第三十八話 絡むイト

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第三十八話 絡むイト

 ───薄暗い森林フィールドに鳴き声が小さく響く。  鳴いて飛ぶはカラスにも似た怪鳥モンスター。怪鳥は、枝葉で陽  の光を遮る木々の間を飛び行き、一本の大木に“ふっ”と止る。  顔を明後日へと向け、赤い瞳で見遣る先には───三人の人影。  現在。  俺は相棒に腕ごと体を引き寄せられる形で、互いの顔を見つめ合  うかの様に見上げ、見下ろす位置関係でポージング中。傍から見  たられたらちょっと、いや超絶かなり気不味いこの光景。何かの  ネタとか題材とかに成っちゃいそうなそれを。 「お二人は───どう言ったご関係、なのでしょう?」  世界ってよく出来てる物で、気不味い状況にこそ通話やら人が通  りかかったりするものなのよ。今回みたいに。  何でそんな仕組みが作用したか知らないけど、この酷い場面を突  然転移して来たキャラ、リストゥルンさんにバッチリ目撃されち  ゃった。 「別に怪しいご関係でも何でもないから。これー……は、ちょっ  とそのー……」  目だけをリストゥルンさんへ向け話す。  やっべ、口ごもったらもっとそれっぽく見えちゃう! あぁ~何  も言葉が出てこねえじゃん! 状況もそうだけど、今回は相手が  悪いってのもあるよね! だって今俺は相棒に秘密を探られてた  最中で、いやまあもう聞かないって説得できたんだけどね。  んのタイミングで! その秘密に関わる人物が何故か此処に来ち  ゃったんだもん! 流石の俺にもどうしようも出来なくない!?  あーボロを出さない様にしないと、しないと! 言い訳を頭で巡  らせる。そんな俺の隣から。 「ルプスの親友だ」 「(まー素直に親友って言葉出すのねー)」 「あ、ああそうでしたか。ルプス様のご友人なのですね」  相棒の言葉に納得を見せたリストゥルンさんは“特に可笑しな物  を見た。”と言った様子も無い。 「(え? 無いのかよ!)」  と、心でツッコんでしまう程の落ち着き具合。  にっこりとした笑顔で受け入れられてしまうと何だか困る。まる  で俺一人勘違いされるかもと焦ったみたいで逆に恥ずかしいじゃ  んか! てかマジにちょっと自意識過剰だったのかな?  あれ?自分って勘違い野郎?可笑しいのは自分の方? 「(この後の展開は勘違いされて“ワーッ”とかじゃない  の!?)」  世界はそこまでお約束に縛られては無いらしい。俺はアニメ脳だ  マンガ脳だとか考えながら、相棒に未だ握られっぱなしの腕をさ  っさと自分の下へ取り戻す事にした。 「……」 「! ……」 「(コイツ!)」  途中掴む腕に少し力が込められるのを感じたけど、引き止められ  るともっとメンドし、何よりちょっと怖かったので一気に力を込  めて腕を振りほどく。俺にいらん恐怖を感じさすな!  ったく。こんな時に何考えてんだコイツは……。  目覚めちゃうからね、開けたくもない扉が。何の含みもない相棒  の“親友”って発言も、素直に嬉しいと受け取っていいか今後考  えちゃうよ俺。 「お前またNPCと仲良くなったのか。しかもあの酒場のNPC。……  相変わらずだな」  悩む俺へ何事も無かったように話しかけてくる相棒。  どんな神経してんだ? 図太ぇなあと思いながら。 「いやまぁその。こうなっても俺は俺って事でぇー……」  ゲーム内での個人的楽しみ、趣味に相棒が“やれやれ”と言った  表情を見せやがる。くそう、お前なんか友達ストーキングしてた  癖に。まあ趣味じゃないか。……趣味じゃないよな?  今は考えない様にしよう。  それに説明するにしてもこのリストゥルンさんとの関係はちょっ  とど所か、複雑な事情が雁字搦(がんじがら)めに絡んでんだぞ! 当然説明  する訳にも行かね、出来ねえさ。  ここはレジェンドウェポンの愛想笑いで誤魔化しを挟み。リスト  ゥルンさんの方へと体を向けて。 「んで。何か俺に用すか?」 「! ええ。“我らの主”がルプス様とお話になるべき、と仰りま  して。こうして僅かに親交のある私がルプス様をお迎えに来た次  第です」 「(最低なタイミングかと思ったら最高のタイミングだった!  ありがとうロリ神様! 世ぇ~界ってよく出来てるぅ!)」  言われた主ってのはあのロリ神様で間違いない。  お呼びが掛かったって事は、俺の存在を忘れも有耶無耶にもしな  いって事なんだろうね。