1死に至る影

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 放課後。  暦は例にもれず掃除を押し付けられたようで、一人でチリトリと箒を持って、中々帰ろうとしない三、四人の塊の周りをウロウロしていた。 「おい、早く帰れよ。掃除できないだろ」  真司はそんな塊の中に入り込んでいき、高圧的に言葉を放った。 「え? あー、分かったよ。どーする? ファミレス寄ってく?」  その集団は少し怪訝な顔をしながらも、輪を崩すことなく教室から出ていった。  真司と暦だけになった教室には、遠くから聞こえてくる管楽器の音以外、なにも音はなかった。 「あ、あの。ありがとう」  その気まずい沈黙を先に破ったのは暦だった。 「別にいいよ。でも君さ、ちょっと気弱すぎない?」 「え?」 「掃除も毎回押しつけられてるよね。それって都合のいい人としか見られてないって分からない?」 「ま、毎回って? 今日しか変わったことないよ?」 「今日だけでも押しつけられたら駄目だろ。大体ああいう自分だけが楽をしようとするやつと、君みたいに嫌われるのを気にしてなんでも引き受ける奴がいるから、世界はおかしくなっていくんだよ」 「う、うん? ごめんね」 「謝って欲しいわけじゃないんだけど、まあいいよ。教室は俺がやるから、君は廊下やってきてよ」 「え? 廊下はもうやったよ」 「中途半端なんだよ。廊下も教室も完璧にやれば、掃除そのものがなくなって押し付けられることも無いだろ」 「掃除ってそういう物じゃないと思うけど……」  あからさまに納得のいってない様子の暦を無理矢理廊下に押しやって、時刻を確認する。  目標は五時。本筋とのズレは出来るだけ小さい方が予測がつきやすい。  そうして真司はゆっくりと、丁寧に箒をかけ始めた。
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