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謎の男は続ける。
「君の健康な身体を病で困っている人たちに提供するのさ。君は多くの人に感謝され莫大な報酬を手に入れるだろう」
意味のわからない話をする男。ベラベラと喋る口を閉じる気配を見せない。
「億万長者も夢じゃない。が、ここが話のポイントになる」
「…………」
男はわざとらしく咳払いをする。
結構もったいぶるな。
「健康な身体を売るってことは売った取引先相手の病気を買うことになる。トレードさ。それでもかまわないってならやってみないか? まあ、君にとってお金なんてどうでもいいだろうけれど、どうせなら人の役に立って死んだ方が世の為だろう?」
挑発的に言う男に私は苛立ちを覚える。
しかし、話の本題はそこではない。
男の挑発に乗るのは止めて、私はイラつきながらも冷静さを装って答える。
「馬鹿馬鹿しい。そんな都合の良い話があるわけないでしょ」
「おや、信じられないかい?」
質の悪い冗談にこれ以上つきあってられない。
私がベンチから立ち上がり席を外そうとすると、
「用は試しにやってみて判断すればいい」
男はどこから出したのかチケットみたいなデザインの紙で出来た束から一枚を切り取り、チケットをひらひらと振り私に見せつけた。
「健康の売り買いはこのチケットで行う。一人につき一枚。どんな病気のトレードも可能になる。抱えている病の重さは関係ない。一人につき一度きりだから慎重に考えることをおすすめするよ」
といっても健康を売る物好きなんて君ぐらいしかいないだろうけど。
男は嫌味ったらしく笑うと「お手本を見せてあげる」と広場で転んで泣いている男の子の方へ歩いていく。
転んだのだろう。男の子の左膝は擦りむいて血が出ている。
謎の男は男の子といくつか言葉を交わすとチケットを一枚少年に渡した。
程なくすると男の子は明るい顔になり元気に広場をもう一度走り回っていった。
男の子の左膝を見ると傷は跡形もなくなっていた。
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