『忘れてて』と願ったりもしたし『実に  一週間近く放置とか何考えてんだ?』ともキレ掛けたけども。と  りま! 「なー……訳で相棒。俺ってば行かなきゃ行けない感じじゃん?  なんで、この話は一旦置きって事でぇー……」 「分かった。自分は構わない」 「あ、ホントッ? いやぁ~悪いねぇ!」  さっきの尋問から一転。聞くな言ったらホントに素直じゃん。  こんなんあからさまだしもうちょい何かあっかとも思ったんだけ  ど、引き止められないなら俺には都合が良い。  怪しいと思う相棒でも、NPCの前じゃ話せないウラの話は出来  ないのか、それともやっぱし俺の事を思ってログに変な事を残さ  ないようにって配慮だったりするのかな? だ、だとしたら泣か  せるじゃん? ちょーっとストーカーな一面にドン引いたけど  さ。  へへ、流石相棒だぜ。俺は妙に爽やかなモノを心に感じながら。 「んじゃあリストゥルンさん、ポータル開いてもらってもいっす  か?」 「分かりました」  元気良く返事を返してくれたリストゥルンさんが何もない空間へ  向き、向いて、向いたまま……。暫く虚空を見詰めていた彼女が  俺の方に振り返って来ると。 「あのー……“ぽーたる。”とはどうすれば?」 「(そっからか!)」  小声でそんな事を言って来る。おぉ。やっぱお姉さんの困った顔  は素晴ら───っとそうじゃないね今。  美女に助けを求められた俺は“ルンルン”気分でリストゥルンさ  んの側に近付き、同じぐらいの小声で。 「えっと確認なんすけど、此処に飛んできたのってー……。この  前俺がチラっと教えたフレンドへ跳ぶってヤツっすよね?」 「はい。教えて頂いた方法です」  良かった。何か仕様外の力じゃなくて正規の挙動なのね。 「オッケーオッケー。んじゃあ仮想インターフェース、まあメニ  ュー画面っすね。それをまず開いてもらって───」  コンソール画面を一緒に見ながら説明を進める。  彼女は一般NPC───に扮した未知の存在。彼女たちの説明通り  ならスピリチュアルな魂だとかってのを持ってて、馴染みのある  言い方をするなら“肉入り”とか“中身あり”とかかな? 「(まあその中身ってのが俺の知ってる現実とはまた違うって所  が最大のミソよな)」  未だにどっかのチーター集団にでも騙されてるんじゃ? とか微  妙に思わないでもない。でも俺自身が体験しちゃってるリザレク  ションは事実だし、少なからずも納得できちゃう話が聞ける辺  り、多分マジなんだろうなぁと思う。  それはそれで凄いんだけどね、チーターやハッカー何かよりもよ  っぽどさ。んま~NPCってよりNPCのフリしたPCって感じで、  ちょいややこしい存在だよねー。しかも別世界? から此処に来  た関係ってのもまた……。 「(やっぱスケールのデカイ話しなのでは?)」 「えと、こ、こんそーるは……」 「! ああそんな焦んなくていっすよ。前教えたように頭で窓を  イメージしながら、メニュー画面とかコンソールって言葉を思い  浮かべるんすよ。あ、慣れないうちは目閉じてやると成功しやす  いっすよ」 「はい……」  言われた通りを実行するリストゥルンさん。  現実でVRMMOをプレイする環境には二種類ある。一つはヘッド  マウントディスプレイとハンドコントローラーの前時代セット。  コイツはプレイ環境の小回りが効くし価格がお手頃。体とのリン  クが半分以上残ってるのでコントローラーを操作して遊べるから  違和感も少ない。代わりに環境音とか普通に聞こえるし、音声チ  ャットも実際に喋るので、大声出すと壁ドンされる。一番はフル  ダイブと比べ没入感が圧倒的劣り、疑似体験が売りのVRを最大  には楽しめい点だね。  もう一つはヘッドギアと専用のイス、或いはコクーン(一体型)って呼ばれ  るカプセル形式の、フルダイブ特化機器がある。此方は完全に意  識から五感全てを仮想世界へ投影するって言うもので、没入感が  兎に角段違い。ただし操作が完全に感覚頼りで、プレイヤーによ  って習熟速度や熟練度が変わり、肌に合う合わないまで出てきて  しまう品物。もっとも、最後のはプレイするゲームに依るんだけ  どね。  南国バカンスを味わいたいだけのタイプとかだと、大概の人は平  気で、それにスノボやドライブ、セーリングにダイビングって言  うスポーツ体験に成るとまた話が違うんだ。取り分けエリュシオ  ンみたいな冒険物は特にね。