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病室の時計は18時を過ぎていた。
天井を見上げながら 長い間眠っていたのだと実感しつつ、仄は首元のネックレスを掌で掬った。小さな石がきらきらと光を放つ。
「良かった」
「ん?」
点滴の調子を見ながら硯は仄に目を向けた。
「ずっとつけてろって
言われたばかりだったから」
「...仄」
硯は丸椅子に腰掛けると指を組んで仄を見つめた。顔を傾け、見返す仄に聞く。
「仙が好きか」
思わず顔を赤くしながら、仄は頷いた。
「仄、よく聞いて。医者としてちゃんと
説明しておかなければならない」
「...。はい」
本来ならこれは真崎の役目だった。
先程来たのも様子を見にというのも勿論だろうが、自分に ちゃんと言いなさいよ と念を押しに来たのだ。
硯は仄の顔を見つめたまま、静かに話を切り出した。
「妊娠は恐らくしてたと思う。
しかも多胎妊娠」
「...」
「ただ、どのみち助けられなかった。
一緒に入ってたカテーテルで子宮内傷だらけだったから」
「...うん」
「傷は治るし、また妊娠する事も出来ると
思う」
仄は首を振って枕に顔を埋めた。
硯は仄の手をとって続ける。
「ちゃんと知っておかないと。
仙との将来考えてるなら尚更」
仄は顔を埋めたまま そっと呟いた。
「...ずるい」
「何が」
枕を握り、仄は目を閉じて言った。
「私、仙が好き」
「...うん」
「だけど..ずるいのは分かってる。
でも、でも私将来とか考えてない」
「うん。今すぐってことじゃない。
...だけど仄、ちゃんと聞いて。
君の体の事だ、
知らずにいていいことじゃない」
硯がそう言うと仄は視線を下げたまま、
向き直し頷いた。
「子宮外妊娠といって、通常とは違うところに着床してしまうことがある。
仄の場合、卵巣の手前で着床してるものがあったから片方取らざるを得なかったんだ
だから、妊娠もしづらくなった。」
「...」
「今回の事で流産もしやすくなった
可能性がある」
「...」
「何より自然分娩では出産出来ない」
「...」
ずっと黙って聞いていた仄はぼんやりと硯を見た。もう二度と妊娠なんてしたくないと思っているのに、どうしてこんなことを言うのかわからなかった。
「もし子供が欲しいと思えた時、出来た時は必ず相談すること。俺じゃなくていい。
絶対に一人で悩むな。次に放置したら命に関わるんだからな」
「...」
「仄、二度と軽はずみなことするな。
わかるな。命を生むと言うことはいつだって命懸けのことなんだ」
硯は仄の手をしっかりと握りしめた。
「俺は二度も家族を失うのはごめんだぞ」
「...はい」
ぼんやりと話を聞きながらも仄はしっかりと頷いた。
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