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勢いよく病院のロータリーに入ると救急入口の前でエンジンをそのままにバイクを停める。 「三階315号室」 信也が告げると仙寺は勢いよく飛び降り、自動ドアまで走ると慌てて振り向いた。  何してる と言いたげに信也は眉を潜める 「ありがとうございました」 頭を下げると信也は口許を緩ませ、笑った。 「早く行け」 頷いて、仙寺が走り出した。 まだ星が見える空を信也は仰いで、小さく息をつくとバイクを傾けた。 結局、何が起こったのか全く分からないまま 病室のドアを引いた。 オレンジ色の電灯が淡い光を放っていて、 正面に仄の眠ってるベットが見える。 「..仄」 息を整えながら囁くのように名を呼んだ 点滴の管、ベット柵にはベルトがついていて仄の手と繋がっている。 荷物をその場に乱暴に落とすと仙寺は恐る恐るベットに近づき、膝をついた。 横たわる少女の顔を見つめる。 汗で湿った前髪を救い上げ、いつものように耳にかけた。 速さはあるが静かに呼吸して眠っている仄にほっと息をつく。 何だっていい。 今は生きてるこいつが見れたことに心から 安堵した。         「 仙 」 小さく唇が音を出す。 仙寺は思わず仄の左手を強く握った。 「ここにいる」 ベット柵を避け肘をつき、その顔を覗き込むと瞼がゆっくりと開いた。 「大丈夫か」 熱でぼんやりとしているのか仄は首をもたげながら仙寺を見上げた。 「悪い、遅れた」 「...すごい」 仄は呟くと微笑む。 「何が」 「呼んだら...仙が夢に出てきた」 夢だと思っているのだろうか 仄は肩で大きく呼吸しながら正面を向いていた体をしっかりと仙寺に向ける 「何度も..呼んだの..」 「悪かった」 仄は首を振る。点滴とベルトがついた左手、動かせない手の代わりに肩に顔を寄せ ほっ と息をついて笑う。 「..嬉しい」 その言葉に仙寺も口許を緩ませると、 仄は顔を上げ目に涙を溜めた。 「ごめんなさい」  何が そう言おうとした仙寺を遮って仄は矢継ぎ早に何度も謝る。 「もういいから。   お前が無事ならそれでいい」 聞きたいことは沢山あったが仙寺はそう言った。後からだって幾らでも聞けばいい。 自分にそう言い聞かせた。 仄は頷くと枕に頭を沈め天井を見上げる形で大きく息を吐くと一度目を伏せ、にこやかに笑い、呟いた。 「いい夢」 「夢じゃねえって」 仙寺のツッコミに仄はまだ夢を見てるいるように 顔を傾けぼんやりと仙寺を見た。 「..夢じゃなかったらなぁ」 「だから」 笑う仙寺の言葉を遮り仄は目を伏せ続けた。 「最後に...キス..したかった」 一瞬、家を出る前の仄の顔が浮かんだ。 額に口づけした時、仄は残念そうに見上げて 寂しそうに笑ってた。 「....」 空いた手でベット柵を掴んで身を屈める。 寂しそうに今も笑う仄の唇に自分のを重ねた
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