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女性従業員の丸山(まるやま)は、岩渕に近づくと口をとがらせた。
「支配人がいつまでも残ってるから、私たち帰れないんですよ」
「ああ…すまんすまん。どうにもここが気になってしまって」
岩渕はそう言うと、警備の男性にひょいと顔を向ける。
「トクさんもすまないね。もう出ていくから」
「は、はい」
トクさんこと警備員の徳田(とくだ)は、人の良さそうな笑みを浮かべながらそう返事した。
3人はすぐに区画から出る。
「大体、支配人は勝手に動きすぎなんです。この前も…」
丸山の小言は外に出てからが本番だった。岩渕はそれを聞き流しながら、徳田が戸締まりするのを確認する。その後、そろって閉店後のレストラン街を後にするのだった。
それから数日後、岩渕は丸山からこんな報告を受けた。
「ちょっと小耳にはさんだ…というか、かなり話題になってしまってるんですが」
彼女は顔をしかめながら言う。
話題というのは、年に一度つぶれるあの区画についてだった。
「何か悪いものが取り憑いてるんじゃないか、と」
「それは…パートの人たちが言ってるのか?」
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