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第3話 元社畜、世界観を説明し、定時退社する
20XX年、突如世界各地と異世界「シルヴェスターランド」がゲートで繋がるという事件が発生した。
未知との遭遇に混乱する各国であったが、異世界に言葉の通じる人間型の種族が住んでいることが判明し、急遽召集された国際連合臨時総会により平和的な交流を図っていくことが決定される。
各国はこぞって「シルヴェスターランド」の国々とFTA(自由貿易協定)を結び、新たなフロンティアへの大投資時代が始まるはずだったのであるが…あまりに大きな技術レベルの差と魔導の存在、なによりエーテル粒子の影響で電子機器、電波通信の利用が大幅に制限されたことから当初の盛り上がりは息をひそめ、電子機器を使用しない旧型の内燃機関を輸出し、希少資源を輸入するといった、限定的な交流にとどまっていた。
そんな中、日本からゲートがつながったのがツキア皇国である。
ツキア皇国は日本と同じ立憲君主制を敷く島国で、人々のメンタリティも似ており、民間の交流は大いに進んだのであるが、ツキア皇国は山がちな国土を持つため資源が少なく、当初日本が期待したような貿易はできていない。
日本からは船舶技術、自動車・鉄道技術などを輸出するが、皇国の交通網はいまだ未整備であり、普及は進んでいない。それならばとIT技術者やコンテンツ産業、果ては外食チェーンや神職まであらゆる業界から専門家を募り、国家プロジェクトとして模索しているのであるが、いまだ成果は芳しくない。
直也が所属するIT企業NDKテクノロジーも今年度在皇国オフィスを開設、ローウェル皇立学院と産学共同チームを組織し、IT技術からのアプローチを続けているのではあるが…ネット回線を敷こうとするだけでこのざまである。
「ーーーちょっとナオヤ、聞いてる?」
「おおすまん、ミナミバンドウイルカの生態についてだったな。奴ら、排水溝でオナ〇ーするらしいぞ。びっくりだな」
「まさかの下ネタ!?」
ウィキ的な説明台詞を頭の中で思い浮かべていたらナチュラルにセクハラをしてしまった。いかんいかん、最近はコンプライアンスが厳しい時代である。自重が必要だ。
「先輩が自重してた時ってありましたっけ?」
「…なんか頭痛がしてきたわ」
淳とマルティナの誉め言葉を聞きながらふとPCの時計を見る。
「おおいかん、もう定時になってしまう。おい、淳、帰るぞ」
気が付けば窓の外は夕焼けのオレンジに染まっている。俺は手早く帰り支度をすると淳に声をかける。税金をもらっている以上、オーバーワークは厳禁なのだ。
「あら、もう帰るのね。良いんだけど、今月末の定期成果報告会、忘れないでよね。そろそろ成果を出さないと私の単位も危ないの」
「ああ、分かっている。マルティナ、お疲れさま」
「マルティナちゃん、お疲れ様っす!」
「お疲れさま、ナオヤ、ジュン」
笑顔で手を振ってくれる。挨拶をきっちりできるのは良い奴である。
俺と淳はオフィスを施錠すると、「ゲート」に向かった。
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