その1:奇妙な区画

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その1:奇妙な区画

 都市郊外の住宅地からほど近い国道沿いに、ショッピングモール「スペース浪原(なみはら)」がある。  週末ともなると家族連れが押し寄せ、広い館内は人で埋め尽くされるのが恒例だった。  スペース(spes)はラテン語で希望を意味する。  利用する人々の希望となり、商業的成功という企業としての希望も実現するという運営側の思いが込められているわけだが、思いはともかく初見でその意味に気づける者はほとんどいなかった。 「スペースって宇宙(space)じゃないんだ?」 「なんだ…てっきり宇宙がテーマの遊園地かと思った」 「ホットドッグうまそう」  オープン当初は、パンフレット片手に半笑いでそう語る客が続出した。  しかし、首都圏以外ではここにしかない店がたくさん入っているということがわかると、客の顔から半笑いが消える。 「ウソでしょ、あのブランドがこんな田舎に…!?」 「このバッグいっちばん新しいデザインだよ! ほしかったんだあ~嬉しい!」 「ホットドッグうまい」
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