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「なんで」
口からこぼれ落ちた言葉。
なんであの時、気づいてやれなかったのか
いつもと様子が違っていたのは
分かっていたのに
目の前の運転手の背中を睨んだ。
盆 じいちゃんちに行く前の晩、
仄は泣いてた。
こいつにすがりつくように、泣いていた。
それを奪い取るように自分は仄を抱き締めた
「あんたなら」
もしも、自分ではなく
「...あんたなら気づけたのか」
小さな声で問いかけた。
答えを求めてるわけじゃない。
不安に駆り立てられた ただの戯れ言だ。
それでもやはり思ってしまう
「俺じゃなくて、あんただったら」
そこまで声に出すと、バイクは急に傾いて道の真ん中で止まった。
バランスを崩し、足を着く。
驚いて顔を上げると信也が振り向いて真っ直ぐに見つめてた。
「...なんだよ」
思わず口を尖らせ睨むと信也は言った。
「俺じゃない」
「は?」
「俺でも、他の誰でもない。
お前を呼んでる」
「...」
「ずっとお前を呼んでるんだ」
信也はそう言うと前を向き、ハンドルを握り走らせた。
もう仙寺は何も言わずにただ体を支えるために掴んだ座面を両手で握りしめた。
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