だから冒険に出ない、体を大きく動  かしたり感覚を鋭敏にしない、それで楽しめるコンテツも用意さ  れてあるのさ。  んで、俺は生前勿論の事フルダイブ型で遊んでた訳なんだけど。  流石にコクーン型は手が出せなかった……。高えんだ、マジ。  なんで。操作方法の説明がコントローラーのそれとはちと違うの  だけど……。その辺りは問題無いっぽい。 「(だって魂入りってそれ、フルダイブと変わんねぇんじゃない  かな? 勿論意識と魂は別物なんだろうけどさ)」 「あ、あの。……ご、ごめんなさいもたついてしまって」 「! やー気にしないでください。慣れないうちは誰でもそんなも  んすよ。慣れっと感覚ですぐ開けるように成れますぜ」 「はい! ……。………」 「(あ、集中してる。黙っとこーっと)」  操作方法もそうなんだけど彼女、リストゥルンさんはVRゲーム  への姿勢、いやゲーム自体への経験値ってのかなぁ。兎に角最低  限のプレイヤースキルは疎か基本の操作すら危ういって感じなん  だよね、これがさ。ぶっちゃけVRゲー操作の経験が皆無っぽいの  で、VRゲー特有、或いは共通仕様を全く理解も利用できていなか  ったりしちゃってる。  アクションゲーをやったら他のアクションゲーでも何となく操作  できるとか、そんな経験値が彼女はゼロなのだ。  あの出来事の後。その場に居たプレイヤーへイベントと思い込ま  せる事に成功して、ロリっ子との密談も強制に近い退場。其処へ  見送りで付き添ってくれた彼女と少し話し、序と連絡手段確保に  フレンドに成っておこうとした、したたのだけど。 『ふれんど?』『こんそーるを開く、ですか?』  何て、俺が初めてFPSとかTPSって言葉を聞いた時とおんなじ表情  してたからね。基礎も基礎、仮想コンソールの開き方も知らなか  った位なんだよねぇ。そんで良く今までやってこれたなと思う  よ、マジ。 「(アイテムの使用とか装備の出し入れ、その辺りは元の世界と似  た感覚でこなせてらしい。っていやどんな世界だよ。……一々気  にしたら負けか)」  そもそもゲームをプレイする、って前提の感覚も知識も無かった  感じだし。操作が覚束(おぼつか)なくても仕方ないよね。  来た世界がどんな場所か知らないし、余り話しても貰えないのだ  けど、それでも聞いた所。一応ゲームって文化と物はあるらしい  っぽい。ただしこう言ったタイプは無く、もっと原始的なのだと  か。……ロリ神様も言ってたけど、マジでツマンナイ世界なんだ  ろうなぁ。永遠期がどうのって世界はさ。だからVRとかも当然知  らない感じだったんだろう。  んま、そんなリストゥルンさんとは短い間に説明をする(てい)で互  いのフレンド登録を済ませて置いたのだ。グフフ。あ、いや後々  必要だと思ったからね。やましさゼロゼロ。初心者には優しくし  ないとね。特に美人なキャラにはさ! うふッ!  そんな事を考えていると。リストゥルンさんがちょっだけ前かが  み、此方に顔を寄せて来ては。 「あの、お暇があったらまた教えてもらっても、良いでしょう  か? この世界の事を……」 「!? え、えー?もー……ッチロンッスよ! 自分で良いなら  いくらでも!何時までも!」 「本当ですか!? ありがとうございます。  とても楽しみです。……ふふ」  ふぉーーーいい景色、絶ッ美麗! ここでオドったりする俺では  無い! ので、見える彼女の顔ー……から下に広がる景色を楽し  みつつ紳士に振る舞う。そう目線以外、んね!  かー長身なヤツはこれが当たり前なんだろうね。あー俺ってばも  うちょい身長弄っちゃおうかな? でもそうすっと目線を自制で  きる自信がなあ。悩ましい、悩ましい絶景だ。 「(不可抗力判定だからハラスメッセも出ないっしょ。ふほ  ほ!)」 「おい」 「「!」」  いけね! すっかり相棒の事忘れてたじゃん! 「早くポータルを開いたらどうだ? 急用なんだろ?」 「そだねッ。んん、んじゃあ」 「! ……」  俺はリストゥルンさんへ一度小さく頷いて見せる。するとリスト  ゥルンさんは教えられた通りにコンソールを開いて操作し、何も  ないに空間に見事光の渦のエフェクトを、小型のワープポータル  を発生させる事に成功。 「……」  ポータル設置と同時にこちらへ顔を向けて来る。分かる、分かる  なぁその気持ち。 「ッ!」 「! ……」  なので“グッ”と親指を立てちゃいます。  いやぁ喜んでる喜んでる。