第四十三話 サービス

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第四十三話 サービス

 ───エリュシオン内時刻はお昼。  人々はリアルに倣い昼食を摂る者や、昼食時も気にせずひたすら  にモンスターを追い回し遊び尽くす者。或いは、この地で知り合  えた誰それと語らう者達。それぞれが思い思いに過ごすランチタ  イム。  彼らと同じ仮想で生きる空色の青年。彼はと言えば自らが通い詰  めた酒場へ潜み、昼行灯の一室にて一人机に向かう。机の上には  幾つも浮かぶ小窓。小窓の中には何かしらの文字、数字が流れ。  青年は“ジッ”と流れる、流す文字を見詰め過ごして居た。  俺の存在するゲーム世界危うしな事態よりも、差し迫ったゲーム  生活での危機を優先し、仕方もなく俺はロリ神様経営の。経営も  傾いて傾いて倒れる寸前な酒場兼、陣営拠点の立て直しに尽力せ  ざるを得なかった。今潰れられると大変困った状況に陥るから  ね。俺個人の立ち回りを含めてさ。  んな訳で俺は現在“何故暗黙の協定関係すら無視してまで、獣陣  営が此方に攻めてきたのか?”その疑問を調査する事も出来ず。 「(現実が無い俺はログアウトもしないで、だだ溢れ余る時間と言  う最高の資源を、まさかと持て余し。今日も今日とてバックヤー  ドの小部屋でゲームな日々を過ごすのでした。  ……最高かよッ!)」  スタッフだけが行き交うバックヤードエリア(酒場の裏側)。  其処へ新設した小部屋の一つは、現在主に俺が閉じこもって作業  する為だけのお部屋。条件と必要資材さえ用意できればワンポチ  で“どんな構造やねん”って感じに増築出来上がっちゃう。既に  ある部屋のいち替えとかもね。この手軽さは流石のゲームシステ  ム。  因みに、制限のキツイ外と違い内部は増築やら新設に魔改造と、  ある程自由に出来てしまうのだ。なので素人制作の建物は内部が  大変カオスな事に成っている事がままある。  流石に企業運営の建物とかはモノホンの建築師や、他ゲーで腕を  磨いたクラフターなプレイヤーさんとかを雇い設計、もしくは彼  らが売り出す設計図を購入して建築したりしてるけどね。  設計図と必要コストを揃えれば、後は自動建築が可能なのだ。  まあその設計図でも素人制作のヤベーのがあるんだけどね。法外  な制作コストとか違法艦橋みたいな配置ヤツとかさ。  でも買う前に見るべき所をしっかりと見れば、適正価格の設計図  で優秀な物を見抜けられるようになる。  今回増築した部屋の設計図は俺がマーケットで買い漁ってきた物  で、プロとか有名ど所ではないんだけど。俺が普段使いしてる所  の製作者さんの物なので安心と信頼のある仕事っぷりで、一部屋  制作に掛かるコストがかなりいい感じに押さえられた。お陰で資  金にはまだ余裕もあり、序とばかり別のスタッフルームも幾つか  同時に新設。新設したのだけど……。  いや、それまでは無かったって言う事が驚きの事実なんだよ  ね~。 「(バックヤードは厨房っぽい所以外何処まで行っても通路。ね  ーなねーなと探してたらそもそも待機部屋自体無いって言う地獄  的事実。バックヤードは部屋と言うより廊下だけで構成されて、  幅を広げたりして誤魔化してた感じだったなぁ)」  お姉さんたちが自由な時間を持てるよう部屋を昼行灯三階、宿屋  として利用されていた場所の機能を縮小して使ってたけど、バッ  クヤードへスタッフルーム増設に伴い、あっちはお姉さんたち個  々人の自室兼自宅とした。  まだ自室の使い方とか分からない感じなのだけど、要望があれば  アップグレードや家具の追加に対応しようと思っている。  にしても。 「(お姉さんたちの大半、つか此処に務める全員が家を持ってない  とかヤバすぎでしょ。遊んでるプレイヤーならまだしも、此処で  生きてるってのにさ)」  ロリ神様やお姉さんたち曰く『此処が我が家』との事。  なんで。