1死に至る影

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「雑巾掛けとワックスまでやる必要なかったよ、絶対。先生ちょっと引いてたし、もう五時だよ?」 「うるさい。どうせ終業式の日にやるんだからいいだろ」  少々強引な手を使って五時まで掃除を長引かせた真司は、そのまま流れに乗って暦と一緒に駅まで行くつもりだった。 「あの、もしかして付いて来てる?」 「は? なんでそう思ったんだよ」  「え? だ、だって、なんかスピードとか合わせてくるから……」 「気のせいだろ。俺もこっちの駅なんだよ」 「う、うん……」  暦に若干怪しまれつつも、真司は自分と比べて遅すぎる暦の歩みに合わせて、夜道を歩いていた。  五時というのは微妙な時間で、部活をやっている生徒からしたら早すぎて、まっすぐ家に帰る生徒にとっては遅過ぎる。  従って、歩いている道に真司達と同じ制服を着た学生はほとんど見当たらなかった。 「あ、あの。今日は本当にありがとう」 「は?」  あたりを忙しなく見渡していた真司は、突然発せられたデート終わりの一言のような発言に、思わずぶっきらぼうな言葉を返した。  それに暦はバツが悪そうに、そして恥ずかしそうに訂正を入れた。 「だって、掃除とかノートとか。今日まで話したことなかったのに、色々助けてくれたし……」 「はあ。どういたしまして」  暦の発想は至極真っ当なもので、真司の真意を知らなければ今までの行動は奇行であり親切でもある。 「古賀君って、部活入ってないの?」 「うん。親に入るなって言われてるし、中学の時に雰囲気悪くなるって、ずっとベンチだったから」 「そ、そうなんだ……」  信号が点灯する横断歩道を渡るのを諦めれば、自然と足も止まり会話も止まる。  暦がそれに対して居心地の悪さを感じていることに、流石の真司も気が付いてはいたが、そこにまで気を配る余裕はない。 「あの、」  暦がそう口を開いたと同時に、全てが始まる。  まずは空から植木鉢が落ちてくる。理由は不明だが、恐らく風かなにかだろう。 「きゃあ!?」  真司が暦の腕を思いっきり引くと、間一髪と言ったところで植木鉢は地に叩きつけられた。  その後にトラックがこちらに突っ込んでくる。理由は不眠症によるスリップ事故。運転手の会社は最近流行りのブラック企業である。 「古賀君! 危ない!」  真司の前に暦が立ちはだかり、そして真司は突き飛ばされた。  暦は絶対に真司を庇う。これを変えるのは容易ではない。  トラックが派手な音を立てて郵便局に衝突するのと、暦がオデコからコンクリートに激突するのは、ほぼ同時だった。 「いったぁ……!」  横転とともに真司が暦の腕を引いたせいで、地面に額をぶつけた暦は涙目で額を抑えこんでいる。  間一髪といったところでトラックを避けた二人に、周りの通行人が集まってくる。  救急車や警察といったのはそういった人に任せて、真司はここで暦に真実を告げることにした。 「君は本来ここで死ぬ予定だった」 「はい?」  暦は目を丸くする。今ののショックで頭がおかしくなったのかと言わんばかりだ。 「端的に言うと君は呪われていて、このままいけば一週間以内に死ぬ」 「え? えっと、大丈夫? 頭打ってない?」 「打ってない! 打ったのは君だろ!」  真司が視線を目から額に移すと、そこは血に濡れていて、ダラダラと赤い液体が地に落ちた。 「……血、出てるよ。凄い、出てる」  真司がそう暦の額を指さすと、暦はその通りに額に手を当てた。 「えっ!? なにこれ!? りょ、量すごくない!?」  強く引っ張りすぎたな、と真司が後悔してから随分遅れて、ようやく救急車は到着した。
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