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「 仄 」
誰かに呼ばれ、重い瞼をようやく開けた。
夜なのか 天井の照明が明るく照らしている
ぼんやりと靄がかる頭を傾けると見覚えのある顔が3つ、心配そうに見つめていた。
「仄、分かるか」
年長者が顔を覗き込んで、それに頷いた。
その拍子に目尻から雫が頬を伝い落ちた。
「硯さん」
名前を呼ぶとほっとしたのか表情が和らいで優しく囁いた。
「もう大丈夫だ」
そのすぐ隣にある顔はまだ不安なのか
顔が強張ったまま。
仄は微笑んで愛する人を呼んだ。
「仙」
呼ばれて、きつく瞼を閉じると仄の首に腕を回した。
「バカ野郎..心臓止まったかと思ったぞ」
「ごめんなさい」
いつもの調子で仄が謝るので、仙寺はほっとして腕を離した。
最後に、足元から罰の悪そうな顔で立っている少年を見た。
「祠...ごめんなさい」
「謝らなきゃいけないのはオレの方だよ」
仄は静かに首を振って、もう一度
ごめん と謝った。
「だから..」
祠は呟くと仄の首もとを抱き締めた。
「本当にごめん」
耳元でそう言うと小刻みに揺れる肩を仄が擦った。それが余計に涙を誘って声を上げずに仄に目頭を押し付けた。
祠が落ち着くのを待って、硯が肩を叩く。
ようやく祠は手を放して顔を背け瞼を拭いた
「...夢を見てた」
「どんな?」
仄かが呟くと仙寺が丸椅子を取り出して傾ける顔の正面に腰かけると仄の前髪を掻き上げた。
少しの間考えて仙寺の隣に立つ硯を見上げる
「忘れた。..けど父さんを見た気がする」
「...そうか」
「硯さん」
仄かが呼ぶと硯は口許を緩ませながら血圧を計り始めた。
「ん?」
「嫌なこと言ってごめんなさい」
首を横に振る硯を見つめながら仄は続ける
「部屋のこと」
「..ああ。いや、あれは俺が悪かった」
「違うの、私本当に部屋はもう良かったの
ただ、あの時は素直に言えなくて」
家を出た後、行くところなんて必要なかった
けれど。あの時は こんな娘知るかと憎まれ口を叩かれるような気に止められることのない存在に思われたかった。
「硯さんにちゃんと
休んでほしかっただけなの」
仄が必死に言うので、硯は目を見開いて思わず口を閉ざした。
「あの時はああ言うしか思いつかなくて、
父親面とか本当にひどいこと..」
「...仄」
硯が呼んでも頭を上げない。
「本当にごめんなさい。私のせいで、
倒れるまで..」
目をきつく閉じそう言うと病室のドアが開いた。
「ああ、それ嘘」
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