見た目お姉さんなのにそんな可愛らし  い仕草されると、こう、ゲームってやっぱ良いよねッ! っと違  う違う。これで相棒からの追求を躱せるんだ。頭でそう考えなが  らポータルの前に立ち相棒の方へ振り返っては。 「んじゃ相棒───」  いやに鋭い感性? で俺を追い詰めやがって、バカがよう!オメ  ーは此処に置き去りだぜッッッ! 町までの相乗りもさせねえ!  別れ際に何か暴言をシュートしようとすれば。 「ああ───“是非一緒に行こう”」 「───は!? えちょッおまえッ!」 「キャ!?」  相棒が此方、俺とリストゥルンさんの両肩を掴みそのままポータ  ルへ自分ごと押し込む。光の渦に巻き込まれ俺たちはそのまま森  から何処かへと跳ぶ───  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  ───ポータルを通った先は赤い絨毯の敷かれた、前よりも一層  薄暗廊下。俺は此処に当然見覚えがある、それもそのはずだ、此  処ってばロリ神様の部屋へ通じる通路だもんな。てかもう目の前  がもうその部屋の扉だし! 「あー関係者だから此処に出口作れるんすねー……ってぅおい相  棒ッ!」 「なんだそのノリ?」  僅か後ろに顔を向ければ置いて行くはずだった、予定だった相棒  の姿がバッチリ此処にある。 「何だじゃあねえよ! 付いて来ちゃ駄目でしょうが!」 「お前のペット……じゃ、ない。ないんだ。自分は自分の行きたい  所へ行く。それにお前、自分を置いて行く積りだったろう?」  おっほ。お見通しですかい。 「おいおい。俺がそんな事すると思うかい?」 「思う。目と声で分かる」  簡単に見透かされた。俺こんなにポーカーフェイス上手いのに。  超能力者じゃねーの、君。 「!? 兎に角、此処は不味いんだってばッ!」 「ほう? どう不味か、それは教えてもらえるのか?」 「んひっ!? いや、それは、その。色々だよ!」  あ゛ー上手え言い訳が出てこねえ! 嘘で良いなら五万と浮かぶ  んだけどね、嘘で良いなら!  適当な事を頭で浮かべる間に相棒が一度頷いて見せて。 「言い訳も説明も出来ないか? ……言い訳、いや今のはお上品  な言い方だったな。嘘も詐欺も病的に上手いお前だが、自分には  嘘を吐かない、吐けない事ぐらいは分かっている積りだ。自分は  お前の相棒で親友、だからな」  こここここコイツッ!コイツコイツコイツ! 渋い顔に少しの照  れを入り混じらせるとか! 悪戯っ子な笑みを浮かべるとか!  親友って言うの恥ずかしがるなら言うなよ!!! 「聞くなと言われたからには聞かないさ。お前には。  だから此処に居るであろう主に直接聞かせてもらう」 「ッ……(そだった!コイツログで名前知ってたんだっけか!)」  逃げたい余り、リストゥルンさんから考えが繋がる事を見落とし  た。バカだなー俺ってば!あんなあからさまで相棒が見逃すわけ  無いもんね!  考えと言葉が詰まる。そりゃ言葉が出ねえよ! 今度は“ドギマ  ギ”するって意味じゃなくて“ひやひや”する方でな。何か言わ  ねーと不味い。此処から相棒を遠ざけねーとって思う、けど考え  れば考えるほどに考えは纏まら無い。 「……」  にっこり笑顔を貼り付けて固まっているリストゥルンさん。助け  舟は期待できそうにないなぁ。  んー……もう、もいっか。遠ざけるのも止めるのも無理っぽい  し。こうなった時の相棒は止まらんだろうね。 「良いや、良いぜ。もう相棒も来ちまえ来ちまえ」 「!!? あ、あのルプス様、それはどうでしょうか!」  笑顔で固まっていたリストゥルンさんの顔も流石に崩れた。まあ  部外者OKってのは流石に静観できんよね。とは言っても此処で  何を言われてもメンドウだし、メンドウを相手できるほど元気無  い。今さっき売り切れちゃった。 「あれ? 落ち着いて見てたので、てっきり判断は俺に任せてく  れたのかと思ってました」  議論に参加しなかったのに結論へは口出しは出来ないよん。とそ  れとなくチクッと刺す。  狩りでも飯でも、行き先何処でもつって目的地決まった後のダダ  は許さない。それと一ッ緒。 「そ、それは。私では何も考えが浮かばなくて、ルプス様なら上手  く切り抜けていただけるかと思いまして……」 「いやー期待通り、任された通り切り抜けましたよ」 「え、いや、あのそうでは───」  ナルホドね。静観は俺に期待してたからだったか。と言っても今  の物言いは俺に任せたって意味だし問題ないねと、素知らぬ顔を  決め込む。