自室や自宅として利用する三階は、今後も集客の見込め  ないであろう宿屋機能は全撤廃。多分今後も宿屋再開はないだろ  うなぁ。イベント後に少し、その後は宿利用者一人も居なかった  しね。  そんな訳でお姉さん達が待機する為の控室と、ロメリーさん率い  る裏方さん達が作業する為の部屋をバックヤードエリアへ増設。  俺の部屋と裏方チームの利用目的が完全にかぶってるんだけど、  部屋は分けている。これも俺個人としてはなんら問題も無い事な  のだけど、流石にお姉さんたちに囲まれ眺められながら作業をす  るなどと言う贅沢、それでは作業に集中できなさそうなので此方  から回避させてもらった。お姉さんたちってば俺を良くチラ見す  るからね。なので泣く泣く、泣く泣くね。 「(つってまーそれで個人部屋作るのもどうなん? って話しだ  よね。ぽんぽこ無計画に増設すると後でカオスだからなぁ。  ……ま、他とはワンランク低めでサイズも小さいし、これくらい  良いべ良いべ)」  何て事を頭の片隅で思いつつ仮想インターフェース、小窓に上が  ってきた新規データ、その中身を確認。  作業って言っても大半は心底優秀なミランジェさんが、間違いも  無く上げてくれた業務内容とかの書類データを、これまた意外に  も経理、整理作業が得意らしいロメリーさんと彼女を中心とした  裏方お姉さんチームが纏めてくれた、ほぼ完成な中身。それをロ  グ保管庫へ収める前に自分が興味あるかも~ってヤツだけ読んだ  り今後の経営計画を立てたりしてるだけ。周りが優秀すぎて、逆  にサボってる様に見えるかもだけど、サボってないよ。  後はお店の資金配分を仮想化された簡易バロメータ画面イジイジ  操作したりね。マジでゲームらしい“ふわっ”と業務システム。  グループから個々人までの給与増減も簡単なタッチ操作。  勿論現実程じゃないにしろ、収支決算とかクソ面倒な事もあるっ  ちゃあるけど、今は其処まで突き詰めてないのでスルーで良い。  良い事にしてる。この町、土地的に上納とかってメンドイローカ  ルルールも無いしねー。 「(作業に必要だからとセクマネに選んだ人たちへゲーム的仕様、  感覚操作を教えたら吸収がバカみたいに早かったなぁ。最初は仮  想インタフェースの出し方も分かってなかったのに、使い方とか  レクチャーした今じゃ完璧に使いこなしちゃってるんだもん  なぁー。あの飲み込みの良さは将来有望なゲーマーのタマゴ、是  非フレンドになりたい所。  そんなセクマネさんたちのお陰で、マジに経営も安定して来て。  今ってばもしかしなくても一番平和な時間じゃね? あーマジ、  よくここまで育てられたモンだよ全く)」  俺はイスに背を預け机の上の小窓の中。項目分けされたリストか  ら視線を天井へ動かす。  元々客足が多いとは言えなかったここ昼行灯。ま、そこも一つの  魅力、売りにもなるんだけどね。ある種の店は客の入場制限なん  かを掛けて店の雰囲気を保ったり。何て所もあるし。  まあそう言う事出来るお店は維持費を自分で稼げたり、もしくは  その入場制限内でも儲けが出るようにしているもんだ。此処はた  だ単に過疎ってだけ。  何故過疎っていたかと言えば、特別な何かもこれと言った強みや  魅力が今一つ無かったからだろうねぇ。従業員が綺麗なお姉さん  ってだけ何てのはそこら辺にあるもんだし。嬉し悲し、ゲーム世  界故に美は溢れ、基準は引き上げられているのだった。  ただし努力のし甲斐、幅はちゃんとあるので綺麗や美しいを極め  たいと思うと奥が深い。あくまで基準、基礎偏差値が引き上げら  れたってだけの話し。……例外ってのは何処にでもあるけどね。  醜を極めんとするプレイヤーとかモブを極めんとする猛者とか。 「(考えてみるとマジな部分、商業とかって所では変哲のない、な  さ過ぎるお店だったんだなぁ。なんで俺みたいなヤツが気に入っ  たんだろう? ……やっぱお姉さんたちから感じた、隠された秘  密に引かれたのかな。だとしたら俺も相当な嗅覚の持ち主だ  な。