23人が本棚に入れています
本棚に追加
「明先生またねー」
「うん、またね」
とある総合病院の診察室にて。
午前の診療を全て終えた私はカルテを机に置き、休息がてら院内を散歩していた。
大きなガラス張りの長廊下を歩く。春の陽気が差しこみとても暖かい。
病棟の中からでも良い天気だということがわかる。
廊下の窓ガラスから下にある中庭を覗くと、そこにはリハビリに勤しむ患者さんや看護師さんたちが見えた。
私は中庭とは逆方向の広場へ行き、更にその奥へ進む。
そこには綺麗に手入れされた墓地があった。
辿り着いたのは千羽鶴が供えられた一つのお墓。
「みんながんばっているよ」
私に健康を売った男は二年後にこの世を去った。
私と交換した病気は余命半年という心臓の病も抱えていたのに、男の生きることへの執念は大したものだ。
きっと娘さんが生きろと言っていたのかもしれない。
今頃、娘さんや奥さんと再会できているだろうか。
「これからは私自身の力で命を救っていくから、安心してよね」
墓に向かって一礼し、私は病棟へ帰る。
五月晴れの穏やかな空の下、前向きな気持ちで午後の診療へ向かうのだった。
最初のコメントを投稿しよう!