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『私から、愛しいあなたへ。
今日もあなたを待っています。あの恋人の桜の木の下に私はいます。
どうか私に会いに来てください。
ひなこ』
『私から、愛しいあなたへ。
あなたに会いたくてたまらない。早くあの恋人の桜の木の下に私を迎えに来て。
お願い私を抱き締めて。
ひなこ』
『私から、愛しいあなたへ。
あなたが忙しいのはわかっています。それでも私はあなたに会いたい。
今日もあの恋人の桜の木の下で、ずっと待っています。
ひなこ』
『私から、愛しいあなたへ。
寂しい。私のこと、嫌いになっちゃった?
あなたに会いたいのは私だけなのですか?
ひなこ』
『私から、愛しいあなたへ。
つらい。ひとりぼっちで今日も桜の木の下で待たなくてはいけないの?
どうして私に会いに来てはくれないの?。
ひなこ』
――うーん……。
流石に、手紙が一週間も続くと気の毒な気持ちになってきた。どうやらこの手紙の女性は、間違えた下駄箱にラブレターを入れてしまっていることにまだ気がついていないらしい。今時、メールでもLANEでもなく手紙で想いを伝えたがるいじらしさには好感が持てるだけに、その切実なメッセージが心苦しくてならなかった。
どうにか、彼女に間違いを伝えてやれないものか。
下駄箱に返信の手紙を入れておくことも考えたが、彼女が気付いて手にとってくれるとは限らない。そもそも私の下駄箱は一番上の段で、そこそこ長身の私でさえ背伸びをして上履きを取り出している状態だ。私より小さな少女なら、背伸びやジャンプをしてやっと手紙を投げ込むのが限界だろう。返信の手紙の存在を知ることさえ難しいかもしれない。
――直接会って、伝えるしかないかな。
よし、と私は思い立ち、塾がない日の放課後に手紙を持ってその場所に行くことにしたのである。
恋人の桜の木。そう呼ばれている場所がどこにあるのかは知っているのだ。
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