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プロローグ
今日は予定がない。
俺はカーテンを開けると、日差しをめいいっぱい浴びながら、空を眺める。雲一つない快晴だ。
「何しよっかなぁ」
俺は体を左右に伸ばしながら、適当に部屋の中を歩くと、引き出しの前で足を止めた。俺専用の引き出し。そう言えば、しばらく掃除してなかったな。
俺は引き出しに手を掛けると、ガラガラガラと小刻みのいい音を立てて引き出しが開く。中は案の定ごちゃごちゃしていて、汚かった。それを見て、俺はため息を吐く。
「まぁ、暇だしゆっくりするか」
俺はそう言うと、引き出しを乱暴に外し、床に置く。自分も流れるように座って、中身をいらないものといるもので分けていく。
———そして、ふと手が止まった。
溺れていてずっと見えなかった、少しくすんだ白色の封筒に俺は戸惑う。
表面には綺麗な文字で「瀬尾宏様」と綴られている。見慣れた文字に、彼女の笑った姿が脳裏を過った。
桜庭藍。
俺が一番手を掛けていた生徒だ。
そんな彼女は2年前、高校を卒業して今は大学で教養学を学んでいるらしい。
俺はそっとその手紙に手を伸ばすと、表面についた埃を払いながら、しばらく彼女の字を見つめる。真っすぐで、洗練された、まさに彼女の性格が存分に出ている文字。
真面目で、周りとなかなか馴染めなくて、でもとても優しくて、周りをよく見ていて、決して目立つタイプでは無かったが、俺の目にはかなり光って見えていた。
俺は便箋を取り出すと、開いて、久しぶりに中身を覗く。あの時、下駄箱から手紙を手にしたときのように、身構えながら。
———拝啓 瀬尾宏様
そんな言葉から始まる彼女の手紙。
その文字に引かれるように、俺の視線は流れていった。
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