家族のような仲間達

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家族のような仲間達

仙寺(せんじ)達 清水家のみんなとの旅行から帰って二週間。 夏休みが終わり何度か鳴き方を変えた蝉の声もようやくおさまってきた頃。 「すみませんでした!」 夕方、学校終わりにやって来た勝成(かつなり)は、白いYシャツに学生ズボンの姿のまま店の裏口で頭を下げた。 「何、いきなり」 バイト先の和食居酒屋『平政(ひらまさ)』の板前の格好で空瓶をのケースを運んでいた(ほのか)は両手でケースを持ったまま、呆然とそれを見つめた。 黙り込んで、およそ100度の角度で頭を下げたままの勝成にスタッフリーダーの甲斐(かい)が背後から勝成の首に腕を回し、その背に乗っかるように飛び付くと助け船を出した 「こいつビールの件ずっと気にしてたんだよ」 「...ビール?」 そう呟いて、二週間近く前の出来事を思い出す。バイト中に、タチの悪い客に絡まれ、しまいに仄はその客をビンタしてしまった  あの…… 「ああ。...何で?」 「あの時自分が片付けに行ってれば仄ちゃんが嫌な目に合わなくて済んだんじゃないかって」 きょとん と勝成を見つめる。 甲斐は黙ったままの勝成の代弁を続ける ずっと、勝成が仄に態度が悪かった理由もはっきりしたそうだ。 「こいつ、仄ちゃんを自分の姉ちゃんと 重ねてたんだよ」 訳が分からず、大きく瞬きをした。 「一人息子じゃなかった?」 甲斐は白い歯を見せながら掌を見せパタパタと仰いだ。 「そ。 だけど親が再婚で、連れの姉ちゃんが仄ちゃんに似てるんだって。 んで、その姉ちゃんがなんだけど、先輩の板前と出来てるらしくて」 甲斐は気を利かせているのか世辞をいいながら説明した。 それに首をかしげなから返事をする。 「...はあ」 「つまり、本人に言えないことを仄ちゃんにぶつけてたわけ。本当は姉ちゃんが大好きなくせになっ!」 甲斐がおぶさるように勝成の上体を押し下げ、膝下まで頭を下げられた勝成は耳を 真っ赤にして頷いた。 「本当は素直で可愛いやつだから、 これからもよろしく」 「よろしくって..」 仄が呟くと勝成がようやく顔を上げた。 真っ直ぐ仄を見つめて口を開いた。 「親父達 説得して、夏休み終わってもバイト続けさせて貰えることになりました。 しっかり勉強して『平政』みたいな店、自分で持ちたくて」 「そっか、頑張ってね」 手に載ったままのケースをようやく足元に置き、微笑むと勝成は少し照れ臭そうに言った。 「だったらちゃんとけじめつけろって。 信也さんが」 思わず振り向き、開いたドアから厨房を見る。信也は出汁でも取っているのか、鍋の前で背中を向けている。 「しっかり謝ってから店入れって」 「...。私も言ってなかったっけ」 仄は勝成に向き直ると優しく微笑んだ。 「心配して信也さん呼んでくれたんだって 、...ありがとう」 勝成は頬を染めながら首を振った。 「何赤くなってんだ勝成。   ほら、着替えて仕事!」 甲斐がそう言うと勝成は中へ入っていった。 憎まれ口ばかり叩いていた勝成があれから元気が無かったのはそういうことだったのか と肩を下ろす。 「甲斐さんもありがとう」 続けて入ろうとした甲斐は振り向くと返事をして笑った。
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