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彼女は僕が落ち着くのを待ってから、ぽつりと言葉を溢した。
「孤独に耐えるのは、必要なことだとは思うわ。けど私はもしも……友人だとか家族だとか、大切な人がそういう苦しみと戦っているんだったら、助けになれればなって思う」
「レディは素敵な人だね」
「場酔いしてるの?」
彼女は笑いながら、満更でもなさそうに笑った。
不思議と、彼女がただ笑ってくれたと言うだけで、なんだか嬉しい気持ちになれた。
まるで、『彼女』と付き合い始めた頃のように。
「──まぁ、子供が居なくてもいいって人とか、欲しいけど養子でもいいって人とか……他にもいっぱい、色んな考えの人って、案外いるんじゃない?」
「わかってる、つもりだよ」
「……じゃあさっきから私が、どういうつもりで話をしてるか、わかってる?」
質問の方向性が突然変わったことに驚き、彼女の方を見る。既に二つのグラスは空で、ミックスナッツも下げられていた。
顔色も先ほどまでのような紅潮ではなく、頬だけがわずかに赤く染まっている。
いかにも不機嫌そうに眉間を寄せているのは、僕の鈍感さのせいだろう。
「──わ、悪かったよ。察しの悪い男だった」
「その通り。これ以上アルコールを頼まれたくなければ、反省して」
僕はバーテンダーに声をかけて、二人分の勘定を済ませた。彼女は「私の分は自分で払う」と言ったが、ここまでのお礼と不始末のお詫びということで引き下がってもらった。
「バーテンダーさん、素敵な時間をありがとう。是非とも、また来させてもらうよ」
「今度が一人か二人かは、今夜次第だけどね」
「ふふ……お二方にとって良い時間であったなら、何よりです。雪も少しおさまってきたと聞きましたが、気をつけてお帰りください」
壁にかけていたコートを、彼女へ羽織らせる。
バーテンダーは僕らが見えなくなるまで、深く頭を下げていた。
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