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2隣の席の彼女
頭というのは皮膚が薄く血管が表面に近いため、少しの擦り傷でも大量の血が出るらしい。というわけで、暦の傷は血のわりには浅く、ただの擦り傷だったらしい。
それを真司が知ったのは事件の翌日の朝だった。
「思ったより平気そうだな」
女子に囲まれ質問責めにあっていた暦に、真司が遠慮なく話しかけたせいで、暦を取り巻いていた女生徒達は眉を潜めた。
「う、うん。心配かけてごめんね」
突き刺さる視線に耐えかねて、真司が隣にある自席に戻ると、声をひそめてながらも彼女たちは会話を再開させた。
「え? 暦、古賀くんと仲いいの?」
「な、仲良くないよ! 昨日、ちょっと掃除手伝ってくれて……」
暦は慌てて手と首を横に振り、全身で否定を表す。
そこまで否定しなくても、と真司は少しムスッとしながら、一限の準備を始める。
「そうなの? 確かに教室と廊下すごい綺麗な気したけど……」
「てか昨日ごめんね! もうすぐ大会だから顧問がうるさくてさー」
「う、ううん。大丈夫だよ。私、部活入ってなくて暇だから」
「本当? じゃあさ、本当に悪いんだけど、今日も変わってくれたりしない?」
今度は断れよ、という念を込めて真司は暦に視線を送った。
「うん。大丈夫だよ」
けれど、その願いは届かずに暦はあっさりとその願いを受け入れる。
「え、本当! 本当にごめんね! 大会終わったらなんかおごるから! 本当に!」
一人がそう捲し立てるとともに予鈴がなり、暦の周りにあった人混みはバラバラに散らばっていった。
解放された暦が少し安堵の表情を浮かべたのを見て、真司は深いため息をついた。
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