その1:奇妙な区画

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 岩渕は再び壁を見る。  備えつけられたアルミ製のドアを開け、中に入った。  照明をつけると、内部の様子が目に入る。直近で撤退した店の内装が、まだそのままだった。 (ああそうそう、これ)  彼は横長のテーブルを見つけると、近づいてすぐそばに立つ。  それは料理を並べて客に取ってもらうバイキング用のもので、表面には大理石のような加工がなされていた。 (店長さん、ニッコニコで紹介してくれたよなあ。きれいだし、掃除も楽だし、何より費用を安く抑えられたって嬉しそうだった)  だが、その店長はもういない。  テーブルに並べられた色とりどりの料理も、それを楽しげによそう多くの客も消えた。  残ったのは、黒い表面にうっすらと積もるホコリだけである。 (夢の跡……)  岩渕は苦い表情を浮かべ、ホコリをじっと見つめた。  その時、背後から声をかけられる。 「こんなところにいたんですか」 「!」  振り返ると、ドアのそばに女性の従業員がいた。  隣には警備を担当する壮年の男性が、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
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