悔いを消すために

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悔いを消すために

……俺、お前のこと嫌いだから、好きだなんて言われても困る。 俺は目の前にいる若葉(わかば)にはっきり言った。若葉は悲しみに表情を歪ませる。俺の良心が痛む。 俺の本心は若葉のことが好きなのだが、照れ臭さもあり、本心とは違うことを口走ってしまった。 我ながら最低だと思った。 俺はそれ以来、後悔の念に苛まれることになる。若葉の顔を見るたびにあの日のことが甦るからだ。受験の忙しさもあり若葉に謝罪することもできずにいた。 卒業式が終わり、俺は裏庭に来た。そこには若葉がいた。 俺の友人である三浦(みうら)に頼んで、若葉に来てもらうようにしたのだ。若葉は俺を見るなり冷たい目を向ける。 まあ、無理もないか。 「……裏庭で私に会いたい人がいるって聞いて来たら片岡くんか」 若葉の声も目と同じく冷めている。俺が原因なのは嫌でも分かる。 「三浦を通したことは悪いと思ってるよ」 俺は静かに言った。 「今更何の用? 私、この後用事があるのよね」 若葉はさっさと話を終わらせたいようだ。 若葉は遠くの高校に合格し、俺自身彼女の連絡先を知らないため、この機会を逃せば会うことは難しくなる。 手には汗が出て、緊張で顔が引きつる。 覚悟を決め、俺は口を開く。 「俺さ、中二の頃に若……いや堀江(ほりえ)に酷い事を言って傷つけたから、謝りたかったんだ」 俺は下の名前ではなく、苗字で若葉を呼んだ。 俺は目を瞑り、若葉に頭を下げる。 「本当にごめんなさい、こんな事で許してもらえるとは思ってないけど……それでも謝らせて欲しい」 俺は声を震わせる。 沈黙が流れる。どれくらい時が経ったのだろう、長く感じる。 目の前から足音がする。若葉が近づいてきてることが理解できる。 「……顔を上げて」 若葉の声が俺の耳に入る。俺はゆっくりと顔を上げた。若葉は複雑な表情を浮かべている。 「片岡くんが反省してるならそれで良いよ……私こそいきなり告白してごめんね」 若葉は穏やかに言った後、謝ってきた。さっきの冷たさが無くなっている。 「何で堀江が謝るんだよ、俺が悪いのに」 「私が一方的に好きになって、片岡(かたおか)くんの気持ちを考えてなかったかなと思ったの」 若葉の声色は少し悲しそうだった。 若葉は気配りができて、優しかった。同じクラスだった時(三年の時は別だった)はあまり会話はしなかったが、俺の好みのタイプの女子だった。 なので若葉が好きだと言ってくれたのは嬉しかった反面、俺は若葉の好意を踏みにじる言葉を発してしまった。 「だから良いの、片岡くんの幸せを願うわ、もう会うことはないだろうけど元気でね」 若葉は薄っすらと笑い、裏庭を去った。若葉の言葉が俺の心を刺した。 俺一人になった裏庭で、俺は泣いた。若葉に謝罪できて良かったと思った。しなかった方が悔いが残ったからだ。 涙を拭い、俺は帰路についた。告白の後悔は学校に置いていくように。 ……さよなら、若葉。 俺は内心で若葉に別れの挨拶をした。
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