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でもね、冬休みの夜中にあたしたち天文部員が二人、高校の屋上に上がって天体観測しているというのは本当の話。
ほんとはあたしと部長の他にも天文部の部員は何人もいるんだけど、全員が全員、なにかしらの運動部とかけもちの幽霊部員なの。
そして、その幽霊ちゃんたちはその名に恥じぬほど、冬場は堂々と姿を見せない。じっとりと暑い夏(つまり空気が澄んでいなくて、あまり天体観測には向かない日)になったら物陰からちらっと出てきて、部室で静かに『月刊 GALAXY』なんかを読んでるあたしたちを驚かして帰って行くの。
あ、別に「わっ」とか「うらめしやー」とか言って驚かしてくるわけじゃないのよ。あたしと部長2人きりの静かな部室に、たまーにやって来てはにぎやかにくっちゃべって、そそくさと帰って行くヤル気のない人たち、って言いたいだけ。
あは、イヤミっぽいかな? 気を悪くしないでね。あたし、思ったことがすぐ口に出ちゃうだけで、裏はない人間だからさ。
おまけにね、顧問の先生まで、三つの文化部をかけもちしているもんだからやっかいなのよ。
なにがやっかいかって?
考えてもみてよ、例えば演劇部の発表の日と、科学館での宇宙イベントの開催日が同じだったらどうなると思う?
そう。正解。
先生はマイクロバスを借りて、大所帯の演劇部を会場まで送って行くの。もちろん一日中そっちに付きっきりでね。それで部員数が実質二人のあたしたち天文部は、公共バスで勝手に科学館でもどこでも行ってくださいね。ってことになるのよ。
そのおかげであたしたち、今までずいぶんと不便な思いもして来ました。
だからって先生を責めるのもかわいそうでしょ。
ネットニュースなんかによるとね、教員てブラックな職業なんだって。
ただでさえ大変なのに、文化部といえど三つも部活をかけもちさせられるなんて、これはもう、学校という組織がどうかしてるとしか思えない。
その証拠に、多忙さゆえに頭が回らないのかうちの顧問は、こんな夜中にあたしのようなうら若き乙女を、思春期真っただ中の年上男子と二人っきりで屋上に放置して、自分はそそくさと温かい缶コーヒーを買いに行ったりするのよね。まったく。
そんなわけで、あたしたち今、からっ風ふき荒ぶ一月の校舎の屋上で星を見ています。
いろいろ言ったけど、まぁ、この星紬部長となら例え闇夜で二人きりでも大丈夫。いわゆる安パイってやつ。
部長はあたしが見る限り、色より恋より三度の飯より星が好き、って感じ。変わってるでしょ。
だから間違っても、恐れ多くも神聖な部活動下において、暗闇を理由に部長とふにゃふにゃ、なんてことにはならないのです。
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