95人が本棚に入れています
本棚に追加
「それにしてもやっぱり砂漠は暑いね。砂の照り返しがきつい」
「もう少し辛抱しろ。さすがに正面からは入れないからな。サスペルドまで迂回するぞ」
サスペルドは商人の出入りが多い下町だ。
ここだけは砂漠への行き来に制限がされておらず、活気もあるが無法者も多くのさばる港町のような空気感があった。
リョウが砂漠へ飛び出したのもまさにここであり、街の入り口が近づくほどに口数が減った。
「そろそろ何か思い出したか」
セオがさり気なく聞いたが、リョウはお腹に手を当てると拗ねたように唇を尖らせた。
「おれお腹すいた。先に何か食べたい」
「さっき家出る前に食べてただろ」
「甘いものがいい。ドーナツとかパイとか、そういうのもうずっと食べてないもん」
「あのな……」
セオはリョウの我儘に顔をしかめたが、この状況を逆手に取れると判断した。
「分かった。先に買ってやるから外で食べてろ。おれはその間に食料を調達しておく」
「うん、分かった!」
砂を踏んでいた足元が石の道に変わると、リョウは先に駆け出し大きく手を振った。
「セオー、早くぅ!」
そのまま置いていかれるなんて知りもしない元気な笑顔が呼んでいる。
セオはずっと眉間に皺を寄せていたが、リョウが望むままに甘い菓子を買ってやった。
「じゃあ俺は店へ行くからな。大人しく待ってろよ」
「うん、いってらっしゃい」
既に一つ目のカスタードパイをぺろりとたいらげたリョウがにこにこと送り出す。
セオはじっとリョウを見つめていたが、踵を返すと離れて行った。
距離が開く二人の間を沢山の人が通り抜ける。
リョウには誰も彼もが悩みなどないようにヘラヘラ笑い、間抜けなほどに幸せそうに見えた。
セオが店に入るのを見届け、すくと立ち上がる。
「さて、行くかな」
ドーナツが入った紙袋をベンチに置いて大きく伸びる。
笑顔が消えた瞳には、代わりに冷静に冴えた意思が光っていた。
最初のコメントを投稿しよう!