慧眼、審美眼って言うんだっけ?)」  とは言え。俺レベルのハイレベルなNPC愛好家でも無い限り、そ  の魅力には気が付けまいよ。ちゃんと儲けを考えると秘められた  魅力だけを売りにはできない。  冒険で維持費賄って、お店は趣味ってのに徹すると言うのも人気  ロールプレイの一つだけど、ゲーム内通貨を稼ぎたいって言うな  らそれなりに努力をしないとダメだからねぇ。かと言って現実と  全く同じ様にすれば良い訳じゃないのは、ゲームの中だからこそ  の難しさか。 「(現実には従業員全員が超美人なお姉さん方ってのも、魔族だ  けの店ってのも難しい。でもエリュシオンなら“面白い”と“楽  しい”は何処までも突き詰められる、突き詰めないと行けな  い)」  俺の知ってる人気店の一つには、従業員全員がバニースタイル装  備に身を包むと言う、そんなイカれたお店がある。男女は勿論い  かなる種族も、ね。初来店時の衝撃は今も忘れられない。  たまたまガールズデイと呼ばれるもので、店員さんの姿に目を輝  かせ鼻の下を伸ばし尽くし。もう一度と来店した時はマッスルメ  ンズデイとか呼ばれるヘルズデイに遭遇。初めてエリュシオンの  映像美を心から恨み、自分の眼球を刳りたく成る思いをしたの  も、今ではいい思い出だ。  ……嘘。やっぱマッスルメンズデイは滅ぶべし。 「(懐かしいってぐらいには前なんだよな……。はー客だった俺が  今や店の経営かよ。エリュシオン内でも一生手を出す事ないコン  テツだと思ってたんだけどね~。……んま。オンゲ人生ってわか  んねーもんだしな)」  やる気も無かったコンテツもいつの間にか手を出したり。楽しみ  にしてたアプデが箱開けたらこれじゃないと裏切られたり。色々  あんだよね。ホントオンゲはさ。 「……随分と遠い目をしてるな。一体何考えているんだ?」 「ヒョ!?」  声に振り向けば、部屋の入り口から声を掛けてきたのは相棒だっ  た。最近背後から話しかけてくるヤツ多すぎじゃないか? 「ビビらせんな! ……おっす」 「……」  顔を僅かに動かし挨拶を返される。うーん、キャラメイクと相ま  って、一つ一つの挙動がメチャ渋格好いいなよな。俺もオジキャ  ラ作ろうかな? ……いや、今じゃもうキャラって増やせない  か。  挨拶を交わした相棒に要件は何かと聞こうと思ったら。彼の背後  に別のキャラの影が現れ。 「何か用事───」 「ルプス様! “初めてのお客”さんが来ましたよ!」 「って事だ」  相棒に続きリストゥルンさんの登場。てか遂にか! 「おぁマジか!」  俺は業務を一時中断し、手早く仮想の小窓達を一斉に閉じちゃっ  て立ち上がり。 「見に行こうぜ見に!」  訪ねて来た二人を連れ立ってホールの見える場所へと移動する─  ──  ───メイン受付カウンター後ろに設置された扉。  バックヤードへと続くその扉に、僅か隙間を作り三人で店内の様  子を伺う。相棒、俺、リストゥルンさんの三人揃って見詰める先  は一階ホール。酒場やクエストカウンター等が利用できる、言わ  ば現在昼行灯のメイン業務の仕事場。昼間は酒場として営業して  るので、当然接客担当のスッタフさん達が行き交う。  其処へ。 「……」 「!(出てきた出てきた!)」  今大注目(俺調べ)の新人ウェイトレスの登場だ。  ホール左側。主に飲食の注文受付カウンターとして機能する場所  の隣、奥の厨房とホールを区切る扉から一人のウェイトレスが出  現。  店内を行き交うお姉さん達と比べ明らかに身長が低く、体格的に  も見た目的にも幼女なキャラクター。一見すると場違いだが、そ  の不思議な髪色のキャラはフリルの付いたエプロン制服に銀のト  レイを両手で抱えるように持って居た。つまりまあ、あのロリっ  子はウェイトレスと言う事が誰にでも分かるだろう。  黙って佇んでいるだけなのに“ゾクッ”として来そうなお目々。  やっぱ顔とかのキャラメイクの出来だけはダンチだな。神レベル  と言える。  ……にしても。 「………」 「(また随分と……。不機嫌を隠そうともしないな、館主様は)」  ロリ神様の様子に相棒が呟く。 「(ええその、ニルス様はずっと“何で!?”と仰ってましたか  ら……)」 「(あー最後の最後まで納得してなかった感じ? あのロリ神様っ  てば意外と観念しないのね)」 「(えっとその……。はは……)」  現在団子のようにホールを覗き、身長の関係で一番下が俺なので  顔は見えないんだけど。困り笑顔でも浮かべていそうなリストゥ  ルンさんの声色だけは分かった。  全く、お姉さんたちのとは違って結構可愛目なフリルとか、スカ  ート部分にはプリーツまで追加してやったのに。言わばロリ神様  専用カスタム制服なんだぞ?  まあただちょーっと可愛めを狙い過ぎたかな? とも思った。  もっと落ち着いた感じでも良かったかなぁ、とかさ。 「(んでも。あんな見事に着こなして貰えるんならカスタムした俺  も嬉しいってもんよ。……マジで素材だけは良いんだよ、素材だ  けは)」  視線の先。見事に制服を着こなしてくれたロリ神様が歩き出す。 「……」 「「! ……」」  歩き出したロリ神様、その進行方向には当然給仕に務めるウェイ  トレスなお姉さん達の姿。しかしお姉さん達はみんな進んでロリ  っ子に道を譲り。見る角度で色が変化する不思議~な髪を店内で  靡かせ、不機嫌フェイスのロリ神様が向かった先は。一つのテー  ブル席。勿論お客様が二人座ってらっしゃる。  見れば客は獣人(ビーストマン)タイプのキャラ二人のご様子で、側には既に注  文受付のウェイトレスさんの姿も。  だけどウェイトレスのお姉さんはロリ神様が側に来ると直ぐにお  辞儀をしてその場を離れて行ってしまう。……給仕を譲るって変  な光景だな。 「……」 「「……。……」」  席へ到着したロリ神様は二人の客を見上げ、見上げられた客は困  惑した様子でロリ神様を見下ろす。周りみーんなお姉さんの中、  たった一人のロリっ子だもんね。しかもなぜか給仕交代。そりゃ  驚くよ。  驚き黙る客二人へ、ロリ神様がため息混じりに発した第一声──  ─ 「……」 「……!」  ───は残念! 席が離れすぎて此処まで音声が届いてない。  音声が聞こえるギリッギリの距離なんだけど、叫んでる訳でも無  いし。何より、昼間の昼行灯は嬉しい事にお客さんも多く雑談も  盛んなのだ。色々頑張ったお陰で嬉しい繁盛具合。ま、それでも  他店と比べると普通ぐらいなんだろうけどね、来店数的には  さ。  主な利益は夜間と宅配で結構、ね。 「流石に此処からでは他の声に負けて聞こえないか」 「何かお困りの様子ですが……一体を話してるのでしょう?  ああニルス様、私がお助けしに、いえしかしそれでは……」  相棒は気にせず。リストゥルンさんは心配だと言った様子。  あのロリ神様の初接客、折角の面白イベントを聞き逃す事はした  くないなぁ。最近ずっと作業プレイばっかりで、面白みに飢えて  たし。その為に態々接客時には呼ぶよう頼んだ訳だしね。  な、の、でー……俺は団子状態から一人離れ仮想インタフェース  を開いては。 「えーっと。あの位置ってば確か八番席だったけか?」 「「?」」  不思議がる二人の視線にも構わず。インターフェースを開き昼行  灯の管理者ページへ。そこからセキュリティへアクセスしては、  八番席の情報、次に“マイクシステム”の項目をオフからオンへ  と切り替える。  すると。俺が開いたインターフェースからは音声が流れ出す。 『だから。何見てんのよ?』 『な、なぬ!?』 『用があるからわたし(給仕)を呼んだんでしょ? ならさっさと注文で  も何でも言いなさい』 『なんて態度だ! 俺たちは───』 『うるさい。店内で大声出さないでよ。後注文があるならはやくし  て』 『───あ、すみません。……そうだな。えーっとこの───』  客が言ったように俺も言おう。何と言う接客態度だ! 客に催促  するヤツがあるかよ!そら大声も出るって!  