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*不思議な家
「よし。まだちょっと痛いけど歩けなくはない」
リョウは壁に手をつきながらひょこひょこと部屋の角を回った。
「それにしても変な部屋だなぁ。窓も電気もないのに明るいなんて」
しかもリョウの動作に合わせるように、眠れば消えて、起きれば点く。
感知している機械も見当たらないのに全くもって不思議だ。
部屋にあるのは丸いテーブルとベッド、それからクローゼットが一つ。
空き部屋のように殺風景だったが、クローゼットにはセオの服らしきものが仕舞われている。
「ってことはここはセオの部屋かぁ。客室がないくらい小さな家なのかな」
顎に手を添え、ぶつぶつと独り言を呟きながらベッドに腰を下ろす。
すると毛むくじゃらが爪先をかすめ、膝に飛び乗ってきた。
「うわっ、なんだ!?」
リョウは反射的に払い除けようとしたが、ニャオという鳴き声に手が止まった。
「え、猫!?どこから猫!?うわぁ本物?新都じゃ絶滅危惧種って言われてるのに」
灰色の毛はもっさり長くてモップのようだが、鼻先を寄せてくる可愛らしさは噂以上だ。
リョウはすっかりこの人懐っこい猫に夢中になった。
「お腹があったかい。お前名前何ていうの?セオが猫とじゃれてるなんて想像できないなぁ」
「あのな」
扉が開き、不機嫌そうなセオが顔を出す。
「お前、それだけ元気なら……」
「あれ、すっごくいい匂い!!肉!?肉だ!!」
リョウは両手を広げて喜びを全身から溢れさせた。
「おれも肉食べたいよぉ!!もうデロデロの病人食は嫌だよぉ!!」
「もう一度熱を測ってからだ」
「大丈夫だって!!肉ぅ!!肉肉肉肉ぅ!!」
渦巻く肉コールがセオを圧倒する。
無事平熱を確認されたリョウはサラダとビーンズスープ、ソースが香る赤肉というとても贅沢な食事にありついた。
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