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大きな欠伸をしてスタッフルームに向かい
廊下を歩く。入院患者やら看護師が時折
すれ違い様に挨拶をした。
白い無機質な壁に窓からの光が反射して明るく見える。廊下の床はモスグリーンというのだったかくすんだ緑色をしていた。
バタバタと病院では珍しく慌ただしい足音が聞こえ、目前の壁のドアが開いた。
階段へ通じるそのドアから顔を出したのは見間違えるはずのない兄の姿。
「仙?」
驚いた顔で飛び出して来た兄は一瞬立ち止まると眉を潜めた。すぐ後ろについていた看護師は早足で駆けていく。
「悪い、後で説明する」
すれ違い様にそう言う兄の背を困惑しながら見送ると、ベットごと運ぶ医師と看護師が目についた。
さっきの女医。
病室であった医師の顔を見て仙寺はベットに向かって駆け出した。
先にベットに手をかけた硯は状況を聞きながら横たわっている少女を見た。
「しっかりしろ、仄!」
声をかけても 仄の体はぴくりとも動かない腹部の染みは静かに広がっていく。
手術室のドアに一度進路を塞がれ立ち止まると弟が駆け寄り仄を呼んだ。
蒼白い顔に動く気配すらない体に仙寺は手を伸ばす。
ドアが開き、ベットが動き出して宙に浮いた手が触れることは出来なかった。
兄が声をかけ続けながら仄を運んでいく。
自分だけが重い扉に阻まれるのを仙寺はただ見ていた。
「さっきまで普通に話してたじゃねえか」
呆然と、力なくその場に呟いた。
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