10年後の自分へ

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 「10年後のじぶんへ、元気にしていますか?」  まぁ、ほどほどといったところだろう。  「プレゼントはどうでした? 今おたからかかくになっていますか?」  多分、オークションあたりで1円ぐらいするかな。  そもそもあんなボロボロのカードが売れると思っていたのだろうか。  「貝がらは、ねぇーちゃんにあげるやつだからね、きちんとわたしてね」  あれは自分用ではなかったのか、10年後の僕からプレゼントだよー、とあげたら姉はどう反応するだろうか。旦那との会話のネタにされる気がする。  「10年後ってことは、いま22さいなんだよね。なにしてるかな?」  なんてことないしがない会社員ですよ。  「やっぱり、おしごとは昔からの夢のパイロットかな!!」  ……そんな時期もあったな。とっくの昔に諦めたよ。  「かのじょはきちんと出来ている? まぁ! ぼくならできているよね!」  ……先週振られたよ  「そういえばサッカーは!! いまでもきちんとつづけてる? きっとどこかのせんしゅで、だいかつやくしてるよね!!」  ……やめたよ。  「そういえば、しょうせつは!! ぼくいましょうせつかいているんだ。ハリーポッターみたいなそんなすごい作品をかける人になっているのかな!」  ……  「大学は東大にいってるんだろうな! 東大生ってどんなかんじだった?」  ……  「あぁあと、ぼく今政治にもきょうみがあってさ。せいじかにもなってみたいとおもっているんだけど、ひょっとしてせいじかにもなれてたりする?」  ……    読めない、とても読めたものではなかった。  10年前に僕が書いた手紙は、実に、実に夢と希望にあふれたものだった。自分の将来が輝かしいものと信じて疑わない、そんな。  くだらない  くだらない!   くだらない!!  どれも! これも‼ 夢物語ばっかりだ。  僕は手紙を読んだ後、急にむしゃくしゃした。腹が立った。恥ずかしくなった。そして、手にした手紙を破り捨ててしまった。  破り捨てた手紙を丸めてゴミ箱に投げ捨て、タイムカプセルが入っていたダンボールをけり飛ばし、僕はまた惰眠をむさぼりに布団に向かった。  「くだらないことに時間を使った!」  これ以上、考えてはいけない。  「こんなの読むなら、寝ていた方がましだ!」  湧き上がる気持ちを殴りつけて。  「本当に頭がお花畑だったんだな!!」  そんなはずないと、10年前の自分を馬鹿にするなと何かが叫ぶ。  そんな声にならない応酬を繰り広げるうちに、心がついていけなくなったのだろう。僕の目からは涙が零れ落ちていた。  分かっている。  こんなのはただの八つ当たりだ。  過去の自分に対しての。  自分自身に可能性しか感じていなかったあの時の。  せっかく、諦めていたのに。  せっかく、心の整理がついていたのに。  自分とは、自分が思っているほどすごくなく、自分が思っているほど特別でなく、自分が思っているほど何でもできるわけではない。  あのころ思い描いていたあの夢は、全て切り捨ててきた過去の夢。  才能がないから仕方ない。  努力しても無意味だから仕方ない。  就活に落とされたから仕方ない。  夢を描いては、理由をつけて切り落とし、いつしか夢を見なくなった。  だから10年前の自分からの手紙があまりにも眩しいのだ。無制限に夢を見て、無制限に努力を続け、自分に出来ないことなど、何もないと。  今の僕には、そんなことはできない。  そんな無駄なことを考えるなら、寝ていたほうが百倍ましだ。  僕は言い訳をしながら、布団にもぐりこんだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加