3人が本棚に入れています
本棚に追加
それが出てくるまで沈黙が続いた。時間で言えば長くはなかったはずなのだが、体感的には堪え難いほどだった。
「……テキーラです」
「ありがと──また呑ませてくれて。最高」
先ほどの話にあったテキーラだ。これを飲んでからやらかした──問題のお酒。
その惨劇を知っているはずのバーテンダーが注文を許したという事は、彼女が充分に反省していると判断されているからだ……と、取るべきだろう。そうでなければ、これは死亡宣告という事になる。
彼女がテキーラを一息で呑んだ。僕は釣られて固唾を飲んだ。
「ふぅ……二杯目はまだ大丈夫。
それで、さっきの話の続きなんだけど」
「………………は、はい」
何故だろうか。今、僕はバーに居るはずだのに、まるで取調室で事情聴取をされているかのように、胃がキリキリと締まっていく。
ここは観念して、全てさらけ出してしまおう。
「別れたのは、僕に問題があるから……というか、彼女の思い描いていた将来に、僕が相応しくなくなったんだ」
「えっと、どういう意味?」
「彼女は新しい家庭を願っていたんだ。二人の間での子供を育てることも」
なにも彼女も、僕の事を完全に嫌っていたというわけではない。
……そう思っていたい自分がいる。
「お互いに結婚も考え始めていたけれど……僕は子供が作れなくなったんだ。だから彼女の夢とは、方向性が合わなくなった」
「原因は……その、聞いてもいい?」
「病気だよ、病気。正確には治療薬の副作用でね。さらに正確には、生物学上は作れるけれどオススメしないっていう状況。
それに加えて、こんなに素敵なバーでもアルコールを頼めなくなったけれど……それでもその薬を飲まなければ、生きてすらいられないからね。避けられない事なんだ」
生きていられない、という言葉は物騒すぎた気もする。もうすこし柔らかい言葉を選ぶべきだったか。
そんな小さな事にこだわっている内に、気付けばレディはすこし俯いていた。
最初のコメントを投稿しよう!