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プロローグ
電脳空間へ浮かんでは沈む仮想の世界。際限の無い需要を満たす
ための供給が、無数の仮想世界を創り出す。夢幻が如き仮想世界
サービスの一つ。VRMMO『エリュシオン』
テンプレートなファンタジー世界そのままに構築された中世風の
町並み、石作の歩道。ありもしないノスタルジーを錯覚させる町
中を、地を踏みしめ歩くのはプレイヤーの代理。個性を豊かにさ
れたゲームキャラクター達だ。
多種多様な見た目をしたキャラクター達の一人、空色の髪をした
青年が視線を少し動かせば、行き先は自らが歩く道の端。
「ねえねえどうかなこれ? 新しいレシピでツバサを染色してみ
たんだー!」
「え、メッチャかわいいっ!」
「でしょでしょ?」
道の端で雑談を楽しむ二人の女性キャラクター。
少々目に厳しい色彩の、ピンクカラーな翼を広げ自分の身体を
少し捻り見せるのは、鳥人なキャラクター。フレンドらしき
冒険者風の女性が『レシピは?』等と問い掛けては雑談に花が咲
き誇る。
「(あれってばー……多分プレイヤーかな?)」
町を歩く青年は気が付かれぬよう。すれ違う誰かに、談笑する誰
かれを盗み見て行く。そうして頭の中で何事かの判定を下しては
歩を進ませる。
「いらっしゃいませ。ようこそ。今日の、御用は何でしょう」
「アイテム売買で」
「アイテム。売買。……ではお取引を───」
中世ファンタジーで如何にもな装いの露天商人と、近代的な格好
の取引相手。
「(あの商人は口調が初期NPCっぽいから、多分NPC? 客の方は
このエリアであの格好なんだから、多分プレイヤーだよな。
あーでも、服装で判断ってのも正確じゃねえか)」
青年がまた頭の中で何事かを思案。
彼は町中で現実からの投影物、或いは仮想の住人を見遣って歩
き。歩く。
「(んー……。公開ステに載ってれば分かっけど、ステ見ないで
見分け付けてぇなぁ。あ、でも公開ステを見ても『ホント』かは
結局分からねーのか? NPCはNPCとしか表示されねえだろうし。
くぁ~!マジで素での見分け技術必要かも知れねえなぁ……)」
その場で腕を組み頭を傾げ悩む姿勢をとる青年。キャラクターの
何人かが彼の脇を通り抜けた頃。
「(ま! とりま明らかNPCだろって奴を見付けて、行動を追っか
けよ! 眼力鍛えれば見分けもつくっしょ!)」
青年は足取りも軽く再び歩き出す。
「(キャラクター観察とか初期も初期に卒業した遊びだってのによ
お。周りのキャラん中に得体の知れないナニカが入ってるって知
っちまうと……ちょっと面白いじゃねえの!)」
町の中で青年が視線を忙しく動かす。楽し気に、愉快そうに。そ
れはまるで、時間と言う概念を希薄にするかの如く───
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