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第四十一話 観察
───エリュシオンには町があり、町には当然家屋が立ち並ぶ。
ゲーム内の所在を確かとするため、通りや家々は勿論点在する店
にもそれぞれ呼び名が存在している。ゲーム内表記にてオリエン
タルランプと名乗るその酒場は、町の中心からはやや離れた場
所、人の往来も少ない路地にて。今まで同様繁盛とは言い難い有
様を晒し続けていた。
維持費節約の為薄暗かった店内で、俺は立て直しを宣言したその
日からずっーと店の角席を陣取らせて貰っていた。席確保と言う
ちょっぴりな特権を噛み締めながら、していた事と言えば店内の
観察。それと情報収集、たまに脱線も。ネットは誘惑が多いから
ね。
店内観察は時間をずらしてみたり、たまに場所何かを変えたりな
んかして、業務内容全てを観察させてもらった。それと同時に保
存されていた経費出費のログを、それまでの管理者であったミラ
ンジェさんに用意してもらい。何が無駄で必要かを分類、詳細
化。
客に見せる訳でもない私物丸出しで購入予定に載っている、有名
プレイヤーデザインの、高級家具だとか。酒場にそんな項目の経
費あるかよとツッコミを入れたくなる、武器費と呼ばれる物な
ど。一旦現在の酒場経営に必要ない分からん系、それと分類化で
きない系の予算は一時凍結とし。僅かに確保出来た予算を集計。
そして今後の必要経費がどうなるかの見通し、維持に必要であろ
う最低ラインを組み立てて。理想的なコストバランスを算出──
─って事を。
「はえー……。おまえも考えてたのね。ご褒美に撫でてあげるか
ら、頭を垂れなさいな」
このロリ神様へ説明してやった。
「いらんわそんなん」
「!?」
心底びっくりしているロリ神様。自分の頭ナデナデがそんなに価
値あるとでも思ってたのか? 正直ちょっと揺らいだけどね!
近くに相棒、リストゥルンさんの視線がなければ分からなかった
ぜ、って位にはさ。
イマイチ理解してるか分からんこのロリっ子に、何でこんなメン
ドイ説明をしてたかと言えば、『ただ座ってるだけじゃない!こ
のサボり!』とか文句が煩かったし、サボリにサボリと思われて
るのは癪じゃん?
説明を聞いたロリ神様は俺の隣で何度も小さい頭を“こくこく”
と頷かせ。
「で。おまえは今受け取ったモノで、此処で考えてた計画を実行し
ようと思うから、働く乙女達をわたしにまた集めてほしいって事
ね?」
「そそ。ミーティングで───」
「ルプス」
「んあ?」
此処数日町で、『テ・セラ』での情報収集と威力調査に協力して
くれていた相棒が言葉を挟んだ。顔を向けると相棒は何故か申し
訳無さそうにして居て。
「この後自分にはその……」
「あによ?」
「……リアルで用事があるんだ」
「!」
行けね。いらん気遣わせちまったな。
「あいよりょーかい。いやマジ手伝い助かったわ。サンクスな、相
棒」
「……」
俺にダンディフェイスで笑みと頷きを見せては席を立ち、振り返
って視線を俺───の横。座っていたロリ神様へ向けたかと思う
と。
「ふ。まさか拠点作りからとは、な」
「!?」
「じゃあまたなルプス」
言って相棒の身体が光の粒子になって霧散。あーログアウト出来
るってやっぱちょっとウラヤマだよなー。今の俺からすると現実
へのログインって事か。
嫌な事も多かったけど、同じかそれ以上に面白い物も沢山あった
んだよね~……多分。
「までもそっか。相棒にはちゃんとリアルがあっからなぁ。時間は
なるたけ此方でも気を付けねーとだな」
どう言う原理かは知らないけど、エリュシオン内とリアルでは時
間の流れが違う、違うようにできている。どれぐらいの差がある
かって、その辺の詳しい所を忘れちゃったんだけど、エリュシオ
ンでたっぷり遊び過ごしても現実じゃ一日も経ってないとかね。
んま、我を忘れて楽しんじゃうから皆VRゲー遊ぶ時は、各々機
器とかにアラームセットするのがデフォなのよね。
凄い技術、って言ってもリアルの時間が止まる訳じゃない。だか
ら今後はリアルの時間も気にしないと行けないかな。相棒に迷惑
は掛けたくないし。
……そう言えば。今思い出したのだけど、意図的時間齟齬の技
術って、VR全般で見ても、確かエリュシオン作ってる会社の完
全独自な技術だって話しなんだよね。しかも他所へは勿論、国か
らの技術共有を要請される程、他のVRゲーで使われてるITI技術
とは一線を画すって話し。もっと面白いのは制作会社は研究機関
にも国からの要請にも一切応じてないって話し。超トンデモな会
社と技術よねー。
噂だと何故実現できたか、それを会社が把握してないとか、だか
ら技術提供が出来ないのだとか。どっかのまとめサイトでそんな
眉唾を昔見たっけかな。
ま、今の俺にはちょっと関係の薄い話か。
「……わたしあの犬嫌いかも」
ロリ神様が相棒の居たスペースを見て呟いた。
そりゃ“犬”呼ばわりしてりゃあな。まさか誰からも無条件で好
かれるとか思ってる系か、コイツ? 潜在的厄介プレイヤーの素
質ありと頭の片隅でメモりつつ。
「んじゃま、人集めてきてよロリ神様」
「わか───いや何でわたしなの? そうよおまえ、なにかとわ
たしを使おうとしてない?神なのよ、わたし」
ッチ。感の鋭いロリっ子だ。追っ払いたい俺は笑顔を繕って。
「んもーな訳ないじゃないっすか! お手伝いの俺じゃなくて、乙
女たちの主足るロリ神様から伝える事ッ。そこに意味があるん
じゃないっすかー。威厳とかその辺があるロリ神様に、さ!」
此処で笑顔からの決め顔を披露。
現実じゃないから全然恥ずかしくもないし、やっぱ現実よりもち
ょいイケメンにキャラメイクしちゃったからね、だから自信もあ
るってもんよ。伊達に初期キャラメイクに三日、その後も色々課
金やら何やらしてない。モチベーション的にもキャラメイクって
大事、うんうん。
完全なイケキャラにはしなかったけども、自己投影はその方がし
やすい。やっぱしね。
「そ、そうかしら? じゃあ、まあ、しょうがないわねぇ。
うん、行ってくるわ!」
のせられたロリ神様が席を飛び降り“とたとた”と走り去って行
く。はーちょろちょろのちょろッ! そんなちょろ神様の背を見
送るのは俺と。
「……」
苦笑いで佇むリストゥルンさんだけ───
───俺の頼みで、ロリ神様にはいつかの様に従業員のお姉さん
たちを集めてもらった。お店はと言えば客なんてほっとんど来な
いので早期に閉店。
そして。集まって貰った彼女たちに向け俺は言葉を飛ばす。
「えー再び集まっていただき感謝です。早速なのですがー、ここ
何日か店の様子を見させてもらって、これからの方針を組み立て
ましたので。皆さんには一旦それに従ってもらいたいと思いまー
す」
「「「……」」」
特に表立って反論とか出ないし、不安や不信感を明らかに漂わせ
るお姉さんも見当たらない。うん、皆様子見か無関心って感じだ
ね。今の所俺って失態らしい失態もしてないし、トップロリのお
墨付きが効いてるんだろうなぁ。……ってか、失態も何もまだな
ーんもしてないからだけどね!
「まあ嫌な事を強制したりとかはしないんで。その辺安心して欲
しいと思ってたり───」
「「「………」」」
いや本当に、様子見と言うか品定めと言うか、その辺の雰囲気は
隠さないんだねー。んーでも改めて思うわ、素晴らしいキャラメ
イクのお姉さんたちが凄い真剣に此方の話し聞いてくれる様子っ
てのは、ちょっと興奮シチュエーションじゃない?これ。クフ。
おっと今下心は丁寧に梱包し大事大事に仕舞って置かなくっちゃ
ね。
「取り敢えずっすね。今まで曖昧だった役職───」
てかそもそも何も決められて無かったんだけど。
一部の人が自主的にテンプレートを模倣して、それっぽくしてた
だけ。それで良く今まで店が回ったもんだし、ロリっ子はマジデ
経営者に向いて無いって事が分かった。自主役職って何よ、自主
役職って。
「───ってのを確定したいので。その為のセクションマネージャ
ーとかも決めちゃおうかと思いまーす」
「「「?」」」
あ、ちょっと言葉を分かってない感じだ。んだけどそれ織り込み
済みなので、一旦説明はせずに話を進めちゃお。
「とりまミランジェさん、ヴァラさん、ロメリーさん達三人をセク
ションマネージャーに任命します」
此処数日様子を見ていて俺が任せたいと思った三人の名前を呼
ぶ。
一人は白のシャツに黒のジャケット、同色のパンツと。出来るウ
ーマン感溢れるメイン受付担当のミランジェさん。二人目は他の
ウィトレスさん達と一緒の制服姿で、元気が溢れまくってるヴァ
ラさん。一部他のお姉さんたちと明確に違う部位があるのだけ
ど、気にするヤツは誰も居ないだろう。キャラはその全てが魅力
の一つなのだから。最後は俺しか利用してないような、マーケッ
トカウンターを任されていたロメリーさん。以上の三人。
俺に名前を呼ばれた三人のお姉さんたちが互いを見やりながら此
方へ近寄る。ああやって並んでると、ミランジェさんと一緒の服
装なのにロメリーさんだけには何処か暗い空気が漂っている。良
くてミステリアス、悪くて鬱々しいって感じかな?