俺の様子に焦るリストゥルンさんへ相棒が。 「さっきも言ったがルプスは嘘や言い訳、相手をそれらしい言葉  で丸め込むのが病的に上手い。だけど“出来ない事も無理もやら  ない主義”ってのが根っこにあるらしくてな。其処から来るの  か、諦めに一度スイッチが傾くと中々戻って来ない、戻さない。  言い方を替えるなら引き際だと思えば直ぐ引くって所か」 「相棒。それはまさかのフォローなのか?」 「? 勿論だ。自分がお前を貶す訳無いだろ。  今のお前は、どうでにも出来ないと早々に諦めたのではなく、策  を弄して頑張ったが最早無理だと諦めた。努力して無理だったか  らなんだ。と、そう言う事だと説明した積りだ」 「んならさぁ~もっとこう、言い方ってのをもそっと考えよう  ぜ~」  相棒は肩をすくめるだけ。どうせなら弁が立つとか、そんな感じ  に言ってくれても良いのでは? 昔からちょっと言葉が足りない  気がするよ、相棒。 「ちょ、ちょっとルプス様!」 「はいはい。……おおう」  相棒を見詰める俺の腕をリストゥルンさんが掴み、廊下の隅へ連  行されてしまう。どうせなら腕を素晴らしい幻想ごと抱いてくれ  ても良かったのに。……抱かれたら感触って伝わんのかな?ムリ  か……。 「駄目ですよ、駄目ですからね? 彼は間違いなく第一現実世界の  住人で、ただのプレイヤーさんなんですよ? この件に巻き込む  事は、彼の人生にも大きな影響を与えてしまう可能性があるんで  す!」 「うん。それは確かにっすね(第一現実?)」  リストゥルンさんの説明を聞いた俺は、廊下端から背を向けてた  相棒の方へ顔だけを向け。 「相棒。お前こっから先はマジでアンダーなグラウンド、人生とか  にもヤベー影響与え兼ねない闇深~いっぽい事に巻き込まれる可  能性大なんだけど。そんでもマジで良いんかよ?」 「構わない。暗闇の中へお前が行くと言うのなら、自分も暗闇へ同  行するだけだ」 「ん~ナルホドッ」  腕を組み立っている相棒は事も無げに応え。頷きを一回相棒に送  ってから俺は。 「ですって。相棒は構わないそうっすよ」 「え!? いや、そんな簡単に! たた、大変である事を理解して  るルプス様がもっとしっかり食い下がってください!」 「って言われてもなぁ。ぶっちゃけ内容は話せねえし、俺が本意気  でヤバイって警告する事がどれだけの事か相棒は理解してる筈だ  し───」  視線を相棒にチラリとやれば、音声ログが届いてないと思うのに  浅く頷いてみせる相棒。……サウンドロガー(会話盗聴)仕込まれてないか勘  ぐっちゃうなぁ。どっかの機会で身辺メンテした方が良いかも知  れない。まあ今は気にせんとこ。 「───ってなったらもう最終的には自己責任の領域っすね。こ  の先に進んでどうなるにしろ、覚悟はしてると思うんで。  んなら俺もこれ以上は止められないっすよ。相棒も止まるつもり  無いみたいだし。何より」 「?」 「勝手に探られるよりも、俺達の目が届く所で探ってもらった方  が良くないっすか?」  っぽい妥協案を上げてみると。 「それは……」 「そんな訳なんで。すんませんっす」 「……はぁ」  リストゥルンさんが一度深い溜息を零し。 「分かりました。この先の判断は主に委ねる事にします。私はた  だの案内役ですから」  意外。もっとダメだと断られると思っていたのに、リストゥルン  さんは承諾を口にしてきた。……個人では負えない、決められな  い感じだったり? 強く拒否されたらされたで考えがあったのだ  けど……。んまッ、良いっしょ! 「あざっす!」 「ただ、少しだけお待ちください」  そう言うとリストゥルンさんが扉の前で何やら呟き出す。想定外  が起きたんだ、きっと準備が必要なんだろうね。特別な場所っぽ  いし、あそこ。  待てと言われたので、ぼーっとリストゥルンさんの背を眺めて待  つ事に。すると俺の隣へ相棒が静かに近付き。 「悪かった」  突然の謝罪。顔を向けず俺は言う。 「……病的な嘘吐き、ああ詐欺師だっけか? んなのがフォロー  だって事がかよ?」 「真面目に言ってるんだ」  マジトーンな相棒を“チラリ”と見上げれば、相棒も同じ様に俺  へ視線を向けている所。 「此方だってずっとマジな話しだよ。相棒が考える常識以上にこ  っから先はヤベエ話しなんだぜ?」 「そんな事にお前は、ルプスはもう関わっているんだろ?」  頷く。