入って行く。
ご機嫌に聞こえてくる鼻歌に、セオは内心ホッとしていた。
嘘をつくのは苦手な上に、ごねられてもなだめる自信はなかったからだ。
リョウをこの家に置くのはもう限界だ。
これ以上面倒を見る義理もない。
街へ連れ出し上手くまけば、リョウがこの家に戻ることは二度とないだろう。
「行くぞ、リョウ」
「うん!」
セオは罪悪感を隠すようにバンダナを深く下げたが、そのせいでリョウがどんな顔をしていたのか知ることはなかった。
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