4人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言うとすぐに目を伏せ ごめんなさい と呟く。何度も、何度も、
ごめんなさい と。
目を開けられずに謝る仄の唇を自分ので塞いだ。
もう詫びは聞きたくない。
何も悪いことをしていない仄がなぜこんなに謝らなくちゃいけないのか。
「...許さねえからな」
両手で仄の顔を包み、額をくっつけ仙寺は言った。
「次、勝手に消えようとしたら
許さねえからな」
聞かなくても、予想がついてしまった。
頑固で意地っ張りで弱虫なくせに人に
何も話せない仄が選ぶこと。
好きな奴らに知られる前に黙って消える。
兄貴にも弟にも、俺にも何も知らせずに
元からいなかったことにする事。
そんな事今さら出来るはずがないのに
「二度と馬鹿なこと考えんなよ」
重なった額から仄の体温が伝わる。
失いたくないと心から思う。
「ずっとそばにいろよ」
「...ずっと?」
涙を拭くこともなく、大きな瞳は呆けながら聞き返した。
「 一生 離れんな」
怒った口調の仙寺に仄は恐る恐る視線を下げる。
「...ごめん」
「そこは はい だろ。もう謝んな」
目の前の仙寺の顔は近すぎるせいか
怒っているのかよく分からない。
「..はい」
素直に返事をすると仙寺はもう一度、
頭をきつく抱き締めた。
仄の体温をしっかりと感じる。
その中で、仄は言いづらそうに小さく声を上げた。
「...あと」
「まだ何かあんのか」
「あの..えっと..」
なかなか話し出せずに口ごもると仙寺は腕を放して首をかしげた。
仄は首もとを指差し、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「...ん?」
「着けてろって..無くして..しまって」
ついこの間プレゼントしたネックレスのことらしい。仙寺は溜め息をつくと手を放して立ち上がった。
「ごめん」
踵を返した仙寺に慌てて仄がまた謝る。
「本当にごめんなさい!」
自分に嫌われるのが一番怖いと言った少女は必死に声を上げた。
その鼻先に土産を突きつける。
「...猫?」
目の前に現れた掌サイズのぬいぐるみを仄は呆然と見つめた。
「みやげ。
ちゃんと八ツ橋も買ってきたからな」
「...かわいい」
それを受けとり、思わず頬を寄せると仙寺は満足そうに笑った。
「大事にする」
顔を上げ嬉しそうに笑う仄に仙寺は近くにあった丸椅子を引き寄せ腰かけた。
「お前が笑えばそれでいい」
「ん?」
「前も言ったろ。
お前がいれば他はいらない。
物はいつかは壊れるんだし、また買えばいい。お前の代わりはいねぇんだぞ」
「....」
「なんだよ」
「..本当に怒ってない?」
「...。俺はそんなに怒ってる
イメージしかねえのか」
「...。」
黙り込む仄にため息をついて頬を引っ張った。
「お前にとって俺は何なんだよ」
ふてくされたように呟いて仙寺は手を離すとベットに腕枕を敷き頭を伏せた。
「もう寝ろ。ちゃんとここにいるから」
「...うん」
仄は猫のぬいぐるみを枕の上に置くと仙寺に手を伸ばした。
それを握り、仙寺は目を閉じる。
仄の様子に安心したのか
思いの外疲れていたのか仙寺はすぐに眠りについた。
「...光」
静かに寝息を立てる仙寺に身を寄せて仄は呟く。
「仙は..私の光」
愛おしそうにその顔を見つめ、歌うように仄は言った。
最初のコメントを投稿しよう!