此処まで来ては頷くしか無い。  頷きを確認した相棒の目つき、表情が少し和らいだ気がして。 「なら問題ない。自分はもうずっと昔に決めたんだ。何処であろう  と、何時であろうと、自分はお前が困っている時、必ず駆けつけ  て力になるって事を。そう、決めたんだ」  はー……何でコイツはオンラインだけの知り合いな俺に、こんな  にも恥ずかしい台詞を吐けるんだ? 謎すぎるぞ。 「俺ってさー相棒にそこまでの事。何かしたっけ?」 「ああしてくれた。だがお前にとっては普段の何気ない行動や言動  の一つだったんだろう、だから記憶にも残っていない……」  まるで何処か遠く、暗い場所でも見詰めるかのように目を細め、  何処かに向かったらしい視線が一瞬の後。現在に戻ってきては。 「でもそれで良い、良いんだ。お前の知らないお前の良さ、それを  自分だけが知っているってのも、また面白いと思わないか?」  視点を俺に合わせ薄く笑う相棒。 「……あ、ありがとよ。お節介にも付き合ってくれちゃって」  出てきたのはこれが精一杯。危ないと知ってても巻き込まれに来  た事は、友情をバッチリ感じて嬉しい事だった、けど素直にお礼  は言えねー。一瞬の間が何かこう、ちょっぴり怖かったのだ。  そんな俺のふくざーつな心情なんてカケラも知らない様子で、お  礼へ素直にニヤつきやがる相棒。……何かムカつので俺はそっぽ  を向いてやる。  まあ危険に付き合うとか、男の友情ってヤツなのかも知れない。 「ったく相棒の心配してやったのにこれかよ! 自己責任で巻き  込まれに来やがったお節介野郎にはもう何も言う気はねーなから  な」 「ああそうだな。自分が勝手に決めただけだ。お前と一緒に歩くっ  て事を」 「ッケ!」  本当に危ない、って事は多分無いと思う。だって事はこの中だけ  の話だし。相棒に至っては現実でちゃんと生きてるからね。  それでも……何があるか分からない、本来秘密を知ろうとするっ  てのは何時だってそう言う物だろ? それでも、相棒が一緒に来  てくれるってのは少し嬉しかった。自分勝手な喜びだと分かって  いても、友情を感じずには居られなかった。  こんなに成った俺にも変わらず接してくる事。オレじゃないかも  知れない俺を親友って呼んでくれる事。全部がただ嬉しかった。  ……それにしても。俺が相棒にした事。ってのはなんだろう? 「準備ができました。どうぞ此方へ」 「「!」」  話す俺たちにリストゥルンさんから声が掛かる。  俺たちが扉の側へ近付くと、リストゥルンさんがゆっくりと扉を  開き中へ促してくれる。俺たちは揃って扉の向こうへと踏み入る  事に───  ───踏み入った先。部屋の中は前来た時とほとんど変わってい  ない。強いて言えば明かりが前よりも控えめ? と感じる事ぐら  いだろうか。流石に廊下ほど暗くはないけどね。 「……」  俺と相棒が部屋に入ると背後で扉を閉めたリストゥルンさんが、  俺たちを通り過ぎあの天幕付きベッドへ早足に向かう。 「……」 「……。……」  何やらベッド近くで“コソコソ”と話す様子の後。 「ええはい。ではお二人共此方へ」  ベッドの前へと促される。  隣の相棒はと言えば、室内を仕切りに見回していた。オモロイ物  も無いと思うんだけど、もしかしたら相棒は洋室が好みなのか  も? 何て思いながら俺たちがベッドの前。閉じた天幕前へと並  び立つと。 「んん。あ、あー……」 「「「?」」」 「……良く来ましたね。ルプス、そして冒険者様」 「おい。なんで俺だけ呼び捨てなんだよ。つか声高くね?」  天幕の向こうからの声。それは間違いなくロリ神様の物なのだけ  ど、最後に話した時とは言葉使いも声色も全然違う。てか今発声  練習してなかったか? 「はじめまして冒険者様。わたしはこの館と乙女たちの主、ニル  スと申します」  俺の指摘はスルーされた。気になる喋り方してるクセに。 「へえ。顔も見せずに挨拶とはな……。実に出来た礼儀の持ち主  だ」 「! ………」  相棒の言葉にリストゥルンさんの身体が僅かに揺れた。雰囲気的  に良いもんじゃない感じー。なーんかピリピリしてきちゃった? 「当然でしょう? 此方は貴方を信用していないのだもの。であれ  ば、信用できない相手には妥当な応対でしょう?」 「お、おいおい君たちー。喧嘩腰は良くないな~」 「信用できない? それは此方も同じだ」 「おーい。無視すんなー」  俺はこの手の雰囲気が苦手なんだよ。