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午後の賑わう五月の公園で一人、私は何もすることなくベンチに座っていた。
足元には春風にあたってゆらゆらと揺れる白詰草。
幸せを呼ぶ四つ葉のクローバーなんていうものは当然簡単に見つかる筈もなく、それまで俯いて見ていた白詰草の群集から今度は空を見上げる。
真っ青な雲一つない空は何もない私の未来を表しているようで忌々しく感じる。
これ以上ないほど晴天なのに、私の心には何にも響かない。きっと心も空っぽなせいだろう。
行く先が明るい道でありますように、と明なんて名前を親につけて貰いながらその名前どおりの人生を送ることは出来なかった。
「ああ、死にたい……」
安易な気持ちではない。
いろいろと考えた。
考えたゆえの最終的な判断が死にたいという気持ちだった。
「もったいないなー。そんな健康な身体があるのに」
振り向くと、そこには五月なのに冬物の黒いコートを着た怪しげな中年男性が立っていた。
ベンチの隣に設置されている自販機で買ったんだろう、男の右手には缶ジュースが握られている。
「となり、失礼するよ」
よいしょ、と声を出し男は私の許可なく隣に座った。
「…………」
お互い口を開くことはせず、しばらく沈黙が続く。
隣を盗み見すると、男は車椅子に座る少女を見つめていた。少女は親に車椅子を押されて散歩を楽しんでいる。
私はそれを心底どうでもよさげに見る。
「何か人生に不満でもあるのかい?」
男が私に質問をしてきた。
「……別に。あなたには関係ないでしょう」
ややあたりが強くなってしまったが部外者に余計なことを詮索されたり、ましてや説教なんてされたくない。
しかし、男の口から出た言葉は私の予想を遥かに超えるものだった。
「死ぬ前に、君のその健康を売ってみない?」
「……は?」
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