三人で寄り集まった彼女たちは互いを見合い続け、何か決まった
のか、中からミランジェさんが一人、一歩前へと出てきては俺を
見据え。
「ルプス様。我々をその、セクションマネージャーとやらに?」
「そっす。ちなみにセクマネってのはまあ……中間管理職って考え
てもらえれば大体いっすね。俺はどっちかってーと現場寄りの、
って意味合いで使ってますけど」
「中間管理……成程、把握しました。しかし何故私達三人を選んだ
のでしょうか?」
「「!(“こくこく”と頷く他二人)」」
彼女たちの後ろ。他のお姉さんたちも理由に耳を立てているし、
隣のロリ神様───は普通に欠伸してたわ。おいおい暇そうにす
なよ。
ったく。俺はロリ神様に呆れながら。
「んー観察してて分かったんすけど、ミランジェさん達三人が一番
適正って感じがしたからっすね。他の人達はトラブル何かがあっ
た時、お伺いをいちいちロリ───じゃなかった。ニルスさまへ
聞きに行ってる事が多いんすけど、ミランジェさん達はそう言う
行動が少ないなーって」
観察してたのは店内の様子。つまり働くお姉さんたちの事もバッ
チリと見て居たのだ。それも堂々とね!
「……では、私達三人はニルス様へ指示をいちいち仰がないから。
“それ”が選ばれた理由ですか?」
「っすね。他に理由が欲しかったら……まあ観察した結果から来る
無意識的直感です。いやぶっちゃけそっちが九割かもっす」
「無意識的直感、ですか」
「っす!」
なわけない。いや直感も勿論あるけど全部じゃない。
れっきとした理由は簡単だ、三人が“自分で考える”タイプに見
えたから、それに尽きる。
けれどそれを今言うと絶対角立ちそうじゃん? だからね、言わ
ないの。俺は空気が読める、読めないとエンジョイPTプレイなん
かムリムリ。互いに気持ち良いプレイには必須のスキルよな。
さて。此処は行きつけの酒場ではあるのだけど、店の様子を客で
はない立場で観察して改めて気が付いた事がある。それはこの店
内において、呼んだ三人が一番“個性”を持っていると言う事。
三人だけ容姿と服装が特別で目立つから、とかって言う表面的個
性とは違う。自考力とか主体性って言うのかな? 上手い説明は
出来そうにないけど、他のお姉さん達とは個の質が違うって感じ
るんだよねぇ。実際明らかに三人だけ“違う”って所もあるし。
後はまあ、元々自然と管理職らしき振る舞いをしていたのもポイ
ントだ。あの三人、ヴァラさんはウェイトレスさんのリーダー的
位置に居たし、ロメリーさんとミランジェさん何かは受付カウン
ターを任されている風だったしね。
ま、これは本当に完全俺個人の主観なんだけどね。他のお姉様方
ってのが無個性考え無しって訳じゃあない。任せるならあの三人
がいいなぁーってだけの話し。個人を知れればまた変動するだろ
うしね。
「ふふ……」
「「!」」
少し、本当に少しだけ笑ったのは誰あろうミランジェさん。
おーあのミランジェさんの営業スマイル以外の、素っぽい笑顔が
見れる日が来るなんて! 今日はいい日かも!
同じ事を後ろの二人も思ったのか、ヴァラさんとロメリーさん二
人も驚いた様子。笑顔を零した本人は周りを気にした様子も無
く、“スッ”と表情を平静へ戻し。
「その様な事を仰るのは、ニルス様からそれだけの権限を貸し与え
られているから、ですね?」
「っすね~……」
協力してるってだけで、権利だ権限ってのは明確にされてない。
てかしてなかった!
ぶっちゃけ役職とか階級とか明確化されちゃうとメンドイ事にし
かならんし、んならなんちゃらアドバイザーとかって言う超曖昧
ポジションが良いに決まってるじゃん? だからその辺言わない
でいたんだけどなぁ。うーん……よし。
この答え辛い質問を、俺は隣で心底所在なげにして居たロリ神様
へパスする事にした。だってこれ俺には答え辛いしね~。ロリ神
様ってば一応此処の最高責任者だし。
「? ……あぁ?」
ロリ神様は自分が会話のバトンを渡された事へ若干の遅れと共に
気が付く。コイツは……。仕方無しに小声で話のあらましを囁い
てやる。
「ああそう、んー……この協力者には館の立て直しに必要な事限定
だけど、それを成す事への権限を既に貸し与えたわよ」
「「「!」」」
お姉さん達がちっちゃく、だけど確実に驚いてるし、俺も驚く。
これは上手い落とし所に収めてくれればよかった話、例えば今ま
で通りロリ神様に進言しては、ロリ神様が都度要望を聞いてくれ
る~って言う体! そこの所でどうだなんだと小声で聞くと。
「いやよめんどうくさい。……ニルスの名において館の権限をルプ
スへ貸し与える。はい、今権限渡したから」
と。小声で返されてしまう。面倒臭がるなよそこッ!お前の仕事
だろうが! とか叫びそうに成ったのを、下唇を噛んで食いしば
る。ギギギギ。
今こっそり確認してみたけど、くそ。オーソリティの欄にはマジ
にこの店、昼行灯の権限が追加されていた。インターフェースも
開けないくせに、こんな事はできるのかよ。
「(さっきは限定~みたいな事言ってたのに、ほぼ全ての権利、権
限がリースされていた。うっそだろ。悪用とか少しは考えろ
よッ!)」
あ~~~~~……まぁ。明言されてた方が物事もキャラも動かし
やすいんだけどさ。これ絶対後々メンドイ事が生じそうで嫌なん
だよなぁ。そもそも此処ってただのPCの集まりじゃなくて、中
身ってば詳細不明な知的生物の集まりな訳じゃん? いらん気を
使われそうでダルい。
俺がギルドとかクランって呼ばれるコンテンツ達へ背を向け続け
て来たのも、一切触んないのも。全てはオンゲ内では最低限以上
の気を使いたくないからだ。大きなコミュニティを作れば人付き
合いが生まれ、人付き合いには気の付き合いが必然だからね。仲
の取り持ち仲裁責任追及管理管轄管制……。あぁヤダヤダ。
相手が詳細不明でも生物は生物。オンゲの向こう側が本当に人間
かだなんて分からない、けどそれは彼女たち以外だって変わらな
い事だ。
オンゲの仲間とどれだけ仲良くなっても、リアルで絶対に会う事
はしない、しなかった。それが俺のルールだし。オンで仲良けり
ゃそれで十分だからね。でも、だからこそ此処で知り合ったヤツ
から聞いた事、仮想で見た事こそ全てと、そう思って考えてプレ
イして居た。その考えはこうなっても変わらないし、そもそもリ
アルでの邂逅が完全にもう出来ないんだけどね。んまあ、そんな
訳で当然彼女たちにも気を使うって話しだ。
そもそも俺なんかもう人間かどうか妖しいもんね。デジタル生物
みたいなナニカだし。
……いや、俺は過去も未来も人間であり続けたいんですけどッ!
