金色のちょうちょ

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——放課後。  いつもいっしょに帰る女の子が委員会だとかで、今日はひとりで帰った。大きく蛇行する土手の上を、ぽくぽくぽくぽく歩いて帰った。  赤トンボ、鈴虫、からす、……夕日がきれい。  わたしは、耳たぶをくすぐられているみたいに、かすかに笑っていた。こんなに落ち着いた、きれいな夕暮れを、わたしはのどのおくがすっぱくなるほど、愛しく感じた。 ……でもそのつぎ、ふいにわたしは、わたしの好きな男の子、知念郁生(ちねんいくお)が、日直で黒板を消しているうしろ姿を思い出した。  にわかに、わたしの顔から笑みが消える。 「…………」  どうしてなんだろう、さっきとはうって変わって、なにもかもがつまらないことのように思えた。自分は何をするわけでもない、ただ歳をとり、このままこんなつまらない自分のまま生きてゆく、ふいにそんな絶望的な気持ちにおそわれた。 「知念郁生なんて大っ嫌いよー!!」  意味もなく夕日に向かって叫んでいた。  叫んだそばから、恥ずかしくなって、顔が真っ赤になるのがわかる。 ……わたし、なにをやってるんだろう?  夜、弟とテレビゲームをしていて、大げんかをした。  ずるをしたとかしないとか、原因はささいなことことだったけれど、つっかかる弟にわたしは頭ごなしに怒鳴った。 「バカチビたんそく、でこ! ガキのくせしてわたしにさからおうっての、おまえなんか割り算もろくにできないくせして、わたしになに文句いおうってのよ! 弟のくせして!」  弟はよほどびっくりしたと見え、口をわなわなとふるわせた。それでも瞳はわたしを睨んでいて、なにかわたしに対する悪口の言葉を探している。  バシン!  わたしは弟の頭を思いきりたたいた。  バシン! バシン!  ニ度、三度、四度、何回もつづけざまにたたいた。  が外れたように我も忘れて。 ——でもいったいなんのなのだろうか?わたしの中でなにがそんなにふくらみ張り詰めていたのだろうか? 弟をたたきながら、わたしはここではないもっとどこか別の場所で、冷静に考えていた。  弟はわんわん泣いた。もうくしゃくしゃになって、顔中、涙で濡らして泣きしゃぐった。  わたしははっとした。自分がなにをしているのか、目の前の弟がどうなっているのか、やっと気づいた。しかし今さらどうしようもなかった。わたしは弟を残して自分の部屋へ逃げ帰った。
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