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足首には覚えのない包帯が巻かれ、内側から薄く滲んだ血が変色して固まっていた。
青年はベッドに腰を下ろすと手際よく包帯を取り外し、まだ生々しい傷に辛子色の薬を塗りこんだ。
「い、痛い!!なになに!?俺いつこんな怪我したの!?」
「砂狼に囲まれていたんだ。これだけで済んだのなら運が良かったほうだ」
「砂狼?じゃあ、おれ……」
「お前は砂漠のど真ん中で倒れてた。怪我の他にも酷い脱水症状と熱だったんだぞ」
リョウはやっと頭が冴えてきた。
そうだ。
確かに自分は砂漠へと逃げ出した。
「熱はだいぶ引いてきたな。家はどこだ?新都までなら送ってやるよ」
「ここはどこ?俺は今どの辺にいるの?」
新しいガーゼと包帯を手に取った青年の手が戸惑うように止まる。
「ここは砂漠の……砂の中だ」
「砂の中?」
「お前、結構な出血量だったからな。仕方なく俺の隠れ家に入れたんだ」
「隠れ家……!」
リョウのミルクティ色の瞳がきらりと光る。
なんてこった。
ここは新都から家出してきた自分にはぴったりの行き着き場所だ。
「で、お前んちは新都のどこなんだ?生身で砂漠に出たということはヒガのサスペルドを通って来たのか?」
「……ない」
「ん?」
「分かんない」
リョウは急に顔つきを変えると目一杯うるうると潤んだ。
「おれ、どこから来たか分かんない。どうしよう……。おれ、何にも分かんないよぉ!!」
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