金木犀のラブレター

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———先生、覚えていますか? 私、数学が苦手で、よく先生にお世話になっていましたよね。 先生は「何で他の教科はテストでいい点なのに」って自分の指導に不満を持たれていましたよね。本当にすみません。 でも、先生のご指導のお陰で、受験の際では数学で高い点数を取ることが出来ました。 先生から受けた補習の数々はどれも私の宝物です。 先生にとっては嫌だったかもしれませんが、私にとってはとても幸せな時間でした。 とても心地よくて、気を抜いたらそこから抜け出せなくなるような。私なんかがこんなに幸せでいいのだろうかというぐらい、本当に幸せでした。 こんな感情、本当は抱いてはいけないのですが、抱いてしまいました。でもちゃんと先生の話は聞いてましたので、そこはご安心を。 何度も何度も補習ではお世話になりました。 定期テストでは毎回赤点だったので、先生は私を見る度に「またか」と言う顔をしていて、本当に申し訳なかったです。 今でも正直言って数学は苦手です。ですが、教師になった際は数学を生徒たちに教えたいと思っています。自分が苦手だったからこそ、生徒たちの気持ちも理解出来るんじゃないかと思い、数学の教師を目指そうと思いました。 教員研修では、母校で研修したいと思っているのでもしかしたらまた、お世話になるかもしれません。その際は、何卒宜しくお願い致します。 自分語りが長くなってしまいましたね。 気づいたら、2枚目の便箋も、もうそろそろで3枚目になりそうです。 ですが、2枚でちゃんと終わらせますので。どうか、もう少しだけお付き合いいただけたらと思います。 私は先生に感謝をしております。先生と出会って、私の世界は一瞬にして変わりました。 本当にありがとうございます。 先生に出会えて、心から本当に良かったなぁと身に染みて感じております。 本当は直接お伝えしたかったのですが、やはり先生と会話をするのはとても緊張することなので、手紙という形でお伝えさせていただきました。 前ほどは緊張はしませんが、それでもやはり、先生と会うことすら私にとって、緊張でしかありません。 先生を悪く言っている訳ではありません。 これは、私の先生に対しての感情の問題です。 先生、僭越ながら私は、先生のことが好きです。 きっとこの感情は高校を卒業しても、しばらくは消えないと思います。 ずっと、その気持ちに私は蓋をしてきました。 私なんかが先生に好意を抱くなんて、おこがましいのです。それに、先生は先生です。そして私は、ただの生徒。 恋心なんて、決して抱いてはいけないのです。 ですが、卒業式の今日だけは。どうか、先生に好意を抱くことを許してください。 瀬尾先生。 先生のその優しい言葉や人柄が大好きです。 返事はいりません。ただ、最後に私はお伝えできれば良かったのです。 先生は初恋でした。 今までお世話になりました。どうか、お元気で。 桜庭藍——— 俺は長く細い息を吐くと、天井を仰ぐ。 彼女は、一体どんな思いで俺の前で笑って、俺にこの手紙を書いたのだろう。 窓から差した日差しが、俺の左手の薬指をそっと照らした。
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