不健康大富豪

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「明先生またねー」 「うん、またね」  とある総合病院の診察室にて。  午前の診療を全て終えた私はカルテを机に置き、休息がてら院内を散歩していた。  大きなガラス張りの長廊下を歩く。春の陽気が差しこみとても暖かい。  病棟の中からでも良い天気だということがわかる。  廊下の窓ガラスから下にある中庭を覗くと、そこにはリハビリに勤しむ患者さんや看護師さんたちが見えた。  私は中庭とは逆方向の広場へ行き、更にその奥へ進む。  そこには綺麗に手入れされた墓地があった。  辿り着いたのは千羽鶴が供えられた一つのお墓。 「みんながんばっているよ」  私に健康を売った男は二年後にこの世を去った。  私と交換した病気は余命半年という心臓の病も抱えていたのに、男の生きることへの執念は大したものだ。  きっと娘さんが生きろと言っていたのかもしれない。  今頃、娘さんや奥さんと再会できているだろうか。 「これからは私自身の力で命を救っていくから、安心してよね」  墓に向かって一礼し、私は病棟へ帰る。  五月晴れの穏やかな空の下、前向きな気持ちで午後の診療へ向かうのだった。
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