*不思議な家

1/4
前へ
/245ページ
次へ

*不思議な家

「よし。まだちょっと痛いけど歩けなくはない」 リョウは壁に手をつきながらひょこひょこと部屋の角を回った。 「それにしても変な部屋だなぁ。窓も電気もないのに明るいなんて」 しかもリョウの動作に合わせるように、眠れば消えて、起きれば点く。 感知している機械も見当たらないのに全くもって不思議だ。 部屋にあるのは丸いテーブルとベッド、それからクローゼットが一つ。 空き部屋のように殺風景だったが、クローゼットにはセオの服らしきものが仕舞われている。 「ってことはここはセオの部屋かぁ。客室がないくらい小さな家なのかな」 顎に手を添え、ぶつぶつと独り言を呟きながらベッドに腰を下ろす。 すると毛むくじゃらが爪先をかすめ、膝に飛び乗ってきた。 「うわっ、なんだ!?」 リョウは反射的に払い除けようとしたが、ニャオという鳴き声に手が止まった。 「え、猫!?どこから猫!?うわぁ本物?新都じゃ絶滅危惧種って言われてるのに」 灰色の毛はもっさり長くてモップのようだが、鼻先を寄せてくる可愛らしさは噂以上だ。 リョウはすっかりこの人懐っこい猫に夢中になった。 「お腹があったかい。お前名前何ていうの?セオが猫とじゃれてるなんて想像できないなぁ」 「あのな」 扉が開き、不機嫌そうなセオが顔を出す。 「お前、それだけ元気なら……」 「あれ、すっごくいい匂い!!肉!?肉だ!!」 リョウは両手を広げて喜びを全身から溢れさせた。 「おれも肉食べたいよぉ!!もうデロデロの病人食は嫌だよぉ!!」 「もう一度熱を測ってからだ」 「大丈夫だって!!肉ぅ!!肉肉肉肉ぅ!!」 渦巻く肉コールがセオを圧倒する。 無事平熱を確認されたリョウはサラダとビーンズスープ、ソースが香る赤肉というとても贅沢な食事にありついた。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

96人が本棚に入れています
本棚に追加