2隣の席の彼女

4/6
前へ
/9ページ
次へ
 あの惨劇の後、特になにも言葉を交わすことなく暦と別れた真司は、眩しい西日を避けるように頭を下げながら家へ帰った。  ドアを開けると、玄関の中央に置かれた黒い革靴に、父親の存在を察してため息をついた。  靴を揃えて、手を洗い、鞄を置く。そんな一連の動作にも神経を巡らせ、真司は父親が居るであろうリビングへと向かった。 「遅かったな」  父親は新聞紙から顔を上げないまま、そう言った。 「……掃除があったんで」 「お前ももう高校生だから、細かいことを言うつもりはないが、勉強はしっかりやってるんだろうな?」 「一応、まあ」 「お前の高校の指定校なんてタカが知れてるからな……。内申よりも予備校を優先しなさい」 「分かってる。もういい? 宿題とか予習とかやりたいんだけど」  宿題も予習も今日はやるつもりはなかったが、一番都合の良い文句として引き出した。 「そうだな。今日はお前の好きなオムライスを母さんが作ってくれるらしい。受験には体力も大事だからな」 「うん。ありがとう」  真司はそう言って、父親に背を向けた。  オムライスが好きなのは真司ではなく優人だという事にすら、父親はまだ気がついてもいないのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加