その1:奇妙な区画

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 女性従業員の丸山(まるやま)は、岩渕に近づくと口をとがらせた。 「支配人がいつまでも残ってるから、私たち帰れないんですよ」 「ああ…すまんすまん。どうにもここが気になってしまって」  岩渕はそう言うと、警備の男性にひょいと顔を向ける。 「トクさんもすまないね。もう出ていくから」 「は、はい」  トクさんこと警備員の徳田(とくだ)は、人の良さそうな笑みを浮かべながらそう返事した。  3人はすぐに区画から出る。 「大体、支配人は勝手に動きすぎなんです。この前も…」  丸山の小言は外に出てからが本番だった。岩渕はそれを聞き流しながら、徳田が戸締まりするのを確認する。その後、そろって閉店後のレストラン街を後にするのだった。  それから数日後、岩渕は丸山からこんな報告を受けた。 「ちょっと小耳にはさんだ…というか、かなり話題になってしまってるんですが」  彼女は顔をしかめながら言う。  話題というのは、年に一度つぶれるあの区画についてだった。 「何か悪いものが取り憑いてるんじゃないか、と」 「それは…パートの人たちが言ってるのか?」
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