ロリ神様の超然とも言える態度がそうさせるのか、お客二人は素  直に注文を頼んでいる。途中ロリ神様が『それたべるの?』とか 『こっちのが良いんじゃない。量多いし』とか何を根拠にか口出し  をして、また素直過ぎる客が助言に従っている。むふ。 「ダハハハハハ!何だあれオモロ! 客も客だよなぁ!!!」  俺は爆笑しながら相棒とリストゥルンさんへ言葉を飛ばした。  のだけど。 「いやお前……。なにナチュラルに店内に“盗聴コード”仕込ませ  てるんだ?」 「そ、そうですよルプス様! 何故あの場の声が此処に聞こえるん  ですか!?」  おっとっと。俺は面白コントの音量を下げ、二人へとちゃんとし  た顔を作り。……序に素晴らしい働きのロリ神様の給与設定をゼ  ロから変更してっと。 「んん、盗聴とは失礼な。あれはですねー、もーしも問題が起こっ  てしまった時にー。お客様とお店、双方を守る為のモノ。つまり  重大で大事な物防壁とか措置とかそんなんです。  だからなんーもやましくないからね。これっぽちも!」 「双方を守る防壁。な、なるほどー……」 「貴方も素直だな。どう繕っても普通に盗聴だろう、あれは。正当  化しても盗聴の事実は変わらん」  素直なお姉さんと違い言いくるめられない相棒へ俺は。 「自衛のだって言ってるでしょ! それに告知義務は此処には無い  んですぅー」  リアルと違ってゲーム内のキャラは個人情報へ含まれない。含ま  れるVRサービスも在るけど、此処は含まれない方のVRゲー。  んま、エリュシオンも場所によっては個人情報保護ルールが有効  化されるルームも作れるけどね、企業の会合とかイベントやらラ  イブステージとかそんなんで。  お店に依っても店内プライバシー化とかして、内部情報の制限と  か掛けてるお店は存在してる。けど運営からの義務や強制って物  は無い。なので防犯目的で撮影、録音がされても規約的にも法的  には無問題だったりする。  ……とは言っても、実はその辺酷く曖昧なのよね。ゲーム内ライ  ブ映像の無断公開を訴えて、勝ててしまった事例も過去存在して  いるのだから。此処ってば“アイドル”ってヤツも居るから  ねぇ。  なんで。暗黙のルールとしてキャラの画像公開には事前許可が必  須で、無視しては何が起こるか分からない。怖い人を怒らせるか  も知れない。ってな感じにその件以降抑止が効いているのだった  りする。  んまーそれ以前からやっぱネチケット、キャラメイクVRゲーで  は良識として守られてきたんだけどね。俺も守ってたよ勿論。  だから。 「序に言うとだな、ちゃんとプラベまでは聞こえない精度の物だ  からね? 周りに聞かれたくない会話なら当然オープンで話さな  きゃ良いんだよ、此処はVRの世界何だし。  それにマーケティングとリサーチの為の経営戦略への参考でしか  使わない手段でもあるから、聞ける人も場所も限定して管理して  るの。お外に漏れないようにね。  だからはい、終わり。盗聴じゃないで終わり終わり!」 「うーん無茶苦茶だ。だがそれに一理を含ませる辺りがまた何とも  お前らしい」  実際のお店は盗聴システム何か勿論無い───っと言う前提があ  るけど、大事なお話は当然プライベートチャットの機能を使うべ  きと言うのも、これまた前提のお話だったりする。れっきとした  ネットだしね、此処(エリュシオン)。  だからまあ、グレーって事で済まそう。うんうん。悪用って事は  一切考えてないしねー。一定の良識はあるのだぞ、俺にも。 「む。館主様の接客が終わったみたいだぞ」 「おあー……。オモロイ場面だいぶ聞き逃した気がする」  二人に説明(弁明)してる間に面白イベントは終わってしまったらし  い。  まあ触りだけでも聞けたからラッキーだったとするか。……此  方の真の目的は煩かったり煩わしくなったらこのネタを使っ  て、ロリ神様を擦る事なのだから。クフッ。……アレこれ悪用  じゃね? まいっか、ロリ神様って身内だしノーカンっしょ。  