恋と手紙と君と僕

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 *** 「パパー」  日曜日。  また朝ごはんを作ったのに、妻とは口をきけないまま。貰った手紙を持ったまま食卓で沈没していた僕に、耐え兼ねてか娘が口を開いた。 「いい加減、うざいよ?」 「雪音(ゆきね)ちゃーん?なんでそんなに辛辣なのかな?あとそんな言葉覚えなくていいからねー」 「そういうのがうざい。パパ、なんでぜんぜん気づかないかなあー」  小一であるというのににょきにょき背が伸び、非常におしゃまに育ってしまった少女は。しょんぼりしている僕の顔を覗きこんで、呆れたように告げたのだった。 「ママと、仲直りしたいんでしょ?そう思ってるのがもう間違ってるとあたし思うんだけどー」 「……ドユコト?」 「ママ、風邪ひいてる。声がぜんぜん出なくてこまってるの」 「……はい?」  え、風邪?僕はぽかん、としてむすっとした顔の娘を見た。そういえば、先週から部屋にこもりがちの妻。部屋から出てくる時間を最低限に抑えている。ひょっとしたら趣味のネットサーフィンをしていたわけではなく、風邪をひいて寝込んでいたのではないか。思えば、何故昨日も今日も着替えてから部屋を出てくることもなく、朝食をパジャマ姿で食べていたのか。すぐに寝るつもりだった、と考えれば合点がいく。  もっと言えば。今こうして思い返してみると、彼女は娘とも殆ど言葉を交わしている様子が見えなかったではないか。怒っているのが僕一人だけならば、娘とは普通に口を聞いてもいいはずだというのに。 「そんなに、悪かったの?具合」 「お熱はないって。でも声ひどいし、心配かけるからしゃべらないようにしてるんだって」 「……マジか」  なんでそんな簡単なことにも気づかなかったのか。僕はがっくりと肩を落とす。家事をやろうとした、ことそのものは間違いではないだろう。でも多分、彼女が一番欲しかったものは“具合が悪いことをなんとなく察して欲しい”という、それだけのことだったのではないか。  いや、あるいはそれだけではなくて。 ――これ。涼音のお気に入りの便箋、なんだよな。  僕はついさっき受け取った、ポムポムプリンの便箋をもう一度見つめる。
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