*砂漠と新都

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*砂漠と新都

リョウは熱い太陽が照りつける砂漠のど真ん中で呆然としていた。 「今……今どうやって外に出たの!?」 セオは服の砂を払いながら辺りを警戒している。 「どうやら上手く新都の近くに出たみたいだな。あの出入り口は気まぐれだからな。毎回違う場所に出る」 「そんな出入り口聞いたことないよ!」 数秒前までは確かにセオの家にいた。 リョウは促されるまま通路に入り、最奥に設置された円盤の上にセオと一緒に立たされた。 瞬き一つで景色は変わり、気づいた時にはもう砂を踏んでいたのだ。 微かな浮遊感はあったが、どうやって砂の中を通り抜けたのかすら分からなかった。 「こんな技術見たことも聞いたこともないよ。まるで魔法みたい」 砂に足を取られながらセオの背中を追いかける。 「ねぇ、セオはいったい何者なの?やっぱり砂漠の王様?」 「そんなわけあるか」 「だって砂漠に住んでる人なんて他にいないよ?」 セオは太陽の位置を確認しながら方角を見定めた。 「じゃあ聞くが、人がいない田舎の山に一人だけ誰か住み着いたら、そいつは山の王なのかよ」 「えっ、そ、そう言われると極端だなぁ」 「そうだろ。俺は俺で、他の誰でもない」 なかなかに妙な説得で質問を打ち切られる。 リョウはめげずに話しかけようとしたが、セオの指先がそれを遮った。 「見えてきたぞ。新都だ」 指さす砂地の果てに広がる街はまるで鈍色の海。 空を突く建物の羅列は高度な文明を匂わせている。 人類の叡智が光る巨大な要塞都市、新都(しんと)。 その大きさは近隣の小国をも圧迫し、もはや新都そのものが一つの国と言っても差し支えはない。 砂漠との境目には物々しい石垣が伸び、軍用バギーや巡回する兵士の様子も見てとれた。 リョウは複雑な思いで自分が逃げ出して来た街を見つめた。 「不思議な光景だね。こうやって見ると新都は砂漠と敵対しているみたい」 「実際その通りだ。この砂漠は新都人を牽制している。砂漠がなければ奴らは森にまで手を出すだろうからな」 「砂漠が新都を牽制……?」 リョウが学んだのは砂漠こそが新都の更なる繁栄を阻む弊害であるという真逆の認識だ。 だがこうして視点を変えるとセオの言うことも最もだと思った。 「そっか。じゃあ砂漠はこの地に必要なのかもね」 「邪魔だと思っているのは新都の連中だけだ」 「セオは新都が嫌いなの?」 「……全てが嫌いなわけじゃない。官僚共には反吐が出るがな」 リョウの肩がぎくりと強張る。 新都を睨むセオの横顔をそっと伺うも、セオが振り返るとすぐにパッと笑顔にすり替えた。
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