なんて。自分が都市伝説な存在じゃん! とか面倒ごとから考え
が脱線を繰り返してしまう俺を他所に、場の話は無情にも進んで
行く。
「そうですか、それは、ええ。成程」
ミランジェさんは何処か含みのありそうな呟きを零し。
「なに? わたしの決定に文句でもあるわけ?」
「いいえ。勿論ありませんよニルス様」
営業スマイルを貼り付けたミランジェさんの言葉は、やっぱし含
みのありそうな物だった。その態度にロリ神様が何か言いたそう
にしては、ミランジェさんが此方に視線を移し。
「それでは。これから私達は何をすれば?」
問い掛けてロリからの会話を躱した。うーん? 何かあるのか
な、ミランジェさんとロリ神様の間には。
何か一瞬変な空気が流れ掛けた気もしたけど、こう言うのは気が
付かなかったフリが一番丸い対応だよね。それに俺ってどちらか
と言えば部外者寄りだしー。よし、俺は何も見なかった気が付か
なかった。
「っと。そっすねー……。取り敢えずミランジェさんには各セクシ
ョンの総合リーダー、後出来たらメイン受付カウンターの管理も
そのままで。負担大きかったらそこは用相談って事で。後元気い
っぱいなヴァラさんには接客チーム。んでロメリーさんには……
まあ裏方チームの纏めとかその辺で一旦。
まー今はそんな所っすね」
「分かりました」
「りょーかーいッ!」
「……」
ミランジェさんがビジネス的お辞儀をしては、後ろのヴァラ、ロ
メリーさん達も了承の頷きを見せてくれた。
この三人にはポストに見合った権利を後で割り振るとしてだ。後
は……。
「そうそう。こっからは今後の営業、経営戦略についてなんすけど
ね。取り敢えず現在ほっとんど利用されてない宿機能は段階的に
停止、最終的には廃止の方針で。んでもって暫く夜の営業は無し
にしてもらって何人かのお姉さんには───」
俺は収集したショップ情報、昼行灯の現状、成功者の自慢等な
ど。得た情報を元に立てた昼行灯生き残り大作戦、経営戦略を従
業員のお姉さん達へ向けて説明。
素人に依る、素人丸出しな考えを話されたお姉さん達の反応はと
言うと。
「「「……」」」
特に反応も無しで、あった反応は時折ロリ神様と俺を見比べる位
のもの。
セクマネに任命した三人はも静かーに拝聴の様子。んーちょっと
辛い空気かもッ! 変に緊張しちゃう!
「(てか真面目に、お姉さん達のこのロールにはアドバイスしない
とかなぁーこれ)」
今更な緊張を考えで押し流すため、説明する傍ら思考を巡らせ
る。
常連客な俺はこのお店へ通う理由の一つに、ウェイトレスなお姉
さんたちから漂う不思議な魅力、それを含めていた。だけどそー
れが何なのかは分からず、一体他の店の女性キャラと何が違うの
だろうかと、常々悶々としながら見て居た。
しかし今、此方側、店側の視点や彼女たちの隠された秘密を知り
得て、それが一体何だったのか分かった気がする。俺がお姉さん
たちに感じていた魅力、それは多分内面的な“無機質感”だと思
う。
彼女たちの接客や応対はただでさえクオリティの高いNPCよりも
普通に見えるし、中身が純正の人間じゃない事自体も大きな問題
っぽくは見えなかった。だけど、純度百パーセントの義務、或い
は使命みたいなモノが接客、会話、振る舞いの節々に潜んでいる
様に思えた。事情を知って、近い立場で見て分かったけども、お
姉さんたち殆どの根底には『ロリ神様の命令が絶対』みたな部分
が百割を占めているっぽいんですよねぇ。
「(上に従うってのは当然なんだけど、余裕余剰の一切が無いのっ
て相当だと思う)」
此処はゲームの中よ? だから酒場の業務って言ってもすんごい
難しい訳じゃないし、簡単な物なら基礎調理スキルとちょっとし
た操作で事足りちゃう。極めようとしたらスキル開拓、レシピブ
ックやら高ランクの調理武具とか居るんだけどね。シェフのロー
ルは色々と楽しいらしいけど、生産職とサービス職には興味がな
いので俺はよく知らない。
んま。普通ならゲームだし業務事態が娯楽とか趣味、ちょっとし
たサボリって感覚があると思うんよ。でも彼女たちには一切ソコ
が無い。全ての自己リソースを命令遂行に注ぎ込んでいる感じ。
その辺、やっぱ中身が純なヒューマンちゃんじゃないからかな?
命令を必ずこなす、やり遂げると言った気迫は一種の強迫観念に
も思えちゃうんだよねー。実際そうかも知れないし。
ほんっと心底不思議なんだけど、お姉さんたちは皆ロリ神様至上
主義者な側面を抱えてるんだよね~。信者と言っても良いレベル
で。……マジ謎だ。
んでそうじゃなさそうなのがさっきの三人ぐらい。比較的付き合
いのあるリストゥルンさんも、根底には信者な一面があるっぽ
い。
ただし他とちょっと違うのは接客や応対の奥に内面的無機質を感
じさせない所かな? もしかしたら命令だからじゃなく、接客自
体を本当に楽しんでいる、のかも? 話すの好きっぽいしありそ
うな話しではある。
まー彼女たちの内面的無機質は魅力の一つなんだけど、同時に枷
でもある。客対応の全てが完璧なテンプレートから脱せないって
言う事は、やっぱどうあっても“遊び”ってもんが欠けるんだよ
ね。リアル程厳格じゃ無いのだから、接客にだって遊びが必要な
んだ。ゲームの中だからこそ。
お客さんなプレイヤーも無意識にそう言う所を感じ取ってるの
か、接客に粗相も無いのになぜか客が寄り付かない。リピーター
の低さ、その原因を分かった気がするよ。
酒場の一席から見詰め続けた結果気が付けた事だったね。
その辺り、お姉さんたちへ今後意識してもらうには───
「ねぇ? そんなんでどうにかなるの?」
「(お、暇過ぎたか?)」
隣で心底暇そうにして居たロリ神様が此方に尋ねてきたので、頭
を切り替え質問に答える。
「まね。ここの強みってのを生かした戦略だと俺は思ってるし、行
ける気配も感じてはいるよ。ただま、約束はできねーけど」
「ふーん……。なら良いんじゃない?」
意外。『何いってんの!?絶対成功させなさいよ!』とか文句垂
れるかと思ったんだけど、そんな事も無くロリ神様は顔を此方に
視線だけを従業員の方へ送り。
「わたしはコイツに任せるし、みんなも分かった上で頑張りなさ
い」
俺も釣られてお姉さんの方へ視線を動かすと。
「「「!」」」
一斉に頷くお姉さんたち。んー悪くない、悪くないんだけど、少
し魅せ方を考えないとだなー。人外な魅力は人外と分かった俺に
しか伝わらないし。……いや。人外、人外か。
まあ今思った考えは取り敢えず仕舞って。
「んじゃあまずはチーム分けと接客戦略をっすね───」
節約で耐える様子見から一転。此処から本格的にゲーム内酒場、
昼行灯経営改善に向けて動き出すぞ───
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
───二度目のミーティングから暫く。
VRMMOエリュシオン内でマジにリザレクションした俺は、この
ゲーム世界へ密かに迫る危機を知ってしまい、勇者さながら世界
救っちゃいますか───とかは全然しない、してない。
んで世界救わず何してっかって言うと、現在はメイン受付カウン
ターの奥、客が踏み入れない店のバックヤード入り口からこーっ
そり店内の様子を伺って居るのでした。
「いらっしゃいませー! お一人ですかー?」
伺う先は昼行灯一階ホール。ホールではお姉さんなウェイトレス
さんがまさに接客中。客はと言えば疲れる現実から仮想、の更
に仮想に癒やしを求めたと思しき男性キャラクター。
んまッ!百パー俺の偏見だけどッ!
「あ、はい」
「ではではお席にご案内しますねー!」
接客対応するのはうちで今ナンバーワンに接客が上手い、元気が
取り柄だヴァラお姉さん。彼女はニッコリ笑顔のまま男性キャラ
を席へと案内する。そう、案内が必要な程にお店は繁盛している
のだった。ムフフ。
因みに混んでない時は“好きな席に座れやスタイル”だったり。
今ってば混んでる、こ・ん・で・る。からね。ウフ、ウフフ。
と。席案内を受ける男性キャラがふとヴァラさんへ。
「あのー……此処って夜も営業、してるんですか?」
「いいえ。してませんよー!」
「あ。やっぱそうですよね」
「はいッ!」
ほーう? おやおやおや、彼奴は噂目当てのお客様だったのか。
ほほう、ほうほうほう。これは俺の偏見ではなく、仮想の癒やし
にマジなプレイヤー様でないのかねいー?
