1人が本棚に入れています
本棚に追加
「10年後のじぶんへ、元気にしていますか?」
まぁ、ほどほどといったところだろう。
「プレゼントはどうでした? 今おたからかかくになっていますか?」
多分、オークションあたりで1円ぐらいするかな。
そもそもあんなボロボロのカードが売れると思っていたのだろうか。
「貝がらは、ねぇーちゃんにあげるやつだからね、きちんとわたしてね」
あれは自分用ではなかったのか、10年後の僕からプレゼントだよー、とあげたら姉はどう反応するだろうか。旦那との会話のネタにされる気がする。
「10年後ってことは、いま22さいなんだよね。なにしてるかな?」
なんてことないしがない会社員ですよ。
「やっぱり、おしごとは昔からの夢のパイロットかな!!」
……そんな時期もあったな。とっくの昔に諦めたよ。
「かのじょはきちんと出来ている? まぁ! ぼくならできているよね!」
……先週振られたよ
「そういえばサッカーは!! いまでもきちんとつづけてる? きっとどこかのせんしゅで、だいかつやくしてるよね!!」
……やめたよ。
「そういえば、しょうせつは!! ぼくいましょうせつかいているんだ。ハリーポッターみたいなそんなすごい作品をかける人になっているのかな!」
……
「大学は東大にいってるんだろうな! 東大生ってどんなかんじだった?」
……
「あぁあと、ぼく今政治にもきょうみがあってさ。せいじかにもなってみたいとおもっているんだけど、ひょっとしてせいじかにもなれてたりする?」
……
読めない、とても読めたものではなかった。
10年前に僕が書いた手紙は、実に、実に夢と希望にあふれたものだった。自分の将来が輝かしいものと信じて疑わない、そんな。
くだらない
くだらない!
くだらない!!
どれも! これも‼ 夢物語ばっかりだ。
僕は手紙を読んだ後、急にむしゃくしゃした。腹が立った。恥ずかしくなった。そして、手にした手紙を破り捨ててしまった。
破り捨てた手紙を丸めてゴミ箱に投げ捨て、タイムカプセルが入っていたダンボールをけり飛ばし、僕はまた惰眠をむさぼりに布団に向かった。
「くだらないことに時間を使った!」
これ以上、考えてはいけない。
「こんなの読むなら、寝ていた方がましだ!」
湧き上がる気持ちを殴りつけて。
「本当に頭がお花畑だったんだな!!」
そんなはずないと、10年前の自分を馬鹿にするなと何かが叫ぶ。
そんな声にならない応酬を繰り広げるうちに、心がついていけなくなったのだろう。僕の目からは涙が零れ落ちていた。
分かっている。
こんなのはただの八つ当たりだ。
過去の自分に対しての。
自分自身に可能性しか感じていなかったあの時の。
せっかく、諦めていたのに。
せっかく、心の整理がついていたのに。
自分とは、自分が思っているほどすごくなく、自分が思っているほど特別でなく、自分が思っているほど何でもできるわけではない。
あのころ思い描いていたあの夢は、全て切り捨ててきた過去の夢。
才能がないから仕方ない。
努力しても無意味だから仕方ない。
就活に落とされたから仕方ない。
夢を描いては、理由をつけて切り落とし、いつしか夢を見なくなった。
だから10年前の自分からの手紙があまりにも眩しいのだ。無制限に夢を見て、無制限に努力を続け、自分に出来ないことなど、何もないと。
今の僕には、そんなことはできない。
そんな無駄なことを考えるなら、寝ていたほうが百倍ましだ。
僕は言い訳をしながら、布団にもぐりこんだ。
最初のコメントを投稿しよう!