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「それからはどうなの? 次の人を探すって宣言していったけど」
「縁が無い。まっっっっっっったく無い。
そうね……クリスマスイブに溢れる幸せそうな人間、全員に! テキーラを、最低二杯!飲ませてやりたいくらいには」
彼女は至って真面目そうな表情だが、バーテンダーは今にも吹き出しそうなのを堪えている。
丁度いいタイミングだし、ここは助け船でも出しておこう。
「あー、話の腰を折って悪いけど、サンドリヨンを頼めるかな?」
「わかりました、サンドリヨン……うぅ。はい」
バーテンダーが少し気恥ずかしそうにして、隠れるようにカクテルに取りかかった。何かあったのだろうか。
その反応も計算外だったが、それよりも大きな計算外の問題があった。
隣の席から、いつからか熱視線が送られていたのだ。
「…………ねぇ」
「は、はいっ?」
あんな話を聞かされた後だから、そのつもりはなくとも緊張してしまい、上ずった声で返事をした。
熱く見つめてくる彼女の目は、既にすこし据わり始めている……気がする。
「あなた、彼女はいるの?」
彼女から投げ掛けられた言葉は想像の斜め上で、見事に癒えていない傷を抉ってきた。
「あー……いや、それは……いたにはいたんだけど、つい最近別れましてね……」
話の邪魔をしないよう、カウンターへ静かにサンドリヨンが差し出された。
気遣いは丁寧でありがたい。だがしかし、今のこの状況では、逆に助け船が欲しいところだ。
「へぇ……どうして別れちゃったの?」
「えーっと……方向性の違い、と言うのかな。自分には将来性が無い、という判断をされてね……」
気迫に負けてしどろもどろな返答になってしまう。
そうこうしている内に、彼女は訝にして──
「……バーテンダーさん」
「はい。何かご注文ですか?」
「────テキーラを」
──例の注文をした。
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