んーでももう噂を直接聞きに来るヤツが現れちゃったのか。これ
ってば俺の予想よりもすんごい早い事態じゃん。営業終了後とか
お昼とかに、最早日課と化してた出自不明情報の流布もそこそこ
にして、これからは夜の仕込みへリソースを割り振───
「えぇー……なんでこんなにお客が来るのよ?」
「フォーッ!」
背後からの声に驚き飛び上がっちゃうし、何なら手元で開いてた
小窓を握り潰しちゃう。
叫んだ間際、メインカウンターで受付してるミランジェさんやお
姉さんの何人かと目が合う、合っちゃったので。愛想笑いで誤魔
化しとこう。へへへ。
「む、無音で背後に立つんじゃねえ!ロリ神様ぁ!」
「ロリ言わない。なに?ビビった?」
“チラリ”と振り返った先にはロリ神様の姿。
憎たらしいって表現のスタンプにでも成りそうな、心底嬉しそう
に悪戯な笑みを浮かべるロリ神様。ウゼぇ、けど反応するともっ
とウザいから。
「ったく。ずっと自室に籠もりっぱなのに、今日はどーしたんす
か?」
ビビった事には振れず会話を進めてやる。しかし自室以外で会う
何て初めてだ。普段ずっとあの部屋に居るらしいからね。
「この館は全てはわたしの物なのよ? だから良いでしょ、別に何
処に居たって。……それに聞いたわ。何だかおまえ色々がんばっ
てるらしいから、ちょっとだけ様子を見に来てあげたの。だから
光栄に思いなさい。後此方見て話しなさいよ」
「(ッチ)」
俺は心でメンドイと舌打ちしつつ。一階ホールとバックヤードを
区切る従業員専用扉から覗き見る姿勢をやめ、仕方無しにロリ神
様へ振り返ってやった。途中ロリ神様は『まあ。最近訪ねて来る
乙女が……』とか何とか呟く。
「ははーん。さては部屋を訪ねて来るヤツが居なくて寂しいとか、
どうせそんな理由だろぉ?」
「ッ。……全然ちがうわよ」
おーん? てっきり顔を赤くしてバカみたいに声を荒げるとかし
てくれると思ったのに。してくれれば仕事の邪魔だつって追い返
せたんだけどなぁ。んーやっぱキャラメイクが子供ってだけで、
中身詳細不明生物だしな。年齢不詳の。
「気持ちは分かるよ。ネコちゃんズも此方で借りてるからね。一人
で部屋に居んの暇なんだろ?寂しいんだべ?」
「だからべつにわたし、寂しがったりとか、ないから。……ふん。
もういいわッ」
言いながら拗ねた様子でその場を離れようとするロリ神様。おっ
と行けね。
「まあまあ折角来たんだしさ、借りたネコちゃんズが何してるの
か。ちょっと覗いてこうぜ」
「……別に興味ない」
「えーでも館の“主様”として業務の確認も必要じゃねー? 俺
としてもやっぱ“主様”には確認して欲しいっつーか」
「! ……ま。そうね。折角だもの、うん。確認したげるわ、折
角だし。館の主だし」
全然嬉しく無いしー興味も無いから~。みたいな感じで、腕組ん
で明後日を向くロリ神様。いやぁー此処までロール下手なヤツっ
てのも居るもんなんだなぁー。いやいや逆に正にって感じなのか
な? まあいいや。
「おにゃしゃーっす! んじゃコッチコッチ」
「ちょっと。この高さじゃわたしカウンターで見え───」
「あーはいはいこれ乗ってこれ」
キャラサイズの小さいロリ神様へ踏み台を用意してやっては。
「ん」
「はいのはい」
アホ丸出しにバンザイしてくるので。持ち上げて台に乗せてや
る。何で俺がここまでしなくちゃなんねーんだ? 拗ねられても
困るしやるけどさ。
そうして俺の前、台上で膝立ちスタンバイのロリ神様と。僅かに
開いた扉の隙間、そこからネコちゃんズを二人で探すため、視線
をホールへ飛ばす。
「お。あそこあそこ」
「え?え? どこ?」
「ほら店の右奥から視線を手前に持ってってみ」
「……ああ!」
俺とロリ神様が視線を送る先では。
『……』
店内を緩く流す黒ネコが一匹。
「なに。ああしてただ歩き回ってるだけなの?」
「基本はね。でもバカには出来ないんだぜ? 変哲の無い店でも、
ペッツの居る居ないで客の入りも変わってくんのよ。ま、うちの
ペッツはただのペッツじゃあ無いけどさ」
「ペッツ……? いやいいや。今の言い方だと他にも目的があるみ
たいだけど?」
「おう勿論。つってもそうそうには───お!」
説明の合間。視線を流すホールにてトラブルの予兆を発見!
「喜べロリ神様、今日は良いもんが見れるぞ」
「え。なになに?」
「んん」
俺は手のひらサイズに最小化した小窓を開き、音声チャットのチ
ャンネルグループをネコちゃんズへコネクト。
「此方ホークアイ、此方ホークアイ。えー店の東側テーブル席にて
トラブル予備軍を発見。至急の対応を求む。オーバー」
「……え? あた、頭どうかしちゃった、の?おまえ」
「頭?ああ最初から天才でインテリジェンスマックスだよ。そんな
事良いからネコちゃん見てろって」
「う、うん」
失礼なロリ神様が怪訝な表情のままに視線をホールへ戻す。
『……!』
ホールでは彷徨い歩いて居た一匹のネコが、獲物を見付けたとで
も言った様子を見せ、彷徨う動きから一転。目標物へ一直線にと
動き出す。ネコの行き先は一つのテーブル席で、もっと言えばそ
こを利用している一組の男女キャラの下だ。
俺は手元で最小化された小窓を操作し、館の管理者ページを開き
そこからセキュリティにアクセス。必要なチャンネルへコネクト
してっと。……すると俺の手元から音声が流れ出す。音量小さめ
にしとこ。
「だからさ、ああ言う場面だとお前いっつもヒールが遅───」
最初に聞こえたのは男性キャラの物。音声と口の動きが、視線の
先で“やれやれ”と言った具合に頭を振るキャラとリンクする。
「はあッ? そんな事言うなら言わせてもらうけど、そもそも貴
方だってAoE避けて被弾を少しは抑えようと動───」
次に聞こえて来たのは女性キャラの物。視線の先では冷めた目を
して居た。
「なッ。ヒーラならヒールするのが───!」
「ヒーラーは奴隷じゃな───!」
適当に聞き流す内容。それはクエスト後の反省会だろうか。
手元のシステムを通さずバックヤード付近まで僅かに届く音声チ
ャットと言う事は、中々の白熱っぷり。もしくは火災一歩手前か
も。
と。冷静に分析する俺のシャツをロリ神様が下から引っ張り。
「? はいはい何ですかい?」
「いやちょ、ちょっとアレ止めくて良いの? 折角お客が入っ来
てくる様になったんでしょ? トラブル何て見せたらダメじゃな
い。どうする?店から弾き飛ばしちゃう?」
「悪評が立つし目立つからやめなされ。ってかあの部屋じゃなくて
も力使えるんか」
「ちょっとだけよ。部屋を出ても接続が切れる訳じゃないから」
「ふーん? ……まあ大丈夫大丈夫。あっこから“面白くなるから
さ”」
「ホント?」
「ホントホント。まあ見てなさいってほらほら」
二人で視線を再びホールへ戻す。
ホールでは相変わらずの男女キャラ、そんな二人へ近い距離まで
黒ネコが素早く接近しては、今にもイスを立ち上がろうかとした
男性キャラ、その膝上に“ぴょんっ”と飛び乗り。緩やかな動き
で寛いで魅せる。
「いい加減───ッ!? ……ふへ」
「うわ! 何急にキモイ笑い声上げてんのッ」
「うるせえ! ……膝上、膝上だよ」
「? ……え、キャ、わー!」
女性キャラがテーブル下から男性の膝上を確認。
「そ、そんなので喜んでたの? やっぱキモイじゃん」
「良いだろ別に! ……リアルじゃ俺、ネコアレルギーで触れな
いんだぞ」
「あ。そうなんだ、ごめん……」
「え!? いや、そんな、いいよ別に。知らなかった事なんだか
ら、き、気にしてないっつか……」
「うん……」
二人からは、上がり続けていたテンションが突然失速し、
“グニャリグニャリ”と揺れる様が見え、二人を中心に“喧嘩が
続くのか?続けるのか?”みたいな微~妙な空気が辺りへ漂い出
す。
『にゃーん』
「「「!」」」
微妙な空気感を八裂きに引き裂いたのは、これ以上無く脱力を誘
う獣の鳴き声。
「……ネコちゃーん、お姉さんの所にも来ない~?」
「あ、おい。謝っておいて横取りしようとすんなよ!」
「だってアンタばっか! 羨ましいじゃん!」
羨ましがる女性キャラだった───けど。黒猫は男性キャラの膝
上から微動だにしない。
「へへ。俺が良いってさ」
「あーん何でよぉー……」
落ち込み。頭をがっくりと下ろした瞬間。
「!」
彼女は気が付いたはずだ。自分の足元に白ネコが、いつの間にか
と寄り添って居た事に。女性が白ネコの存在に気が付くと同時、
見上げていた白ネコと女性との視線が重なり合い。
『……(“そっ”と身を僅か女性の方へ寄せる)』
「───!!??????」
出だしから音声制限に掛かったのか口をパクパクさせながら女性
は凄い速さで自分の足元と、男性キャラを交互に見ては何かジェ
スチャーをしている。
その様子に表情ドン引きの男性キャラが、膝上の黒ネコに気を付
けつつテーブル下を一度覗き見ては。体をテーブル上に戻し。
「おお、良かったな」
「決めた。アタシ今日から此処の常連になる」
「いやお前……。それは当然だよなぁ!」
「ね!」
