金色のちょうちょ

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 悲しくて泣き出したい夜だった。  思春期は気持ちが不安定だというけれど、本当だ。  今日のわたしは朝から変だった。  朝、食パンにジャムをつけていたら、なんだか、ろこつに嬉しくなった。  フワフワの白いパンの地に、イチゴの種の混ざった真っ赤なジャムをのせる。ペタペタ、ペタペタ。それを口の中に入れたときの喜びを思うと、ゆかいでしょうがない気持ちになる。実際パクリと口の中にほおると、口の中をうるおすジャムの甘み、パンのムンニャリとした歯ごたえがわたしに至福をあたえた。  わたしは涙を流していたのだ。 「なんておいしいの! なんて愛しいジャムパンかしら! もうたくさんたくさん食べちゃうから」  母と弟があきれ顔をしているのもなんのその、わたしは今朝、十枚ものジャムパンを食べた。  学校ではお友達のまゆちゃんを見ているだけで、どうしてなのか、した。  まゆちゃんが、ふざけてわたしをうしろから抱きしめたり、授業中、髪を引っぱったり、「バーカ」とおどけて笑ったりするのが、どうしようもないほど嬉しかった。まゆちゃんのクリクリとした目をまともに見れなかった。  ところがノートの切れはしに〈陸郎(りくろう)君、髪型変えたね!! とってもステキよね、かっこいい♡〉こう書いてよこすと、わたしはわけもわからず不機嫌になった。さっきまであんなに愛らしく見えたまゆちゃんが、急に、憎たらしく、本当に顔をひっかいてやりたいほど、キライになった。 〈いけないわ、まゆちゃんは女の子でわたしだって女の子なんだから。女の子同士で恋をするなんて。……キャー! なんととんちんかんな、そんなわけあるかい!!  わたしだってほかにちゃんと好きな男の子がいるんだ。まゆちゃんは生涯の親友であって、それ以外のなにものでもないんだから〉  頭ではわかっていても、実際わたしは、今日、まゆちゃんに変にあたっていた。  やさしいまゆちゃんは、心配そうにわたしのことを見ていた。
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