あー“ギスギス”して来た  んですけどぉ?  でも意外だな。あのロリ神様ならもっとおかしい感じに成ると思  ったんだけどね。態度は酷いが、冷静な対応だとは思う。 「なら帰れば良いじゃない。仕方無しに通しはしてやったが、私は  お前を此処へ正式には招いていない」 「帰りたいが生憎そうは行かない。俺の大事なルプスを面倒に巻き  込んだお前らの下へ一人残してなど、到底な」 「おっと。俺は相棒の物になった覚えは無いぞー」 「よく言えましたね下っ端下僕。そう、そうよ。ソレはもう此方の  物なのです」 「なんだぁ? ロリ神様はまた腹パンして欲しいならそう言え  ー?」  拳を構えると天幕の向こう、ベッドの上で小さく何かが揺れた気  がする。 「腹パン?」 「そ。腹パン。俺が見舞ったのさ」 「……フ」  疑問気に此方を見た相棒に短く説明すると、相棒が鼻で一つ笑  う。それと同時にベッドから“ボスンボスン”と枕でも叩く様な  音が響き。 「───ふう。いいでしょう。わたしの姿を見せた上で話してあげ  る」  言葉が飛び、序に天幕の向こうからあのネコちゃんズが二匹出て  きては、垂れ下がった天幕の紐へと向かおうとする───ので。 「後悔しなさい。このわたしの神々しい姿───」 「おーネコちゃんズ!」  俺は紐へと向かう二匹を捕まえて抱き上げる。はーかわよ。 「元気だったかーネコちゃんズ」 『おお勇敢なる者よ』 『我ら、変わらず奴隷な日々であったぞ』 「マジカー愚痴なら聞こうか?んー?」  あいっ変わらずネコらしからぬ音声だぜ。それでもやっぱ見た目  ネコだからかわいい。 『案ずるな。愚痴は猫友としている故』 『勇士とは冒険譚を是非語り合いたいものだ』 「ねー何時かねー(猫友とな?)」  両手で抱き上げたネコと話す。あぁ~VRゲームってマジ神ゲー。 「あの、ちょっと───」 「おいっ!」  天幕の向こうから一瞬何か聞こえた気がしたけど、相棒の声量に  掻き消されたな。 「な、なんだその、喋るペットは? そんなの居た、か? いやそも  そもキャラデータの数値がおかしいぞ!」 「あは。覗き屋さんなんだから相棒ってば。まあこの子ら多分仕様  外のネコちゃんですし」 「ど、どうやってこんな?」  相棒が珍しく驚いている驚いてる。此処ってばゲームの中だから  ね、喋るペットも珍しくない。けどこんなにも自然に“会話”の  出来る原型動物(オリジン)ペットはまず居ない。  エリュシオン内でのペットはマイサーヴァントとの差別化の為か  皆動物型なのだ。まあそのペットも相槌レベルの事は出来たり、  定型文を喋れたりはする。けどNPCやマイサーヴァントと違い  自然な会話は一切出来ない。全てのペットに例外無く。  理由は差別化、非現実感とか幾らもでも出て浮かぶけど、何故か  対話できるペットの販売、配布も一度として無い。  なのでペットは全般的に意思疎通が曖昧な感じ。その辺リアルっ  ぽくはあるけどね。まあだから驚くのも分かるけど、相棒ってば  多分ペットのデータを仕様外な方法で覗いたんだと思う。薄々思  ってたけど、データ的に見るとやっぱ異質って分かっちゃうのか  ー……。対策考えないとな。  俺が一人納得してる所へ、天幕が外れんばかりの勢いで開き。 「どーだ凄いでしょう! それはわたしの使い魔なのよ!」 「「「……」」」  豪華そうなベッドのフッドフレームから見を乗り出すのは、見る  角度で色彩が替わる不思議カラーな髪をした幼女。皆で出てきた  ロリ神様を見詰め固まっていると。 「じゃなかった。ちょっと、位の高い者には登場にも見せ方って物  のがあるのだけど?」  睨まれる先は此方。 「あ、俺か。すまんすまん。じゃもっかい……」 「そうね。……ってもう無理よ! このッ!」  ベッドの奥へ帰りかけたロリ神様が両手に持ったうちの一つ、枕  を此方に投げ付けてくる。俺は飛んできた枕を華麗に回避し。 「わーるかったって。んん」  あるか分からん喉の調子を整え、現実とは違うゲーム内だけの声  を調整。ロリ神様の隣にかがみ込んで肩でロリっ子を指し示す。  両手はネコちゃんズで埋まってるからね。 「良いか相棒。此方に現れたロリっ子こそがこの館の主で、名前が  ニルスって言うえらーいキャラで重要人物なんだぞ! 控えおろう  って感じ!」 「~~~! そんな雑な説明ならしないでッ!」  体を小刻みに震わせたロリ神様に怒られ頭を枕で叩かれた。  やっぱ声だけちゃんとしてもダメだったか。