明るい表情を浮かべる二人。二人が一頻りネコへ構った後。
男性キャラがバツの悪そうな表情を浮かべ。
「あー……。その、さっきは悪かった、よ。俺も言い過ぎた、ホン
トごめん!」
「え。今謝るの?」
「謝るよ。……お前がネコの事で素直に謝ってくれたのに、俺だけ
謝らないのは、何か違うからさ」
「ふーん……まあ、私も? ちょっと言い過ぎた、かも。ごめん
ね」
何ともむず痒くて微妙で危う~いバランスの空気感。
『『にゃ~ん』』
「「!」」
再び引き裂いたのは、やはり脱力を誘う獣の鳴き声だった。
謝罪を交わし終えた二人の側からそれぞれネコちゃんズが鳴き声
を上げ、男女二人の顔には笑みが浮かぶ。動物ってリアルでも仮
想でも凄い。
その後。男性キャラと女性キャラはネコちゃんズの様子にはにか
み、『何かこのネコちゃん凛々し───』とか『ネコにしては鳴
き声がちょっと低い───』等と談笑に花が咲いて行く。
気が付けば辺りにはネコが絡む“ぽんやり”とした空気が漂い出
し、他のプレイヤー達の顔にも“ぽんやり”な雰囲気が伝播。
ホールでの事が丸ーく収まった事に、俺が十分な満足を感じてい
ると。
「……」
「うん? おい、どしたよ?」
下でホールの様子を見ていたロリ神様が台を降り、“ノロノロ”
と側を離れ、此方へ振り向く。何か待っている様子だったので、
俺ももう大丈夫だろうと小窓を閉じ。ロリ神様の方へ体ごと向き
直る。すると。
「なに? あれ?」
ロリ神様の表情はこれ以上無いほどにゲンナリと言うか、胡乱気
と言いますか。何かこう“アリエナイモノを見た”って感じの表
情。
「どうよ?凄いっしょ?」
「え。うん、いやすごいけど……。ああ、そうか」
「?」
ロリ神様は一つ納得した様子で。
「おまえってば使い魔達の“元の姿”を知らないのよね」
「あー……。あるんだっけ、確か」
実はネコちゃんズがネコじゃないらしい事は薄っすら知ってい
た。
ロリ神様は真剣な表情で。
「元を知ってるからこそ、あれには流石の私ですら哀れと言う感情
が湧いてしまう。いえ、ネコに落ち堕させたのは私なのだけど」
「よく分からんがその感想ネコちゃんズには絶ッ対言うなよ? あ
あ言う役回り頼むのむちゃ大変だったんだからな?」
「そうなの? いえそうよね、当然じゃない。……そうなると、お
まえは一体どうやってあの使い魔達を説得したのかしら。それに
何故? っと言うのも聞きたいわ」
「えー聞きたいのー? ツマンナイからやめね?」
後メンドイし。
「は。お前のその反応だけで面白い話しなのだと分かった。聞かせ
なさい。それに業務に関わる事は聞いておかないと、だろう?」
かぁーこのロリ神様、たまにカリスマ醸し出して流れを持ってく
んだよなぁ。目が真に迫ってるよ、真に。
「あー説得はまあ、見返りを提示したからで」
要求された物は法外なものじゃない。ただの冒険譚と、彼らの友
人になる事だった。そんなんで?と思ったけど特に俺が不満に思
う事は無いので即了承。
ロリ神様は『見返りねぇ……』とか呟いてるが、そのまま話を続
けさせてもらおう。止める気配もないし。
「後俺が何でネコちゃんズにああ言うのお願いしたかって言うと。
そりゃペットが店を彷徨いてると客、プレイヤーに受けが良いか
らってのが理由」
自由度の高さが売りなこのエリュシオン、ショップ系の幅も勿論
広く、そして現実にあるのだから当然と言った風に。ペット喫茶
成るものまで多数存在する。NPC同様モンスターもペットキャラ
の作りもハイクオリティだからね、エリュシオンは。
ペット系の動きにはランダムな要素が多いし、もち変更を加えて
それっぽくも演出できて、客の方も其処まで完全な“生き様”を
見れるとは思ってないので、最初から納得して利用してくれる人
が多い。だからショップの形としてもそこそこ人気な部類。
「へー。あ、でもそれならあの使い魔だけじゃなくて、もっと数や
種類を増やせば人気も上がるんじゃない? ドラゴンとか好きで
しょ?人間ってばいつの時代も」
「ッチッチッチ。分かってないなぁ。後勿論ドラゴンは好き」
「何そのムカつく態度? 次やったら飛ばすわよ?」
「沸点惹くッ! んん。結局何処まで行ってもパターン数の決まっ
た動きってのは拭えないもんなのよ。なんつーかこう、無感情だ
って知っちゃってるからね。
例えるなら、夜にすごーくラーメン屋さんのラーメンが食べたく
なって店に行ったけど定休日で、ラーメンはラーメンだからって
自分を納得させつつコンビニでちょい高いカップ麺買って食う。
けどやっぱラーメン食べたいなぁー……。みたいなね?」
「……え。全然何言ってるかわかんない」
こんなに分かりやすい共感話も無いと思うんだけど。やっぱ人外
だと世界の常識にズレもあるか。うんうん。
「つまり偽物と分かって、納得して、我慢しても。やっぱ結局偽物
だよねー。みたいに思っちゃうって事」
「それなら分かるわ。まあ最もな話ね」
「だからペットだけに頼った店ってのは、最後頭打ちに成っちゃう
んだよ。それにうちのはペットじゃなくて“使い魔”って所が大
事なんよね」
ネコちゃんズはロリ神様たち同様、このゲーム世界で魂を持って
る存在。つまり自由意志を持ち更には意思の疎通が出来るキャ
ラ。
「じゃなきゃあんな対応出来ないっしょ。なんで、公式仕様のペ
ットでカサを増しても、それはいらん粗を作るだけって事だ。
それに今やあの二匹はうちの最優秀スタッフ二番三番なんだぞ」
「えぇー……。なんか、ヤダ」
「ヤじゃない!」
館の主的に最優秀スタッフがネコ、と言う事に不満らしい。だか
らってどうしようも無いだろうし、勝手に不満に思わせておこ
う。うん。
「ああ仕込むの大変だったんぞ?
まず頼むにしろ『我らは猫にあらず』とか『仕方無しにこの形を
取らされているまで』何て言われて拒否されちゃってさー。
まーそこは視点をちょっと変えさせて、楽しみってのを見いださ
せたり見返りなんだりで説得。んでもって俺の完璧なウケる演技
指導で、ほらあの通り」
ネコちゃんズが居る席からは和やかな空気が漂っている。
「うーん今じゃ俺の指示もなしに完璧な対応。アドリブも入れられ
るとは。流石ネコちゃんズだぜ」
「ふーん。本当に頑張ってるのね。最初は失敗するだろうと思って
たのに……これじゃ折角の……」
「へぇー?(だろうな)」
最後のは呟く予定じゃなかった言葉らしく、少しロリ神様が慌て
た様子を見せ。
「!ま、まあー? 今見たら人も結構入ってるし!やるわねおま
えってば!」
「いやぁー……それほどッー!」
このロリっ子の魂胆は“分かってた。”どーせ俺が失敗したら
『責任ー!』とかって急にアレコレ追求でもして、俺を人力
ATMにでもしようって魂胆だったんだろうさ。じゃなきゃ権利
動かしたり俺の好きにさせる訳がないよなぁ!
全く、このロリ神様は狡賢くて強かだと思うよ。見た目以上に
はね。
「「アハハハハハ!」」
互いの腹を察するかの様に、もしくは何か誤魔化すように俺た
ちは二人で笑う。
「で、でもネコだけでこんなにお客が入った訳じゃないんで
しょ? ほら、乙女達にも何か指導? とかしてたわよね?」
露骨に話題を変えてきたな。ま、今詮索するのは互いに損だし。
「あーロリ神様って遠目にちょいちょい覗いてたな、そういや。
そだよ、ちょーっと接客対応についてと。後新しい試みもね」
「ふーん」
相槌を打ちながらロリ神様が近場にあったスペアのイスを引き寄
せ俺を見上げる。またかよ。
「へいへい」
「ありがと」
イスに座らせてやったロリ神様が続きを話せと目で仰せだ。
お店の方はそろそろ営業終了の時刻が近付き、ホールも既に落ち
着いてる。……今の所やる事も無いしな、暇つぶしに少しぐらい
付き合ってやるか。
俺は適当な壁に背を預け。イスに腰掛けたロリ神様へ。
「どっから話すかなぁ」
「接客の話から聞かせなさい」
「うい。っつてもまあ簡単な事っすけどね。お姉さんたちにお客さ
んの反応を見て、嬉しいと感じてる行為、好ましいと感じてそう
な接客方法を探って欲しいって、そうお願いしただけっすね」
「あら本当に簡単ね」
「だろ? でもな、曲がりなりにも此処でやってるのは接客業じゃ
ん? 接客って行為は特に相手へ思いが透ける事があんだよ」
受けての完全な偏見と独断だけどね。それでも俺は人生で“この
店員態度悪いなぁ”だとか。逆に“うわメッチャ配慮してくれる
じゃん!”みたいな事が、接客で一度はある、あった。別に心が
読める訳じゃないけど、自分が同仕様もなく卑屈な野郎じゃない
とすれば、心で思ってる事も目や所作の節々から伝わってしまう
のだと思う。
「これって俺の勝手な偏見だけど。此処の従業員、お姉さんたちっ
てば皆さんロリ神様と自分たち、後はそれ以外って分けかたして
る感じがするんよね。それも強烈に」
良くある話し、神と人。みたいな感じでね。
「……ふぅん。まあ、そうでしょうね。中身が乙女なんですもの」
お。当たってたっぽい。理由が端的過ぎて俺には理解できないけ
ど!
