時の指環

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 陽炎丸には天の者がよくわからない。  天の者である女神が地上を護るというのもよくわからない。  地の者は天の者に良いものを求めるが、天の者は地の者に何かを求めるわけではなし、地の者を護ったところで天の者に見返りがあるわけでもない気がしたからだ。  が、目の前の女神は地の人の事で胸を痛め、悲しんでいる。 「女神、ひとついいか」 「何でしょうか?」 「あなたが、人を、この大陸を護りたいと思うのは理由は何だ?」 「……」 「あなたを問い詰めたい意図はない。ただ、わからないのだ。俺の目から見ると、天の者であるあなたと地の者である人間は、まったく違う価値観のもとに立つ存在だ。天の者が地の者を献身的に護り、あなたに何か返って来たものはあったか。俺には何故女神がそこまで地の者に心を砕こうとしているのかがわからない。人には手を貸しても良い種類の人間と、与えれば与えるだけ、強欲に、尊大になって行く種類の人間とがいる。それをひと括りに、人だからと万人を救おうとしては、女神の手に余る者は幾らでも出て来る」 「──陽炎丸」 「迦陵様はそのことで悩んでおられた。人を良く見ようとする目は、時として、災いの芽を摘む勘を鈍らせる。だが歪みへの大きな粛清は民を暴動へと突き動かす。民も己を省みる者ばかりではない。この世の荒れようは己の歪みも一因にあり、そうさせているのだと思う者はよほど人間が出来た者だけだ。そして、断罪と赦しの使いどころを誤れば、人は采配する者を疑い、我こそが義なりと誰も彼もが声高に主張し始める。女神、あなたの今護りたいものは何だ。人か、義か。人と義は同義語ではない。何故なら人は不義である者は少なくはないからだ」 「私は──」  明鈴は星のレプリカに見る地上の人に心癒される何かを見出していた。その存在に心を寄せるのは当たり前だと。 「私は、人に、この大陸のために恵みをもたらすのが女神の役割だと思っていました。継承者はそのために尽力してくれる人たちばかりでした。けれども、陽炎丸、あなたの言うことが本当なら──私は万人のための女神でいてはならないのでしょうか。公平であってはならないと?」 「公平であるにはその者が女神の義に適う者であるかが要になる。己のために残虐非道の限りを尽くす者をもあなたは人と見ると言うのか。では、何のために天の怒りはある?救いようがない者を戒めるためではないのか」
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