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仄を見て、真崎は呟いた。
その少女はうわ言のように何か呟いている。
「ちなみに君が 仙 ...じゃないか」
それを聞いて横目で真崎が信也を見つめると
当たり前だろ と信也はため息をついた。
「全く、両親が美形だと子供はモテて大変ね
」
ため息混じりに仄の布団を肩まで掛けようとして、ふいに止まる。
「...まずいわね」
真崎は呟くとナースコールに手を伸ばし電気をつける。明るくなった病室を素早く聴診器を取り出す真崎に声をかけた。
「どうした」
「感染症ね、傷口から菌が入って熱が出てる。無理に外に出たりするから」
看護師が慌ただしく駆けてきて真崎に指示を仰ぐ。
「君はもう帰んな。ここにいても何も出来ないよ」
真崎がそう言いながら看護師に持ってこさせた薬を注射器に入れている。
確かにその通りだった。
医者でもない、身内でもない自分に出来ることなど有りはしない。
信也は仄を見つめた。
苦しそうに息を切らす仄は何かを掴むように指を伸ばす。
━━━━━━━ 「仙」
信也はそう呟く仄の姿を見て引き戸を抑えていた手を握りしめた。
「藤川さん」
声に振り向くと硯が立っていた。
思わず問いかける。
「あいつは」
「あいつ?」
「八城の彼氏、どこにいる」
硯は小さくため息をついて首を振った。
「京都。修学旅行で、まだ知らせてない」
「そうですか、泊まってるホテルは」
「明日の夕方帰る予定だよ」
「ホテルどこだって聞いてるんだ!」
つい大声で怒鳴ってしまい、信也は顔を背けて舌打ちした。
「...すみません」
「いや、...確か京都のプラザホテルの本館だったはず」
「ありがとうございます」
信也は言うな否や駆け出していく。
その背中を見送ると腕にはめた時計を見た。
22時47分。
まさかバイクで京都まで行く気じゃないよな
そう思いながら硯は携帯を取り出した。
数回のコール。
走りながら耳にあてた携帯に舌打ちする。
それと同時に相手は電話に出た。
「信ちゃん?どうしたの」
「たまには役に立て」
女の声に出るなりそう言うと、信也はバイクに股がり差し込んだ鍵をひねった。
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