4人が本棚に入れています
本棚に追加
訝しげに運転手を見つめながら仙寺はため息をついてスマホを弄る。兄とも弟とも連絡が取れない。
ホテルで馬鹿騒ぎして、教師が入ってきたと思ったら 今すぐ帰れ と言われ、
迎えがきてる とわけの分からぬままホテルを出ると駐車場に全く知らない男が車を停めていた。
やくざのような威圧感のある男は
「お嬢から頼まれた」と言う。
お嬢って誰だ
不信感はありつつも車に乗ったがこの運転手自身何も知らないようだ。
誘拐したところで何もねえしな..
なんて安易に考えながら外へ視線を移した。
外は暗闇で眺めるものも特に無し。
ふと、家にいるはずの少女に想いを馳せた。
あいつ何してっかなぁ..
時間的にもう寝てるかもしれない。
昨日も何度か連絡したが電源が切れてるらしい。また充電器どっかやったのかと諦めた。
足元に置いておいた鞄からお土産の袋を取り出す。大量の八ツ橋の中から掌サイズのぬいぐるみを取り出すと頭を撫でた。
そうだ。寝てる間に枕元に置いてやるか
クリスマスプレゼントを贈る親のようなことを考えて次の日の反応を予想する。
思わずほくそ笑みながらそれを鞄の外側の
穴へしまい込んだ。
「着いたぞ」
運転手がそう言い、車を停めたのは高速のインター。明らかに目的地ではないことは分かっていたが降りるしかない。
渋々 荷物を持って車を降りると背後からバイクの音がした。
振り向くと見覚えのある男がバイクに股がったまま仙寺の顔を確認し、ヘルメットを放り投げた。
「ありがとうございました」
背の高いその男は運転手に頭を下げ、車は軽くクラクションを鳴らすと走り出した。
信也が向き直す。
「...なんであんたが」
その顔を見つめたまま困惑していると信也はハンドルを握り後ろに乗るよう顎で促した。
「黙って乗れ、時間がもったいない」
急にそんな事を言われてもなんの説明も無しに納得するわけがない。しかも相手はこの間自分が仄を目の前で奪った相手だ。
躊躇っていると信也は苛立っているのか舌打ちして仙寺を睨んだ。
「さっさと乗れ、あいつが死んでもいいのか
」
「..仄が」
バイクに飛び乗ると運転手に怒鳴る。
「何があった、仄がどうしたんだ」
「黙ってろ」
信也はバイクを傾け勢いよく走り出した。
夜も更け交通量が減った市街地を風のように走る。何度か声をかけたものの運転手の巨人は一向に話す気配がない。
焦りと不安だけが募る。
あの日、家を出る朝。
仄はやたら寂しそうだった。
寝言で名を呼ばれた。
部屋を出ようとして裾を引かれ引き留められた。
ーーーー「なんだ寂しいのか」
からかい半分で言った言葉だったが仄はいつものように反論はせずに目をそらしただけだった。
照れた顔が見たくておでこにキスした時、仄は寂しそうに笑って言った
ーーーー「うん。ばいばい」
最初のコメントを投稿しよう!