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透悟は恐々(こわごわ)手を伸ばし頬に触れた。 赤子はまだ目が開いてないのか 伏せたままその指に顔を向け、唇が触れた。 「ミルクだな」 父さんは笑って、膝に抱いたまま籠の奥へと手を伸ばす。すぐ隣に置かれたリュックを手に取った。 「先生」 片手で哺乳瓶をとっていた父は透悟の声に 振り向いた。透悟はミトンのついた仄の手に 握られ、驚いた様で声を上げた。 「あったかい」 興奮している透悟に嬉しそうに笑って答える。 「そうだな」 「すごく小さい」 「うん」 「ほのかってすごいね」 目を きらきら させながら言う透悟に父は笑って、頭を撫でた。 「そうだな。 こんなに小さいのに必死に生きてる」 「先生、ほのか が治してくれた!」 「ん?」 目を丸くして透悟は父を見上げた。 「痛くない。何でだろ、ほのかの手に触ったら痛いの消えた..」 「....」 父は眉間に皺をよせ、考え込むように目をそらした。透悟は空いた手で小さな頭を撫でようと手を伸ばす。赤子はお腹が空いてまた小さな声で泣き出した。慌てて手を引っ込め、透悟は父を見上げる。 「ご、ごめんなさい」 謝る必要はないと 父は微笑んで哺乳瓶を娘の口に差し込んだ。 「お腹が空いているんだ」 まじまじとミルクを飲む赤子を透悟は見つめた。小さな口で勢いよくミルクを飲んで、途中で()せ込む。 子犬のような咳に父は慌てることなく、胸に抱き抱えると背中をさする。 「慌てるな、大丈夫だ」 優しく囁く父の姿に仄は涙が出た。 小さくげっぷを吐き出すと気持ちよさそうに赤子は眠る。 「いい子だ」 そう呟いて、それを籠に戻すと愛おしそうに父は娘を見つめ、二人に言った。 「お前達は自分の道を歩いていけ」 「自分の道?」 「そうだ。より多くの人に出会って、支えられて、時には傷ついて。 自分の足で歩いていくんだ。さだめなんかに縛られず、自由に」 透悟は不安そうに父を見上げたが赤子の眠っている顔を見て頷いた。         「先生」 座敷に上がり、荷物を片付けていた父は呼び声に顔を上げる。 透悟は赤子の手に指を伸ばす。 その手は触れてはいけない左手だった。 「駄目だ、透悟触れるな!」 父が慌てて怒鳴り、手を伸ばしてそれを止めようとしたが透悟は赤子の左手に指を伸ばし顔を上げた。 抱き上げた時にミトンが外れていたのか 小さな左手は触れた少年の指を手に取った。 「...僕この子を守るよ。」 透悟の顔は先程泣いて駄々を捏ねていた子供と同じ人物とは思えない程に慈愛に満ちていた。 「ほのかが傷ついたりしないよう、        僕が守る」 透悟は戸惑う父を見上げ、堅く誓った。 やがて父は透悟の頭に手を乗せると言った。 「分かった...仄を頼む」 父は悲しそうに続けた      「仄を守ってくれ」
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