95人が本棚に入れています
本棚に追加
*セオとリョウ
リョウはひんやりとした感触で目を覚ました。
夢から覚めたばかりの瞼が、見慣れぬ天井を見ながら瞬く。
「アイ兄?」
声にしてすぐに気付く。
アイトが生きていたのは、二年前までだということに。
勝手に濡れていた目尻をぬぐい体を起こすと、酷い目眩に襲われた。
「うぅ、気持ち悪い。おれ何してたんだっけ?」
冷たいタオルがおでこからハラリと落ちる。
小作りな部屋を見回していると、ステンレスの扉がキィと音を立てて開いた。
「よぉ、やっと目が覚めたのか」
「……だれ?」
近づいてきたのは見惚れるほど精悍な顔つきをした青年だった。
浅黒い肌にはしなやかな張りがあり、背は高く、物腰は非常に落ち着いている。
だが大人というにはやや若い。
肩で一つに縛られた髪は豊かに黒く、星を乗せたような艶が散っている。
何よりも、青く深い砂漠の空を閉じ込めたような鮮やかな瞳子が、青年を美しく印象付けていた。
「砂漠の王さま……?」
青年がどこか浮世離れして見えたせいか、それとも自分があんな夢を見ていたせいか、脳みそが働く前にリョウの唇が勝手に動いた。
青年が不審気に問い返す。
「何だ?」
「あ、いや、なんでもない。それよりここはどこ?」
「お前何も覚えてないのか?」
ベッドのそばに立つ丸いテーブルに木箱が置かれる。
青年の手がパカリと蓋を開けば、薬品の匂いが鼻先を掠めた。
「見せろ」
「何を?」
「左足首だ」
リョウは小首を傾げたが、素直に掛け布団から足を引っこ抜いた。
最初のコメントを投稿しよう!