イブの呪い

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彼女の相手をするにはエネルギーもいるだろうし、今度こそ次の注文をしよう。 意気込んで顔をあげると、バーテンダーは気付かぬ間に、他の接客にあたって離れていた。そちらへ小さく手をあげると、小走りで向かいへと寄ってきてくれた。 「シャーリーテンプルを頼むよ。できれば、炭酸強めで」 「わかりました。 そちらのレディ(・・・)は如何なさいますか?」 レディもまだ飲むのか、と一瞬身構えてしまったが、この様子ならば問題もない気がする。 ……ということは、例の男というのは余程に失礼な人柄だったのではなかろうか。 「もう、茶化してるの? うーん……じゃあ、ダーティ・シャーリーを一杯。あと、少しのミックスナッツと、烏龍(ウーロン)もお願い」 「ハイにしますか? それとも、ストレート?」 「ストレートで」 「はい(・・)。わかりました」 他所でも聞いたことのある話だ。恐らくバーテンダーの間での鉄板ネタなのだろう。思わずにやけてしまった。 レディの表情もほころんでおり、図らずとも気が楽になったようだ。 バーテンダーは慣れた手つきで材料を揃え、カクテルを作り始める。 細かな氷の入ったグラスにレモン・ライムのジュース、グレナデンのシロップを注いだ。片方のグラスには、加えてウォッカも。 炭酸が飛ばないように氷を避けて、グラスのふちからソーダを注ぐ。そして最後には、綺麗な指でマドラーを挟み、丁寧に動かしてステアしていく。 これをただの『作業』と呼んでしまうのは勿体なく思えた。踊っているかのような、描いているかのような芸術性を感じるのだ。 そうして見つめている時間は、あっという間に過ぎてしまった。カクテルが終われば、烏龍茶もミックスナッツもほんの一瞬で用意が終わり、気がつけば注文したものはカウンターに揃っていた。 「お待たせしました。サラトガクーラー、ダーティ・シャーリー、烏龍茶、ミックスナッツです」 「ありがとう。手際があまりに美しくて、思わず見とれてしまったよ」 「ありがとうございます。 シェイカーを使った……多くの人が想像するバーテンダー(・・・・・)の動きでなく、ビルド……こういった地味な作り方でもそう誉められることは、バーテンダー冥利に尽きるというものです」 バーテンダーは今までで一番綺麗な笑顔になった。 この人はきっと、一生をバーテンダーとして生きていくつもりだろう。その事を誇りに思っているから、容姿よりもバーテンダーとしての技術を誉められる方が嬉しかったのであろう。 「うーん……お酒オタク? あぁいや、バーテンマニア?」 ──レディのようにあけすけ(・・・・)に言ってしまえば、そういう印象だ。 「まぁ、そう言われても仕方ないかも。店長に憧れて、この世界に入ったから」
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