「まあ何を持ってしてかは分からないけどさ。だから俺は俺流に接
客の仕方、てか心得方かな? それを教えたんだよねぇ。
例えば───」
接客業もろくに知らない俺がした事、出来る事。それはホールを
“戦場”に、客を“攻略対象”に仕立てると言う、実にゲーム
脳な考え方。お姉さんたちには接客を通し相手の弱点を探し、
それを作戦会議で共有。またチームプレイでの攻略やら、予期せ
ぬトラブルを如何にメリットへ転じさせ活かすか等。
そうして作戦会議を日々開いたり、接客で落とした攻略対象を戦
果として話し合ったり。んな事をしていたら。
「これがお姉さんたちには合ってたのか。いつの間にかお姉さん
たちもだんだん乗り気になってくれて、会議の名前が戦略会議と
かって勝手に変更されたり。接客での僅かな会話の質も上がった
しで、戦果の競い合いもいい感じなのよ。
ま、客の奪い合いが起きないよう最終的な勝利は店全体の売りげ
って条件付け、あくまでチームゲーって意識も入れたけどね」
「乙女たちは元から好戦的だし、何よりも戦果とかが好きなのよ
ねぇ。だからおまえのやり方ってば乙女達のツボを押さえてたの
ね、きっと」
「へぇー……(リストゥルンさんってバトル時凄い気迫だったけ
ど、まさか他のお姉さんズも? それはそれで……ムフ)」
ロリ神様は何か感慨深気、いや納得気と言う様子を見せるなか、
俺はちょっとだけ腰が引ける思いだったりした。
「でもこれだけお客さんが来て繁盛してるのに、まだ館の維持費も
賄えないのね」
「いや? もう維持費分は稼げてるよ?」
あれだけ好評なのだから、当然利益も出てる。繁盛の道が険しい
だけに、繁盛すれば利益も大きい。
今や昼行灯はこの町に置いて。オーダー時と配膳時、綺麗なお姉
さんと会話が楽しめるお店、酒場として実に好評なのでした。町
のSMSを覗いても隠れ人気と見える。んまー間違ってもうちはク
ラブやキャバクラでは無いので、相席してのお喋り何かは無いけ
どね。あくまで飲食店としての繁盛を狙ってるからね。……昼間
は。
利益の話を俺から聞いたロリ神様は目を丸くし。
「え! そうなの!? ならもうやる事も無───」
「いやでも。ロリ神様が出した損失分がまだ残ってるからね?」
「───そうね、そうよね」
感情の消えたな表情と声のロリ神様。んーこれもこれで……。
「お姉さんたちの頑張りのお陰で売上は伸びたけど、それでも維持
費を払うのが精々なんだよねー。夜は事情があって営業してない
しね、今。
だから最低でもお姉さんたちへ支払うべき給与をもう少し、それ
に加えてやっぱ蓄えはいくらか欲しいんだよなぁ~。今後の為に
もさ」
ロリ神様は会話に混ざる嘘に気が付いた様子も無く。
「なら夜の営業……あれ? 夜やってないのにもう維持費稼げてる
の? それって凄い事じゃない?」
「! おー良い所に気が付きましねぇい! 実はうちってば今“宅
配サービス”もしちゃってるのよねぇ! 仮想世界でも初じゃな
いかな?ってサービスです」
「宅配さーびす?」
「そそ!(……一瞬“ヒヤッ”とした)」
元から客の少ない昼行灯。創意工夫を凝らしたとて、それで急に
客が入る訳もない。当然宣伝って物をしなきゃならない。現状は
したからこそ、だ。
でもただ町の掲示板にチラシを出した訳じゃあ無いんだな。町に
設置されてるニュース掲示板ってのは大抵既に人気店が広告欄を
押さえてるもんだしね。個々の町専用SMSも然り。出遅れたヤツ
にコンテンツ上位への席は遠い。な・の・で。
「うちはリアルで流行り、エリュシオン、てか仮想世界じゃ全く流
行ってない宅配に手を出したって訳よ~」
「そうよね、此処に居る者は大抵便利な移動手段持ってるもの、流
行らないと思うわ。宅配だなんて」
「でしょ! そう!そこだよ!」
オンゲの中で宅配を頼む意味は薄い、てか大容量のインベントリ
に無限倉庫までがあるのだから意味無いし。トレードを利用すれ
ばアイテムがインベントリに送られるのだから完全無意味。それ
にお店にだって直接飛べる訳だしね。何より、流石にこの仮想、
ゲーム世界にまで出不精な奴ぁ───居たんだよねぇ! 意外に
もさあ!
宣伝目的で始めた宅配サービスだったんだけど、思いの外これが
好評で好評で、注文は結構な数が来る。配達エリアこの町付近に
限定しているのだけど、それでもだ。
やっぱエリュシオンで生活ロールしてるプレイヤーさんとかは、
雰囲気ガチ勢でいらっしゃいますからねえ! 全力で楽しんでく
れるんすよ、これが! おまけに宅配員はみーんな綺麗なお姉さん
だし。
リアルに比べれば此処ってゲームの中だから、綺麗、美人は居て
当たり前みたいな所ある。けど基準が上がって価値が変動して
も、それまであった美しいモノが無くなる訳じゃ無い。やっぱ綺
麗な人は綺麗で、美しいモノは美しい。
「お陰で微々たる宣伝目的で始めたサービスも思わぬ噂になっちゃ
ったのよ。つかこの町で宅配がちょっとしたブームに成りつつあ
るしねぇ!」
「ふぅん。まあそうか」
「んあ? 納得できんの?」
二重の意味で理解の得難い話しだと思ったんだけどね。
問い掛けに“こくり”と頷いたロリ神様が、幼い顔に感慨深げ
な表情を浮かべ。
「考えてみれば人間って生き物はまだ完全じゃない。
利便性の追求をしては、果へ近付くと少しの不便性を求める。
人間が不完全な生き物だからなのか、それとも形質なのかしら
ね。兎に角完璧だけでは耐えられない、満足できない。完全に至
れば不完全を求め出す。完全の中でさえ不完全を求め、生み出し
てみせる、凄い生き物なのよね。
だから結局の所。人間とは完全と不完全の両方を行き来したが
る、全くもって贅沢な生き物で貪欲さの塊。人間ってばそんな不
思議で愛らしい生き物だもの。完全と不完全の両方が必要なのだ
から、此処でそれを求めだすのもわかるわ───なによ?」
「え、やめよ? 突然人外的思考晒すのはさ。ちょっと俺怖いんだ
けど?」
「えぇ……。そんな事わたしに言われても……」
はーやっぱコイツの中身人外も人外ですわ。何今の思考、いや種
族に対する考察か? え怖ッ、怖くない? そのうち“ニンゲン、
クウ”とか言い出さないよな。……いいや、やめよう。今の事は
忘れよう。忘れられないとしても今は受け止められ無いもん。
「んーそれにしても。乙女からでなく、おまえから館の話を聞くの
は面白いわね。うん」
伸びをし。表情柔らかく笑うロリ神様。
「ん?そなの? 俺って話し上手って事か?」
「さあ?それはどうかしら。でも……ええ。少なくとも乙女の話し
よりは遊びがあるわよね、おまえの話には」
「はーん」
ふと嫌な予感がした。それは親戚のクソガキに絡まれた時とかに
感じるモノと同一。つまりメンドイ系の気配。
「もっと他にないのかしら? 面白い話は」
出た。言いたい言葉ナンバーワンにして、言われたくない言葉
ワーストワンの言葉。“もっと”だ。くぁーメンド臭ぁ……。
「えー……。今はもう無いよ」
「あ、っそ」
おおう? 親戚のちびっ子連合と違って食い下がらないのね。…
…聞き分けが良いのは良いでメンでぇよ。逆に。
「……あーでも。そろそろお姉さんたちに新しい仕込みの説明で
もすっかなぁ~」
「! なに、また何かするの? 館の主として当然立ち会うわ!」
「あいあい(現金なヤツ)」
「すぐ、すぐに説明した方が良いと思うのだけど!」
「まーあ待てって」
よっぽど楽しみに飢えていた子供みたいに燥ぐのな。ゲームも何
もねえ田舎のばあちゃんち連れられた時の、小さな俺みたいだ。
まあ最後は山に田んぼに川を走り回って大満足するんだけどね、
最後は。
俺は急かすロリ神様をジェスチャーで宥めながら、次なる経営策
を実行する為。
「(ミランジェさん)」
個人音声チャットのチャンネルグループを開き、言葉を飛ばす。
すると直ぐに返事が帰って来る。
「(ルプス様。どうかしましたか?)」
「(お疲れっす。いや、今日の夜にでもミーティングしたいなぁ
って思いまして)」
「(分かりました。では───)」
「?」
何か声が伸びるなあ。と、思っていれば。
「───その様に準備しましょう」
「「ッ!?」」
言いながらバックヤード物陰影から“スッ”と姿を表すミランジ
ェさん。し、心臓に悪い!
