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岩渕は再び壁を見る。
備えつけられたアルミ製のドアを開け、中に入った。
照明をつけると、内部の様子が目に入る。直近で撤退した店の内装が、まだそのままだった。
(ああそうそう、これ)
彼は横長のテーブルを見つけると、近づいてすぐそばに立つ。
それは料理を並べて客に取ってもらうバイキング用のもので、表面には大理石のような加工がなされていた。
(店長さん、ニッコニコで紹介してくれたよなあ。きれいだし、掃除も楽だし、何より費用を安く抑えられたって嬉しそうだった)
だが、その店長はもういない。
テーブルに並べられた色とりどりの料理も、それを楽しげによそう多くの客も消えた。
残ったのは、黒い表面にうっすらと積もるホコリだけである。
(夢の跡……)
岩渕は苦い表情を浮かべ、ホコリをじっと見つめた。
その時、背後から声をかけられる。
「こんなところにいたんですか」
「!」
振り返ると、ドアのそばに女性の従業員がいた。
隣には警備を担当する壮年の男性が、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
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