4人が本棚に入れています
本棚に追加
夢
廊下を歩く人の足音で目が覚める。
すっかり明るくなった病室内で重たい瞼を
何度も押し上げ目の前の少女の顔を見た。
左腕を枕に寝ていた仙寺の顔をすぐ横でじっと見つめている。
「..どうした?」
笑いかけると仄は真顔で言う。
「仙の寝顔見てた」
口許を緩ませ微笑む仄は まじまじと仙寺を見つめながら続ける。
「いびき、病院中に聞こえそうだった」
「嘘つけ」
「....おじいちゃんの家のお返し」
少し残念そうに仄は言った。
「なんで..バレたかな..」
「お前顔に 嘘です って書いてあんだよ」
「だから..
信也さんにもバレちゃったのか..」
仄は視線を下げ、呟いた。その頭を撫で体を起こす。
「後で礼言いに行かないとな」
立ち上がり、大きく背伸びをする。
仄は不思議そうに見つめるので仙寺は続けた
「俺を連れてきてくれたのはそいつなんだよ
」
「..信也さんが?」
頷くと仄は そっか と呟いて頬を叩いてしまった右手を見つめた。
いつも守ってもらってたのに..
「..謝らなくちゃ」
仄がそう言うと病院のドアが開いた。
小柄で髪を束ねた白衣の女性がため息をついて片手でドアを押さえながら立っている。
「 面会謝絶 って書いてあるでしょ」
「えっ、すみません。
暗かったし見えなかった」
慌てて仙寺が言うと真崎はもう一度ため息をついて病室内に入ってくる。
「君が 仙? 」
「あ、はい...外科医の清水の弟です」
そう言うと真崎はゴム手袋を取り出して
ちらり と仙寺を見ると無表情で言う
「清水も大変ね、娘と弟が恋人って。
複雑だわ...」
「....。」
「悪いけどちょっと出ててくれる?
スタッフルームにお兄さんがいる」
「あぁ..はい」
返事をすると仙寺は仄に笑いかけた。
それに応え微笑む仄の頭を撫でると仙寺はふとまず部屋を出た。
「...もういいわよ」
ドアが閉まるのを確認して真崎は呟いた。
身を丸める仄にため息をつく。
「ずっと我慢してたの、
ナースコール押せばよかったのに」
血圧を計りながら枕に顔を埋める仄に言った。
「...案外強いのね」
「手術..」
真崎に横目で視線を送り小さく呟く。
「手術..受ける..」
「...無理矢理でもやるけどね。
王子様が来て気が変わった?」
答えない仄の首に手をあてて真崎は息をついた。
「熱は大丈夫そうね。顔色はあまりよくないけど」
蒼白い、血の気の引いた顔を見て言う。
「..仙に」
「ん?」
ぼんやりと枕元のぬいぐるみを眺めながら仄は呟いた。
「怒られちゃう..」
「そっか」
「ずっと..そばに..」
うわ言のように呟く仄に真崎は異変を感じて名を呼んだ。
「いろ..って..」
その声は聞こえずに眠りに落ちるように仄は重くなった瞼を閉じた。
ナースコールを勢いよく押す。
布団を剥ぎ、ベルトを外すと少女の下腹部に手をあてた。傷口から染み出る赤いインクに真崎は眉を潜めた。
最初のコメントを投稿しよう!