「おや。驚かせてしまいましたか?」
「ちょ、ちょっとだけ……」
「これは申し訳ありません」
謝っているはずなのに薄く笑みが見えるのは気の所為か?
「………」
いや絶対笑ってるぞあれ! つかこの為だけに別経路でバックヤ
ードに来たのかよ!意外にもおちゃめさんなのかな!?
「はぁ。脅かすだけならもう済んだでしょ? とっとと仕事に戻り
なさい」
「ええそうですね」
同じ事に気が付いたのか、ロリ神様はミランジェさんへ“ツン”
とした態度を隠そうともせず接する、だけど相手は特に気にした
様子も無く別れの礼をして見せ。
「ではまた後で。“オーナー”」
「「!」」
そんな言葉を残し、バックヤード奥へさっさと去って行くミラン
ジェさん。彼女の言葉を聞いたロリ神様が身体を小刻みに震わせ
る。あ、ヤベーかなこれ? ミランジェさんもとんでもない爆弾
を───
「うふ」
「?」
「うふふふふふ」
「!?」
笑ってる。不気味な感じありありなのに気品が霞まないのは流石
で、だからちょっと怖い。壊れちゃったか? 何て心配して様子
を眺めていると。ロリ神様がゆっくりと、下から見上げるように
此方に顔を向け。
「聞いた? 聞いたかしら?」
「な、何を?(顔にブサイクと品性がせめぎ合ってる!)」
「バカねえー今のに気が付かなかった? 今あのミランジェがわ
たしの事を“オーナー”って呼んだのよ、オーナーって」
うわッ!もしかしてこのロリっ子! 言葉の“先が俺”って事に
気が付いてないの!? 明らかミランジェさん此方見てたろうに
よお! どんだけ自意識たけーんだよこの子ッ。
人の勘違いってなーんでこうも面白いのかね。俺は喉まで出かけ
た笑い声を、外に出さないよう必死に喉元で抑え込む。そんな努
力の様に気が付く事も無く、ロリ神様は意気揚々として。
「ふーん。このわたしの采配に敬意を払い始めたに違いないわ。良
いことね。うふ。」
「(やめてくれえええええええ! もう自慢げに語らないでくれえ
ええええええ!)」
ほんッと。人の勘違いって何でこんなに面白いの?
「ちょっと」
「ハイ?」
ロリ神様が“ちょいちょい、ちょいちょい”と俺に屈めとジェス
チャーをして見せる。あんだ? と思いつつロリ神様の目線まで
屈んでやると。
「まッ」
っと言いながら俺の肩に手を“ぽん”と置き。
「おまえもよくやってるわよ。オーナーなわたしの次ぐらいに!」
「ブッッッッハッ!」
「あ゛ーーーーー!?」
限界だった。
笑わないようにとか、気を付ければ気を付けるほどに自分を追い
詰めるだけで、今のロリ神様の行為は風船に針を刺す行為その
物。
だから俺は溜め込んだ笑い声を吹き出してしまい、溜められたそ
れは砲撃。砲撃を顔面直撃したロリ神様は両手で顔を押さえ何か
叫び散らしている。唾はエリュシオン内ではアニメチックに表現
描写されるので、現実みたいに汚い感じじゃない。……ま!気分
の悪さは変わんないよね! 唾は唾だし!
「じゃ、じゃあ俺!集まりあっから! またなッ!」
「あ゛ー。あ゛、あ゛、あ゛ぁぁぁーーー!!!」
床を転がりネグリジェみたいなパジャマの裾を掴み上げ、必死に
顔を拭くロリ神様を放置して。復帰される前にと思い、急ぎその
場を離れる事にした───
───昼行灯は現在朝と昼間だけの営業として、夜間はお店を閉
じている。宅配の方は町の全体から、夜間限定の範囲に狭べてや
ってるけどね~。
なんで、今はお店閉じた後。つまり夜。つってもまあ此処ってば
仮想世界だし、現実では普通に昼間だったりする事も。現実世界
と仮想世界では当然時間の流れが違うのだ。じゃないと楽しめる
時間がねぇ。それも仮想世界誕生と共に現れた革新的技術、意識
感覚の延長だとか何とかって言う凄く難しい技術の賜物、らし
い。
しかもその技術を完全に完璧に完成させた唯一が、エリュシオン
を作ってる会社って話しで。オンリーワンな技術としてエリュシ
オンに使われているのだとか。ぶっちゃけ楽しめればオールオッ
ケーな俺は詳しく知らん。
ま、もう仮想百パーセントになっちゃった俺には関係の無い話し
なんですけど! ログボを逃した現実に未練は無いぜぇ!
「ですので───」
「「「……」」」」
なんて事を頭の片隅で思いつつ。今俺は一階主要受付の前でぼー
っとして居た。前にはミランジェさんが立っており、今日の営業
総括を話している。彼女が話している相手は従業員のお姉さんた
ち。総括には何時も立ち会ってるけど、今日この後は俺が話す事
になってるんだよねぇー。あー人間って緊張するとどうして関係
無い事考えるんだろう? 別に大勢に話すのは緊張しないんだけ
ど……。
“チラリ”と視線を自分の横下へ動かす
「……。………。…………」
隣には衝撃から立ち直ったロリ神様の姿。圧がすごい。
ロリ神様は立ち直ってすぐ俺を探したらしく、ホールでその姿を
発見した時には、既にちゃんとした雰囲気の中。流石に見た目通
りでは無いロリ神様は空気を読み暴れはしなかった、が。
俺の隣に“スッ”と並び立ってはずっと、もずっーーーと此方を
睨んでるからね。俺が顔に砲撃を食らわせた事をまだ根に持って
いるっぽい。あーそこも大人な感じに流してくれねーかなー。
「───今後はそのようにお願いします。以上で私からの総括は終
わりです。何時もならここで解散ですが、今日は協力者のルプス
様から皆さんへお話があるそうです」
「!」
おっと出番だ。俺はロリ神様の視線から逃げるように一歩前に出
て、ミランジェさんが譲ってくれた場所に立ち。
「どもー」
「「「……」」」
相変わらず業務以外じゃ無なお姉さん達───でも無いんだな、
これが。皆真剣に、熱の籠もった視線を此方に飛ばしてくれる。
これも結果を出せたお陰かな。ムフ。
「えーっとですね。まず最初、皆さんにお願いした接客態度、意
識の改善等のお陰で、お店への客足が上がって来ました。また宅
配チームの活躍も目覚ましいっす。皆さんありがとうございま
すッ」
此処までの頑張りにお礼を口にすると。
「アタシ達だけの力じゃないよ! ルプスンが客の呼び込みとか、
宣伝?経営? とかって戦略を色々考えてくれたお陰じゃん!」
「(ルプスン? え、嘘。俺って裏でそんな間抜けな感じで呼ばれ
てるんだ……ショックー……)」
ウェイトレスさんチームを纏める元気いっぱいなヴァラさんが、
明るい笑顔でそんな事を言ってくれた。周りのウェイトレスさん
達も頷いているし。
元々ヴァラさんが仕切っていた訳では無く、なんとなくで纏まっ
ていたウェイトレスさんチーム。それを役職を確かとしてチーム
と明言、明記した事が良い方へ作用したのか。ウェイトレスさん
チームにはヴァラさんを中心としての纏まりが生まれている。
そんなお姉さん達にお礼を言われちゃって素直に嬉しいと思お
う。……いやぁ照れますねえ!