しっかしホント。リストゥルンさんに頼んだ甲斐があるねぇ。 「まあ面白いモン見れて聞けたし。ありがとうございますリストゥ  ルンさん!」 「いえ。その、オーナーに頼まれた事ですから」 「盗聴が役に立ったな」 「だからこれは自衛とリサーチ! 良いか? 此処はただのお店じ  ゃないの、この世界にとって知られざる重要ポイントな訳よ。  それにね、こうして人気なお店になれば情報が手に貼るかも知れ  ないじゃない? 誰だって情報は必要でしょ?」  折角のチャンスに獣陣営の状況を探れなかったしね。  ま、こんな敵陣ど真ん中で相手陣営の話が聞けるとは微塵も思っ  てないけどさ、何かしら情報を集める手段は必要だ。この町がロ  リ神様陣営の拠点ならね。 「まあ……。確かに合法非合法言ってる場合ではない、か。それに  しては良心的な方だったな。すまん」 「分かればいいのよ、分かれば」  世界の為って言い訳は最強だなと思う。だから勇者は最強なのか  も知れない。ツボとかタンスとか漁るらしいし。 「流石はルプス様です。世界のこと、私達の事を考えてそのような  策を……。リストゥルンは感動しました。やはり行くべき素質を  持つ素晴らしいお人です!」  尊敬の眼差しと。 「……」  相棒からの疑いの眼差しを同時に受けた俺は。 「え、えーまあ? 当然っすよ当然! やっぱね、世界大事っすも  んねぇ!」 「はいッ!」 「敵対陣営の情報が入れば完璧なんだがな。生憎と此処じゃそれも  望み薄だろう」 「っだね。まあそう簡単には───」  三人で雑談を楽しむ最中。開きっぱなしだった俺の手元回線から  音声が流れ続ける。 『あの幼女、接客の仕方はあっているのか? 客の俺らに配膳させ  るなんてよ』 『全く。ケナシは全く……』 『『そこが良き!』』  二人の声がハモル。うるせえなぁコイツら。あ、でもロリっ子が  人気な様で良かった。昼間のマスコットとしてこれなら……てか  “ケナシ”って何よ? 初耳な用語なんですけど? 『うーむ。良い、良いなぁケナシは。やはり俺らと違った魅力があ  る』 『然り。特に今の幼女、いや正しくはロリと言うべきか? 柔らか  そうな肌に所作を含め、実に得点の高いケナシであったな。得た  情報通り、ロリとは素晴らしい」 『それには同意せざる得ない。出来ればまた……。使命制度はこの  店あるのだろうか?』  ロリ神様大好きかよ。……使命制度、使命制か。ナルホド、次の  サービス展開に盛り込もうか。でもクラブとかに在るのとは別な  方法考えないとな。  ウチってばクラブとかじゃないのでお隣でお話ー……なんて物は  無い。無いけど、注文を受ける時と配膳時に少しお話をする事を  お姉さんたちには頼んである。  折角のゲーム世界なのだから、その辺の楽しみがあってもいいよ  ね? 俺は構わない、客受けも良いし。ムフフ。 「(っと行けね。何時までも盗み聞きする趣味は───)」 『しかし本当に此処が“ニルス共”の巣、なのだろうか?』 「「「!!?」」」  は?今なんてつったこのお客様!?  会話の雲行きが一気に怪しくなった。そんな所へ。 「戻ったわよー……ってあんた達そこで何を───」 「「「シッ!」」」 「えぇー……。何よ何よ、わた、わたしは慣れない接客してきた  のに……。……ゥ」 「! ももも、申し訳ありませんニルス様ッ!!」 「い、いいわよ。別に……」  謝るリストゥルンさんに泣きを我慢して拗ねるロリ神様。 「あ゛ー今は拗ねんな! つかちょっと此方来い!」 「いやよ。あたしなんか───って、いやちょっと。引っ張らない  でよ!」  俺はロリ神様を加えた四人で会話に注意を払う事にした。  引っ張ってきたロリっ子が『もう強引なんだから……』とか呟い  た気もする中。 『その筈だ。長達が言うには、此処が他の群れで唯一まともに戦え  ぬ群れらしい。曰く人形の集まりだとか。まあ人形共だからこ  そ、商売の才でもあったのかも知れん』 『そう言っても相手は最弱と言われた群れながら、あのマシラ達の  奇襲を退けた相手なんだろ? 