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      不思議な夢を見た 男の子が泣いてる。 真っ暗な闇の中、(うずくま)り、膝を抱え泣いている。 「どうして泣いてるの?」 仄は歩みよるとその子は更に激しく泣き出した。急に足元が冷たくなって見ると漆黒の水が足を飲み込んでいく。 沈んでいく足を必死に前へ踏み込むと水は波立ち体も飲み込もうとする。 もがきながらその男の子へ必死に手を伸ばす 男の子は水面で一人沈むことなく泣いていた まるで荒立つ夜の海に浮かぶ月のように ついに顔まで水が かかり仄は目を閉じた。 水の感覚が急に消え、恐る恐る目を開けると どこかの庭だった。 大きな日本庭園。松の木やら楓が枝先を 切り揃えられ幾つか岩が置いてある。 水のせせらぎが何処からか聞こえてきた。 広いお屋敷。幾つもの座敷が連なっているのを眺めながら仄は水の音に誘われるように歩いて行った。 「痛むか?」 やがて小さな池にたどり着く。その手前に男の人が体を屈めているのが見えた。 男性の背中の奥に見える顔や腕に包帯を巻き付けた男の子が涙を拭って頷いた。 「大丈夫、少し時間はかかるがちゃんと治る」 「どうして僕ばかりこんな目に遭うの」 男の子は泣きながらそう言った。 10歳程の少年はどこか見覚えがあった 「どうして僕だけこんな力があるの」 「..透悟」 透悟 そう呼ばれた少年は男性に頭を撫でられ、涙を拭いた。 「父さんも母さんも さだめ さだめ って そんなのいらない」 「...すまない」 「なんで先生が謝るの?」 先生 と呼ばれた男性は透悟を抱き上げると肩に乗せた。 「お前達に託すことは避けたかったんだ」 「託す..って」 「俺で終わりにしたかったんだがな..」 男性がそう言うと赤ん坊の声で振り向いた。 「...父さん?」 仄は振り向いた男性の姿に思わず呟いた。 その顔は仄の知ってる父親より若かった。   「お姫様のお目覚めのようだ」 父はそう言い、幼い透悟を下ろすと縁側に置かれた大きな籠へ歩みより手を入れた。 「透悟」 呼ばれた透悟も足早に籠に近づいていく。 父は中から布で包まれた赤子を抱き上げると透悟に見せた。 「娘の仄だ」 優しく微笑み、縁側に腰かけ父は赤子をあやし出した。ぐずる赤子に指の腹で胸元を叩きリズムをとっている。 「...ほのか」
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