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その日から私は早いペースで健康を売り続けた。
彼にもっと褒めて貰いたい。
あわよくば彼に見合う私になるため自分を磨きたい。恋は盲目だ。
その為にはお金が必要。お金を得る方法は簡単。
私にはこのチケットがある。
人間とは単純なもので、つい先日まで自分は空っぽで死にたいと思っていた私は森敬吾という存在のおかげで人生の逆転を夢見るようになった。
彼は私の人生を再び照らしてくれる光になった。
チケットには一つ難点がある。
それは健康を売れば勝手に通帳にお金が振り込まれるわけではないということ。
治した相手が感謝の気持ちとして報酬をくれる。もちろん誰もが多くの財産をくれるわけじゃない。
相手によっては全くお礼をくれずタダ働きをした時もあって心底腹が立った。
これを教訓に私は病院などで重い病に苦しんでいる者に声をかけた。
そういう行いをしていたら、
『どんな病も治してくれる天使がいる』
などと噂が広まり私はいつの間にか都市伝説になっていた。
私は私で手に入った札束を豪勢に使い自分の生き甲斐のためにお金を捧げた。
敬吾も私からプレゼントを貰うと嬉しそうに喜んでいた。
人気者の敬吾と仲良くなると他のクラスメイトたちとも交流することが多くなり、私はクラスの中心になりクラスの輪に溶け込むことが出来た。
しかし、楽しい時間は長く続かなかった。
それは皮肉にも生き甲斐である森敬吾によって私の楽しい豪遊生活は崩れ落ちる。
「明、お前最近顔色悪くないか?」
「え?」
敬吾が放ったのは初めて会話をした時と同じ私を心配する言葉だった。
彼はとても優しい人だ。
事情を知らないとはいえ、健康を売って体調を崩している私を気遣ってくれる。
「何か悪い病気なんじゃないか? 病院行って診てもらった方が…… 」
「病院なんか行かない!!」
思わず声を荒くする。
診察なんて出来るわけない。
だからといって自分が健康を売ってるなんて正直に彼に言えなくて。
「ごめん。でも大丈夫だから」
「何が大丈夫なんだよ! お前、俺と関わるようになってから急に体調悪くなってるよな。知ってるんだ。明らかに無理してるだろ!」
彼は畳み掛けるように言う。
「何やってるか知らないけどさ、これ以上明がやつれていくのは見たくない」
嫌な予感がした。
「待って、確かに敬吾くんに内緒にしてることはある。ごめん。でも、私は敬吾くんのためなら多少体調が悪くなっても構わないから……」
焦って言った時にはもう遅かった。
「お前、ちょっと怖いよ」
想いはすれ違い、結局この恋は実らず幸せな時間は儚く散っていった。
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