敬う気ゼロってのも  大変だ。 「名は知っている。イベントの時に姿を見たからな……しかし、  NPCだと思って居たが、やはりプレイヤーだったのか」 「違うわよ。わたしはあんたらプレイヤーと違うの。もっと上の存  在なんだから。だからほら、早く(かしず)いて、頭地べたに擦って鳴い  くべきなの。そうしたらわたしの気分も良くなるわ」 「いやそうか、この部屋にペットの異常性……。ハッカー、いや悪  質そうな気配を感じるに、チーターの類だな?」 「全然違うわよ!」 「……む?」  困惑する相棒。まー無理もねえわな。 「ロリ神様ロリ神様」  ベッドの(へり)から小声で呼ぶと。 「ロリ言うなって言ってるでしょ。……なんなの?」 「俺自身の時にも思いましたけど、やっぱ事情説明は難しいっす  よ」  魔法何て現実には存在しない。……いや、したっぽいから俺がこ  うして不思議な事に成ってる理由(わけ)だけどね。  一旦それは置いておいて、普通の人間は現実で魔法を目にしたり  しない。だけどこの仮想、VRゲームの世界でなら魔法は見放題  で操り放題だ。言ってしまえばエリュシオンには魔法も神も居る  ので、此処で神や魔法だと言ってもイマイチ理解は得づらいって  話し。ロールの一環だと思われて触れられず終わり。  うーん進みすぎた科学技術の、その粋の中でだからなぁ。マジっ  て気が付ければ驚けるけど、気が付かないと、ねぇ……。 「別に説明する気も理解させる気も無いわ。チーター何て失礼な事  を言われたから、違うと否定はしたけど。そもそも部外者に其処  から先は無いわ」 「あ。そなの?」 「ええ。でもまあ……折角此処に踏み入ったのだもの。使えるか試  してあげようかしら? この生意気な犬」  おおっと。ロリキャラにしては妖しい笑みだ。……つまりは鬱憤  ばらしで、あの部屋? で相棒と戦うって事になるのかな? 「それはあの部屋でって事ですかい?」 「勿論」 「それって大丈夫なん? 現実の相棒が意識不明とか───」 「ない。ないわよ。お前と違って此処に魂が在るわけでもなし、普  通にこの世界の表面的仕様で決着がつくでしょうね」  なら一安心だ。つってもまああんなチート部屋でチートな力で対  決するきかよ……。大人気無……。まあコイツにとってはあの空  間? でこそ全力が出せるらしいからな。  ……ふむふむ。よっし。  俺はベッド縁から相棒へと駆けより。 「相棒。ロリ神様はお前をお試しになるってよお!」 「……良くは分からないが、好戦的な姿勢を見るにそれはPVP  をしたいって事か?」 「ぴーぶいぴー?」  あ、このロリ神様もゲーム用語知らない系人外だ。 「要は戦うって事っすよ、ロリ神様」 「だからロリ言わない。……そう、それね。んん、おいそこの  犬」 「まさかと思うが自分の事か?」 「当然そうでしょ」  相棒が犬ならきっと凛々しいジャーマンシェパード、もしくは格  好いいシベリアン・ハスキー。ああウルフドッグも捨てがたい! 「わたしに勝てたらちょっとは考えてあげる。でも負けたらその場  で追い出すわ」 「……そんなペットを持ってるならできそうな事だな」 「今更わたしの力を感じ取ったのかしら? ふふん、まあ拒否権は  犬に無いのだけど!」  絶対勝てるわけない。とか思ってそうだねあのロリ神様。  踏ん反り返るロリっ子にリストゥルンさんが『いいんですか?』  とか聞いている。 「いいのよ。……さ。地に()(つくば)る準備は良いかしら? 犬」 「……」  黙ってロリを見詰める相棒。俺はそんな相棒へ。 「相棒さん相棒さん」 「?」 「魔法遠距離型、障壁持ちで物防特化。無敵無し、貫通有効」 「!」  相棒が一度力強く頷き、ハンドガン型ウェポンを取り出しては、  そのマガジンを入れ替える。よしよし。 「「?」」  俺と相棒の様子にロリ神様とリストゥルンさんが不思議がって見  てたけど、小声だったし聞こえなかったっぽいね。ま、アドバイ  スぐらいは良いべ。……相棒のバトルセンスを考えれば、アドバ  イスすらいらないかも知れないんだし。 「何か小細工をしてたみたいだけど、まあいいわ」  言ってロリ神様がベッドの上で片手を振り上げ。 「お前を招いてやる。私の“広間”へ───」 「!!!」  冷たく囁くと同時。幼女を中心に世界が白亜へと侵食される──  ─
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