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金木犀のラブレター
———拝啓 瀬尾宏様
突然のお手紙、申し訳ございません。
3年2組の桜庭藍と申します。瀬尾先生は1年と2年の時に、担任を担当されています。
覚えていないかもしれませんが、どうか最後まで読んでいただけたらと思っております。
私は今日、この高校を卒業し、4月からは大学で教養学を学びます。
教養学を学ぼうと思った切っ掛けは、瀬尾先生です。瀬尾先生と出会ったのが切っ掛けで、教養に興味を持ち、将来は高校教師になりたいと強く思っております。本当は直接、お礼を申し上げたかったのですが、失礼ながらこちらでお礼をさせてください。
瀬尾先生、本当にありがとうございます。
瀬尾先生を生んでくださったお母様に感謝の言葉しかありません。
本当に、本当にありがとうございます。
少しだけ私のことを語らせてください。
私は、高校生になるまで夢も希望も持っていませんでした。もしかしたら生きることにすら、気力がなかったのかもしれません。
私は周りに馴染むことが苦手です。コミュニケーションが取れず、人前で話そうとすると、緊張してまともに喋ることすらも出来ません。
そのせいで、小学生の頃から周りに友達がいませんでした。
決して、周りを責めている訳ではありません。これは私の問題なのです。
ですが、あまりにも小さい頃から「一人」を経験してしまったせいで、私は夢も希望も生きる気力も失くしてしまったのだと思います。
なので、高校生になっても、それは変わりませんでした。
相変わらず私は周りと馴染めず、結局一人。努力をしない私が悪いのです。
でもそんな私に、先生は真摯に向き合ってくださいました。
今でもはっきりと思い出すことが出来ます。初めて先生と喋ったときの記憶です。
私は先生と話すときにも、パニックになってしまい、なかなか言葉を発することが出来ませんでした。
でも、そんな時に先生は言ってくださいました。
「ゆっくりでいいから。いつまでも待つから」
その言葉が、どれだけ私を支えたのか言葉ではお伝えすることが難しいです。でも、本当に私はこれから何度も先生の言葉に救われると思います。実際、高校3年間、私はずっと先生のその言葉に救われてきました。
覚えていますか? 私、あまりのことにその時、恥ずかしながら涙を流してしまいました。初めてだったのです。そうやって、家族以外の人に待っていてもらえるのは。だから、嬉しくて、つい涙まで。
幸せだと感じました。私は何ていい人に出会えたのだと。
その言葉が切っ掛けで、私は少しずつですが前に進めたような気がします。周りと少しずつ馴染むように努力して、積極的に会話をして。今までの私ではとても考えられないことでした。———
俺は1枚目の便箋を読み終わると、どこか心がじーんとして、温かくなっていく。ここまで人に感謝をされたことが無かったから、何だか慣れなかった。
———ウィーン
近くから掃除機をかける音が聞こえ、俺は一度振り返ると、それからまた便箋に視線を落とす。1枚目の便箋を1番後ろへと持っていき、2枚目の便箋に視線を落とした。
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