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あの惨劇の後、特になにも言葉を交わすことなく暦と別れた真司は、眩しい西日を避けるように頭を下げながら家へ帰った。
ドアを開けると、玄関の中央に置かれた黒い革靴に、父親の存在を察してため息をついた。
靴を揃えて、手を洗い、鞄を置く。そんな一連の動作にも神経を巡らせ、真司は父親が居るであろうリビングへと向かった。
「遅かったな」
父親は新聞紙から顔を上げないまま、そう言った。
「……掃除があったんで」
「お前ももう高校生だから、細かいことを言うつもりはないが、勉強はしっかりやってるんだろうな?」
「一応、まあ」
「お前の高校の指定校なんてタカが知れてるからな……。内申よりも予備校を優先しなさい」
「分かってる。もういい? 宿題とか予習とかやりたいんだけど」
宿題も予習も今日はやるつもりはなかったが、一番都合の良い文句として引き出した。
「そうだな。今日はお前の好きなオムライスを母さんが作ってくれるらしい。受験には体力も大事だからな」
「うん。ありがとう」
真司はそう言って、父親に背を向けた。
オムライスが好きなのは真司ではなく優人だという事にすら、父親はまだ気がついてもいないのだ。
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