イブの呪い

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それ(・・)が出てくるまで沈黙が続いた。時間で言えば長くはなかったはずなのだが、体感的には堪え難いほどだった。 「……テキーラです」 「ありがと──また呑ませてくれて。最高」 先ほどの話にあったテキーラだ。これを飲んでからやらかした──問題のお酒。 その惨劇を知っているはずのバーテンダーが注文を許したという事は、彼女が充分に反省していると判断されているからだ……と、取るべきだろう。そうでなければ、これは死亡宣告という事になる。 彼女がテキーラを一息で呑んだ。僕は釣られて固唾を飲んだ。 「ふぅ……二杯目はまだ大丈夫。 それで、さっきの話の続きなんだけど」 「………………は、はい」 何故だろうか。今、僕はバーに居るはずだのに、まるで取調室で事情聴取をされているかのように、胃がキリキリと締まっていく。 ここは観念して、全てさらけ出してしまおう。 「別れたのは、僕に問題があるから……というか、彼女の思い描いていた将来に、僕が相応しくなくなった(・・・・・)んだ」 「えっと、どういう意味?」 「彼女は新しい家庭を願っていたんだ。二人の間での子供を育てることも」 なにも彼女も、僕の事を完全に嫌っていたというわけではない。 ……そう思っていたい自分がいる。 「お互いに結婚も考え始めていたけれど……僕は子供が作れなくなったんだ。だから彼女の夢とは、方向性が合わなくなった」 「原因は……その、聞いてもいい?」 「病気だよ、病気。正確には治療薬の副作用でね。さらに正確には、生物学上は作れるけれどオススメしない(・・・・・・・)っていう状況。 それに加えて、こんなに素敵なバーでもアルコールを頼めなくなったけれど……それでもその薬を飲まなければ、生きてすらいられないからね。避けられない事なんだ」 生きていられない、という言葉は物騒すぎた気もする。もうすこし柔らかい言葉を選ぶべきだったか。 そんな小さな事にこだわっている内に、気付けばレディはすこし俯いていた。
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