油断は出来ねえな』 『ああそうだ。しかしマシラが勝手をした、してくれたからこそ、  我らはこうして偵察任を受け。……ケナシを存分に眺める約得を  えられた訳だな』 『其処だけはマシラの群れに感謝だ。そして今少しケナシを眺め過  ごそうぜ。探りは後でも出来るからなぁ!』 『『ハッハッハ!』』  その後。  暫くケンナシ談義の花が咲くビーストマン達。その会話は全て此  方、バックヤードで聞こえていた。俺は一緒に聞いていたロリ神  様へ顔を向け。 「ロリ神様」 「……なに?」 「彼らってばどうやら獣陣営のスパイっぽいじゃん?」 「……そうね。こんな偶然あるのね、てゆーかわたしの事を舐め  過ぎじゃない?アイツら」 「確かに。だから彼らをー……VIPルームにご案内しません?」 「VIPるーむ?」 「言い換えると───ロリ神様の寝室、“から”行ける場所」 「!」  俺の考えを察したらしいロリ神様。相棒の方もリストゥルンさん  も分かっているらしい。 「んでお姉さんたちも何人か付けちゃってさ!」 「とってもいい考えね! 直ぐに引っ張って───」 「ちょーい待ち!」 「なによ?」 「出来れば引っ張る前に───」  ロリ神様へ頼み事をする。  最初は心底嫌がっていたけど、絶対に必要だからと説得し。渋々  ながら了承させる事に成功。持ち上げたり後で言う事聞くからと  色々約束させられたが、頼み事はロリ神様にしか出来ない絶対の  事だったので……やむ無しだ。  そうして俺と相棒は“許可”ってヤツをロリ神様からもらい寝室  へ一足先に向かい。ロリ神様にリストゥルンさん、後お姉さん数  名がお客様の下へと向かう───  ───ロリ神様を二人の客へと差し向けた後。俺と相棒はロリ神  様の寝室で待って居た。到着すると同時に相棒がハンドガンを装  備し、片腕をコートの裏に隠す。……ちょーそれっぽーい。  何て感想を思った暫く後。  片手に開いていた小窓から、お客様二人が案内されバックヤード  を通り、あの廊下を通り抜け。遂にロリ神様の自室へと招かれる  様子を確認。小窓を閉じると同時、扉が開き。 「「?」」  案内を受たお客様、ビーストマンの二人が“キョトン”っとした  様子で登場。彼らは俺と相棒を見遣って居る。その背後で扉が閉  まるのを確認して。 「よーうこそお客様! 私当店オーナーの相談役でございます」 「!!」  緊張も。 「本日はお客様お二人だけに、最高で特別なサービースをご提供  したく、こうしてVIPルームへお招きしました次第です。  はい!」 「「ほほう」」  一瞬と過ぎ去り。  俺が身を少し逸らして、背後。ベッドの上で艶かしく寛ぐお姉さ  ん達の姿を見せる。彼女たちは此処へ来る途中誘った、仕込みのお  姉さん。  彼女たちの姿を見せ、彼らが背後に意識を向けないようにして  は。 「今回ご提供させていただくサービスはですねー……大変刺激的  です」  意味もなく小声で囁く。 「「お、おおお!」」  ビーストマン二人が喜んでいる。全く、なぁ~にを想像してるん  だか! 「このサービスに敢えて名前をつけるとするなら───」 「「おおおおお!」」  ロリ神様へ視線を一つ贈り。ロリ神様が指をパチンッ一つ鳴らせ  ば、俺たちの世界は白亜への侵食を受ける。 「「!!?」」 「───ハッピーな尋問タイム、ですかねぇ!」 「「「!」」」  俺の合図を皮切りに。ベッドで寝てたお姉さんたちが飛び出し、  危機を察しったビーストマン二人が振り返った先にも、お姉さん  達が立ち塞がる。  連れ立って来た彼女たちも含め、全員が一斉に槍を武装。差し向  けるは先は───勿論ビーストマン二人。 「「……ッ!」」 「んじゃあ特別サービス、始めましょうか?」 「「………」」  白亜の地にて。獣人を人形達が取り囲む───
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