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冬は嫌いだ。予定も思考も狂わされる。
──いや、狂ってしまう。この季節は忙しいからか、普段になく雰囲気に流されてしまう。
おまけに今日は、二人で迎える筈だったクリスマスイブだ。憂鬱という他に無い。
「いらっしゃいませ」
とはいえ、物理的な問題はいくらなんでも仕方がないと言えよう。
突然の豪雪で帰宅手段が断たれてしまったのだから、ひとまずは暖を取ろうと手身近なバーへと足を運んだのは、決して独り身の寂しさとかに流されたわけではない。
不幸中の幸いは、このバーがいい雰囲気だということか。
入る前は少しぶっきらぼうな店構えで不安になったが、入ってみると店内の照明は控えめでいて暗すぎない。とても落ち着けそうな空間だ。
「すみません、このお店は素面のままでも大丈夫ですか?」
「えぇ、勿論ですよ」
「ありがとう。ジンジャー・ホット・トディを頼めるかな」
「かしこまりました。コートはそちらの壁のハンガーを使ってください」
バーテンダーは静かに微笑んで頷いた。さらりとした髪の、綺麗な人なのがまたいい。
……いや、アクシデントと見慣れない場所ってだけで、流石に気分が浮かれすぎだ。ここは薄暗いので不鮮明だが、もし初見の感想通りに彼女が綺麗だったとしても、当然のように引く手あまただろう。
気を取り直すためにもコートをハンガーへ掛けてから、カウンター席へと座る。
「はーい。初めてのお一人様」
座ってから、その席は先客と隣接していると気がついた。 突然声をかけられて、バッチリと目があってしまう。
「やぁ。おたくも、お一人様?
──あぁいや、レディにこれは失礼だったね」
「あはは、構わないって。先に言ったのはこっちだし。お察しの通りのお一人様だから、警戒しないで隣に座ってよ」
誘われるままに座る。
髪色も服装も落ち着いている筈なのに、不思議とどこか派手に感じる女性だ。悪く言えば目立ってしまい、良く言えば魅力的──
いやいや、僕は何を言っているんだ。
この店に入ってからというもの、評論家にでもなりきっているつもりなのだろうか。人をあれこれ言えるほど、自分は立派ではないというのに。
ひとまず気持ちを落ち着けなければ。
「お待たせしました、ジンジャー・ホット・トディです」
丁度よく出してくれたカクテルは、砂漠で見つけたオアシスのように思えた。
バーテンダーにお礼を言ってから口に運ぶと、温かいジンジャーとアクセントのスパイスが、雪で冷えた体を芯から暖めてくれる。まるで毛布に包まれて、焚き火にあたっているかのようだ。
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