「いやぁ照れますねえ───っじゃねえ」
「「「……」」」
おっつマイハーツボイスが。
「んん! あーまあその、それも結局は接客してくれる皆さんの魅
力、努力のお陰っすしね。なんでやっぱ此処は従業員全員のお陰
って事で」
「だってさ皆! わー嬉しいなぁ!」
「「「!」」」
ヴァラさんは言いながら頭の後ろで腕を組み、左右に揺れてニッ
コニコだ。同意を求められたお姉さん達も笑みに表情が綻んでい
る。褒められたら褒め返す、互いが気持ちよく会話をする為と、
環境作りの為。経験から学んだ話術。
このまま何時までも微温湯な感じで馴れ合っていたい所だけど、
これ以上美人しか居ないこの場所でお姉さん達から一身に柔らか
い笑顔を向けられ続けると、“ニヤニヤ”が止まらなくなる。
なので話を進めよう。
「ってもまだまだこのお店は油断ならない状況です。そこで此処か
らまた一つ、お店の業務内容を変更、いや追加かな? をしたい
と思いまーす」
「へんこう?」
「「「……」」」
俺の話が気になったらしいロリ神様が疑問を挟む。態度的に、表
情的に機嫌を直した、とかって訳じゃないらしい。純粋に元経営
者としてっぽい。
序に他の従業員さん達も気になっている様子なので、勿論ここで
話が終わる訳はない。
「うっす。やめてた夜の営業、夜間営業を再開しようと思ってま
す」
「えぇー普通~……」
ロリ神様の茶々入れはスルーして。
「ただし。今後は宅配組も誰も彼も、夜間営業の話は一切しな
い事、それと夜間のシフトに就く人には専用の制服を来てもらい
まーす。あ、支給は俺がするんで、服の調達とか経費とかの心配
はしなくても大丈夫っすよ」
制服の複数制作依頼は、今後を見越しある優秀な鍛冶屋さんに話
を通し、制作費を結構浮かせてもらった。いい条件で取引できた
なぁ。ま、条件的に長いお付き合いに成るだろうし、後でミラン
ジェさんにその辺報告して置かんとね。
納入しに来てくれた筋骨逞しいオッサンに、ミランジェさんも皆
さんも不審気だったし……。
しかし着る物の指定ってのはちょっと心配にも成る。仲良く成れ
た、信頼もされて来たと思う。けどやっぱ心配よね、だって人の
着る物、コスチュームを指定する訳だし。渡す物が物だけに、引
かれると俺の心に大きなショックを与えかねないよ。
そんな心境を抱えつつ、お姉さんたちの反応を伺っていると。
「えーそれって本当に必要ぅ~?」
「!」
話し出したのは隣のロリ神様。
「今の制服で十分可愛いと思うんだけど? それに衣服の指定と
か、そう言うお店じゃないのよねぇうちは。あ、まさかおまえの
趣味とか何じゃないの~?」
「!!?????(余計な事言いやがってクソロリがッッ!)」
もしも俺の体が現実にあったのならば、きっと今頃唇から血を流
さんばかりに食いしばっていただろう。ぶっちゃけ今も食いしば
ってますけど!!!
ロリ神様はさっきの仕返しとばかりに、俺への個人攻撃を始めた
らしい。俺を貶めるイコール館の売上に響くって分かってるのか
な? このクソロリ様は!
「フッフッフ。何かおまえが乙女達に敬われてるっぽいことなん
か、カケラ程も気にしてない。おまえにこ、こ、ここの高貴なわ
たしの顔に、つ、つつつつ───!」
先が言えないらしい。
「───気にしてない、気にしてないから。あくまでこれは乙女た
ちの主としての意見よ。分かったら惨めに泣きなさい」
絶対分かってないなこのロリ神様! クソがぁああ~~~! 内心
怒りで身を捩りきっていると。
「恐れながら。ルプス様の支持のお陰で前よりも客が増え売上も伸
びています」
「!?」
「!」
頼もしい助け船で駆けつけてくれたのは、男性女性からも格好良
いと声の上がって居るミランジェさん。あっちが本物の女神だっ
たか。
「それに。上がった売上でルプス様がまず一番にした事は、我々へ
の給与支払いです」
「きゅ、きゅうよならわたしだってちゃんと───」
「ええ。全員が全員一律のモノをでしたね」
「めんど───不公平の無いようにねっ!」
いまコイツメンドイって言おうとしなかったか? 踏ん反り返る
ロリ神様にミランジェさんは───何も言わず。
「ええそうですね」
っと光のない目で一言述べ。
「ですがルプス様はそれぞれの業務内容に即した最低賃金を決
め、そこから役割、働き如何で給与を上げ下げしているので
す」
「へぇー? って下げられたら困るでしょ、やっぱわたしの方
が───」
「ニルス様。貴方のやり方では不公平は出ませんが、それは公平へ
と縛り付ける行為そのものです。それも個人の公平に。それでは
やり甲斐、と言う物が発生しないのでは?」
「ぅ。何か前もそんな事言われた気がする……。“アイツ”に貸し
た乙女達が生き生きしてて、わたしのは活き活きしてないって」
「労働環境でしょう。“あの方”はその辺、分かっている方でした
から」
俺をミランジェさんが褒めてくれてる、経営の仕方をロリ神様に
諭しているって事だけは分かった。……てか此処以外にもお姉さ
んたちが居るのかな?
派遣されてるなら派遣先を知りたいと思う俺へ、ミランジェさん
が視線を固定し。
「貴方はこの場所を好きと言った、守りたいとも。その言葉通り貴
方は行動で我々に示してくれました。であれば、私達は貴方の言
葉を信じ、従おうと思います。この場所を守るために」
「アタシもー! ぶっちゃけ今のが楽しいしッ!」
「……」
ミランジェさんの言葉にヴァラさんが手を振って、ロメリーさん
は片手を胸ぐらいに上げている。……アレは同意って事か? な
んか可愛いじゃん。
「「「……」」」
そして。彼女達の態度を見たお姉さん達も此方を信じる事にして
くれたらしく。小さく笑ったり、手なんて振ってくれちゃってる
お姉さんも! ヒャッフー! 此処が俺の天国かよぉ!?? いや
天国だわエリュシオンは!
「……あまり乙女に好かれるのは───」
「ふあ?」
「いえ、余計な事でした。話を進めてくれますか? ルプス様」
ミランジャさんが意味深な事を言ってた気がするけど、話してく
れる様子ではない。まあ今ロリ神様顔真っ赤で静かだし、また騒
ぎ出す前にちゃちゃっと話を進めてしまおう。
「ありがとうございます。んじゃま、早速夜間業務が加わるんで、
シフトの見直しからっすね。後支給制服ってのが───コレな
んすよ」
仮想インタフェースを開き、インベントリから装備を選択。
装備をプレビュー指定にして自分の前に表示。
「! あんたこれって!」
反省? らしきをしてたロリ神様が驚き声を上げた。表示した服
が普通とは違うからだろう。素直な反応だと思う。
「大丈夫、ゲームだから丈とかねーし、性別種別制限は多分オー
ケーなはずで、ちゃんと着れっから。ちなみに元は俺のコレクシ
ョンで、量産をこの町で知り合った鍛冶屋に依頼したから。
そだ。その件で後でちょっと話しがありますミランジェさん」
「分かりました。時間を作ります」
「うっす。んじゃこの制服は一旦接客チームのまとめ役であるヴァ
ラさんへ預けときますっすね」
「はーい!」
俺は取りあえずで複製してもらった見た目装備をヴァラさんに預
け。今後の業務を軽く説明しては。
「───って感じでやってくんで。皆さん、いっちょ頑張りましょ
う!」
「ええ。頑張りましょう、オーナー」
「「「はい! オーナー!」」」
ミランジェさんやお姉さん達が笑顔と声を俺に届けてくれた。
何コレ嬉しいぃ。一体感と言うか、やっぱチームで何かするのは
楽しいんだよね~。はーPTプレイ、チームプレイって最高!
やっぱオンゲは良いーじゃん良いじゃん!
「………」
「!」
不意に。俺の服の裾を“ギュ”っと掴まれた。
何かと隣を見下ろすと、“ギギギ……”とかって擬音が付きそう
な程に、不気味極まった動きでロリ神様の頭が、ゆっくり、ゆっ
くりと此方に動く。そして一瞬の間を置き、素早い動きで見上げ
“カッ”と目を見開いては。
「……お~な~あっあぁ~?」
気品高いお顔をびっくりするほど歪ませ、暗黒渦巻く瞳で俺を睨
んでました。あああいいあああああああ怖わあああああッッッ!
「へへッ。いや、これはほら、あれだよ~?」
「おぉなぁ?」
「へ。へへへ。や、やめよ、その、やめよ。ね?」
「おまえが、おぉなーなの?」
「へへへ───!」
逃げるが勝ち。時間が解決してくれる、はず!
「! ぶッッッッ転がしてやるぅううううう!」
追ってくるよねぇ! あああ何処逃げよう!
空色の青年は愛想笑いを浮かべ走り、彼を暗黒の瞳を伴い幼女が
追う。
二人の去った後では、集まっていた女性キャラ達が僅かな笑みを
浮かべ、バックヤードへ去った二人を見詰めていた。
二人が居た場所にはホログラム表示が残され、“紳士服”がゆっ
くりと回り続ける────
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